1)
何か、冷たいものが、顔に当たった―――
アイリスは、静かに目を覚ました。
洞窟の天井につららのように垂れ下がった岩から、水滴が落ちて、アイリスの頬を濡らす。
何だか、長い夢を見ていたようで、脳の芯から痺れが来るような朦朧とした意識で、唯一
の光源ともいえる方向を眺めると、石碑がぼぉっと仄かに発光している。
ふと、彼女の左脇に視線を向けると、青白く血の気を失ったシスターが、横たわっていた。
ぼぉっと焦点が定まらなかったアイリスの意識が、シスターの姿を視界にとらえた途端。
「 ちょっ!シスター!」
覚醒した。慌てて、シスターの胸元、心臓の位置に耳を当てる。
「 そ、そんな…。」
その事実に愕然としながらアイリスは、何か、手はないかと足掻きはじめる。
2)
しばらくすると、人の足音が、ちょうど、洞窟の入り口の方向から響いてきた。
「 アイリスッ!」
タッタッタっと、足早に近づいてきた少女が、アイリスの名前を呼んで、
ぎゅっと抱きしめた。抱きしめられたことに、びっくりして、発光する黄色い風船に
照らされたその少女の顔を見て、二度、驚いた。彼女の学友のクオラだったからだ。
「 なんで、落ちこぼれの貴女が?」
つい、出会ったころの上から目線の口調で、クオラに尋ねるが、彼女の態度を
スルーして、生きててよかったと泣きじゃくっている。
「 あぁ、もぉ。わかったから。泣かないで、説明して。」
「 ん…。じゃあ、説明するよ。」
アイリスが、クオラから聞いたのは驚くべき内容だった。
「 なるほど…。私が、行方不明になっていると聞いて探しに来たと…。
じゃあ、私たちは、そのズミューアって竜に、魂だけ取り込まれていたという訳ね。」
まる一週間、互いの首で争っていたズミューアに、今日、異変が起きた。
空を飛んでいたカノンフリューゲルが、ズミューアの真上に墜落して、共に炎上したので
ある。炎は、森にも引火し、炎上した。墜落現場にはクレーターが穿ち、酷い山火事だった
そうだ。鎮火した後、墜落現場に行ったクオラたちは、機械の破片と炭化したズミューアを
見つけた。失意のまま、その場で立ち尽くしていると、ズミューアが発光して、大気に溶けるように消失していった。何事か起こったかと思って、ここまでクオラたちは戻ってきたのだそうだ。カノンフリューゲルの事故の話が出たときに、アイリスの瞳に、一筋の涙が伝った。なるほど、シスターが黙っていたはずだ。
「 シスターも、ほんと、お人よしなんだから…。」
真実を知ることが幸せに繋がるとは限らない。
あらためて、アイリスは、シスターに感謝して、思い出す。
「 そうだ、シスターは?」
クオラも、今更ながら気づいたようだ。
「 石碑の陰に横たわってるわ。」
悔しそうに、アイリスは、クオラにシスターの居場所を教えた。
「 眠っているの?」
青白い表情のシスターが、石碑の陰に横たわっていたので、クオラは
彼女が持っている風船、タフィに尋ねる。
( いえ…。残念だけど、鬼籍に入っているわね。たぶん…。)
アイリスが、傍にいるので、念話でタフィが返事を返してきた。
「 ねぇ、どうにかできない?クオラ。」
必死なアイリスは、隣で無茶ぶりをクオラに言う。
( ねぇ?タフィ。風船魔法に、蘇生魔法ってないの?)
いつもになく必死なアイリスの姿に、クオラは打たれ、タフィに念話で相談する。
すると、あっさりとタフィは、解答を提示してきた。
( あるわよ。一応。でもね…。)
「 あ…あるのっ!」
クオラは、驚きすぎて、つい大声を出してしまう。
その声に驚き、ゆっくりと中二病患者を診る生暖かい視線をクオラに送ったのが、
アイリスだった。
「 あ、あるのって?何が?」
「 シスターを救う方法?」
「 ぃあ、あたしに聞かれても。」
「 …デスヨネェ。」
クオラが、バツが悪そうに照れていると、くすくすと笑う声がする。
クオラとアイリスは、声がした方向に、すなわち、石碑の陰の方向に振り向いた。
3)
夏休みも半ばのある日。親友を出迎えたリルルは、玄関で呆れていた。
「 ぇと?どういうこと?アイリス、それに…。」
リルルの館に、アイリスが遊びに来たまではいい。毎年のことだからだ。
ただ、今年は違っていた。同伴してきた少女がいたのだ。
「 お邪魔します。リルルさん。」
ぺこりと、深々と彼女に挨拶をしたのは、街で説法をしていた少女だった。
アイリスと、犬猿の仲だったはずだが、いつの間にか、仲良くなっている。
「 あっ…。あたし、ニュベリア教に入信することにしたから。リルルもどうかなって。」
まぁ、確かに興味はあったし、二人が仲良くなれたのなら、リルルに言うことはない。
「 あの、あの、入信はいいですから、お友達になってもらえたらいいなと…。」
当の本人は、申し訳なさそうに、顔の前で、まぁまぁという感じで両手を広げて、
ひらひらと振っている。
「 ぇと、名前なんて言ってましたっけ?シスター。」
「 私は…。」
晴れやかな笑顔で、シスターは自己紹介をした。
【たぶん、つづく?】
何か、冷たいものが、顔に当たった―――
アイリスは、静かに目を覚ました。
洞窟の天井につららのように垂れ下がった岩から、水滴が落ちて、アイリスの頬を濡らす。
何だか、長い夢を見ていたようで、脳の芯から痺れが来るような朦朧とした意識で、唯一
の光源ともいえる方向を眺めると、石碑がぼぉっと仄かに発光している。
ふと、彼女の左脇に視線を向けると、青白く血の気を失ったシスターが、横たわっていた。
ぼぉっと焦点が定まらなかったアイリスの意識が、シスターの姿を視界にとらえた途端。
「 ちょっ!シスター!」
覚醒した。慌てて、シスターの胸元、心臓の位置に耳を当てる。
「 そ、そんな…。」
その事実に愕然としながらアイリスは、何か、手はないかと足掻きはじめる。
2)
しばらくすると、人の足音が、ちょうど、洞窟の入り口の方向から響いてきた。
「 アイリスッ!」
タッタッタっと、足早に近づいてきた少女が、アイリスの名前を呼んで、
ぎゅっと抱きしめた。抱きしめられたことに、びっくりして、発光する黄色い風船に
照らされたその少女の顔を見て、二度、驚いた。彼女の学友のクオラだったからだ。
「 なんで、落ちこぼれの貴女が?」
つい、出会ったころの上から目線の口調で、クオラに尋ねるが、彼女の態度を
スルーして、生きててよかったと泣きじゃくっている。
「 あぁ、もぉ。わかったから。泣かないで、説明して。」
「 ん…。じゃあ、説明するよ。」
アイリスが、クオラから聞いたのは驚くべき内容だった。
「 なるほど…。私が、行方不明になっていると聞いて探しに来たと…。
じゃあ、私たちは、そのズミューアって竜に、魂だけ取り込まれていたという訳ね。」
まる一週間、互いの首で争っていたズミューアに、今日、異変が起きた。
空を飛んでいたカノンフリューゲルが、ズミューアの真上に墜落して、共に炎上したので
ある。炎は、森にも引火し、炎上した。墜落現場にはクレーターが穿ち、酷い山火事だった
そうだ。鎮火した後、墜落現場に行ったクオラたちは、機械の破片と炭化したズミューアを
見つけた。失意のまま、その場で立ち尽くしていると、ズミューアが発光して、大気に溶けるように消失していった。何事か起こったかと思って、ここまでクオラたちは戻ってきたのだそうだ。カノンフリューゲルの事故の話が出たときに、アイリスの瞳に、一筋の涙が伝った。なるほど、シスターが黙っていたはずだ。
「 シスターも、ほんと、お人よしなんだから…。」
真実を知ることが幸せに繋がるとは限らない。
あらためて、アイリスは、シスターに感謝して、思い出す。
「 そうだ、シスターは?」
クオラも、今更ながら気づいたようだ。
「 石碑の陰に横たわってるわ。」
悔しそうに、アイリスは、クオラにシスターの居場所を教えた。
「 眠っているの?」
青白い表情のシスターが、石碑の陰に横たわっていたので、クオラは
彼女が持っている風船、タフィに尋ねる。
( いえ…。残念だけど、鬼籍に入っているわね。たぶん…。)
アイリスが、傍にいるので、念話でタフィが返事を返してきた。
「 ねぇ、どうにかできない?クオラ。」
必死なアイリスは、隣で無茶ぶりをクオラに言う。
( ねぇ?タフィ。風船魔法に、蘇生魔法ってないの?)
いつもになく必死なアイリスの姿に、クオラは打たれ、タフィに念話で相談する。
すると、あっさりとタフィは、解答を提示してきた。
( あるわよ。一応。でもね…。)
「 あ…あるのっ!」
クオラは、驚きすぎて、つい大声を出してしまう。
その声に驚き、ゆっくりと中二病患者を診る生暖かい視線をクオラに送ったのが、
アイリスだった。
「 あ、あるのって?何が?」
「 シスターを救う方法?」
「 ぃあ、あたしに聞かれても。」
「 …デスヨネェ。」
クオラが、バツが悪そうに照れていると、くすくすと笑う声がする。
クオラとアイリスは、声がした方向に、すなわち、石碑の陰の方向に振り向いた。
3)
夏休みも半ばのある日。親友を出迎えたリルルは、玄関で呆れていた。
「 ぇと?どういうこと?アイリス、それに…。」
リルルの館に、アイリスが遊びに来たまではいい。毎年のことだからだ。
ただ、今年は違っていた。同伴してきた少女がいたのだ。
「 お邪魔します。リルルさん。」
ぺこりと、深々と彼女に挨拶をしたのは、街で説法をしていた少女だった。
アイリスと、犬猿の仲だったはずだが、いつの間にか、仲良くなっている。
「 あっ…。あたし、ニュベリア教に入信することにしたから。リルルもどうかなって。」
まぁ、確かに興味はあったし、二人が仲良くなれたのなら、リルルに言うことはない。
「 あの、あの、入信はいいですから、お友達になってもらえたらいいなと…。」
当の本人は、申し訳なさそうに、顔の前で、まぁまぁという感じで両手を広げて、
ひらひらと振っている。
「 ぇと、名前なんて言ってましたっけ?シスター。」
「 私は…。」
晴れやかな笑顔で、シスターは自己紹介をした。
【たぶん、つづく?】