Stelo☆ panero

変態ですがよろしくお願いします。更新は気分次第、気の向くままに。新題名は、エスペラント語で、星屑という意味だったり。

【風船魔導士 クオラ】 第十二時限目 弱肉強食とかヒトが決めた枠組みですから6~和解

2016-08-19 15:55:40 | 妄想小説
1)
 何か、冷たいものが、顔に当たった―――

 アイリスは、静かに目を覚ました。
 洞窟の天井につららのように垂れ下がった岩から、水滴が落ちて、アイリスの頬を濡らす。
 何だか、長い夢を見ていたようで、脳の芯から痺れが来るような朦朧とした意識で、唯一
の光源ともいえる方向を眺めると、石碑がぼぉっと仄かに発光している。
 ふと、彼女の左脇に視線を向けると、青白く血の気を失ったシスターが、横たわっていた。
 ぼぉっと焦点が定まらなかったアイリスの意識が、シスターの姿を視界にとらえた途端。

  「 ちょっ!シスター!」

 覚醒した。慌てて、シスターの胸元、心臓の位置に耳を当てる。

 「 そ、そんな…。」

 その事実に愕然としながらアイリスは、何か、手はないかと足掻きはじめる。

2)
  しばらくすると、人の足音が、ちょうど、洞窟の入り口の方向から響いてきた。

 「 アイリスッ!」

 タッタッタっと、足早に近づいてきた少女が、アイリスの名前を呼んで、
ぎゅっと抱きしめた。抱きしめられたことに、びっくりして、発光する黄色い風船に
照らされたその少女の顔を見て、二度、驚いた。彼女の学友のクオラだったからだ。

 「 なんで、落ちこぼれの貴女が?」

 つい、出会ったころの上から目線の口調で、クオラに尋ねるが、彼女の態度を
スルーして、生きててよかったと泣きじゃくっている。

 「 あぁ、もぉ。わかったから。泣かないで、説明して。」

 「 ん…。じゃあ、説明するよ。」

 アイリスが、クオラから聞いたのは驚くべき内容だった。

 「 なるほど…。私が、行方不明になっていると聞いて探しに来たと…。
じゃあ、私たちは、そのズミューアって竜に、魂だけ取り込まれていたという訳ね。」

 まる一週間、互いの首で争っていたズミューアに、今日、異変が起きた。
 空を飛んでいたカノンフリューゲルが、ズミューアの真上に墜落して、共に炎上したので
ある。炎は、森にも引火し、炎上した。墜落現場にはクレーターが穿ち、酷い山火事だった
そうだ。鎮火した後、墜落現場に行ったクオラたちは、機械の破片と炭化したズミューアを
見つけた。失意のまま、その場で立ち尽くしていると、ズミューアが発光して、大気に溶けるように消失していった。何事か起こったかと思って、ここまでクオラたちは戻ってきたのだそうだ。カノンフリューゲルの事故の話が出たときに、アイリスの瞳に、一筋の涙が伝った。なるほど、シスターが黙っていたはずだ。

 「 シスターも、ほんと、お人よしなんだから…。」

 真実を知ることが幸せに繋がるとは限らない。
 あらためて、アイリスは、シスターに感謝して、思い出す。

 「 そうだ、シスターは?」

 クオラも、今更ながら気づいたようだ。

 「 石碑の陰に横たわってるわ。」

 悔しそうに、アイリスは、クオラにシスターの居場所を教えた。

 「 眠っているの?」

 青白い表情のシスターが、石碑の陰に横たわっていたので、クオラは
彼女が持っている風船、タフィに尋ねる。

 ( いえ…。残念だけど、鬼籍に入っているわね。たぶん…。)

 アイリスが、傍にいるので、念話でタフィが返事を返してきた。

 「 ねぇ、どうにかできない?クオラ。」

 必死なアイリスは、隣で無茶ぶりをクオラに言う。

 ( ねぇ?タフィ。風船魔法に、蘇生魔法ってないの?)

 いつもになく必死なアイリスの姿に、クオラは打たれ、タフィに念話で相談する。
 すると、あっさりとタフィは、解答を提示してきた。

 ( あるわよ。一応。でもね…。)

 「 あ…あるのっ!」

 クオラは、驚きすぎて、つい大声を出してしまう。
 その声に驚き、ゆっくりと中二病患者を診る生暖かい視線をクオラに送ったのが、
アイリスだった。

 「 あ、あるのって?何が?」

 「 シスターを救う方法?」

 「 ぃあ、あたしに聞かれても。」

 「 …デスヨネェ。」

 クオラが、バツが悪そうに照れていると、くすくすと笑う声がする。
 クオラとアイリスは、声がした方向に、すなわち、石碑の陰の方向に振り向いた。

3)
  夏休みも半ばのある日。親友を出迎えたリルルは、玄関で呆れていた。

   「 ぇと?どういうこと?アイリス、それに…。」

  リルルの館に、アイリスが遊びに来たまではいい。毎年のことだからだ。
  ただ、今年は違っていた。同伴してきた少女がいたのだ。

   「 お邪魔します。リルルさん。」

 ぺこりと、深々と彼女に挨拶をしたのは、街で説法をしていた少女だった。
 アイリスと、犬猿の仲だったはずだが、いつの間にか、仲良くなっている。

 「 あっ…。あたし、ニュベリア教に入信することにしたから。リルルもどうかなって。」

 まぁ、確かに興味はあったし、二人が仲良くなれたのなら、リルルに言うことはない。

 「 あの、あの、入信はいいですから、お友達になってもらえたらいいなと…。」

 当の本人は、申し訳なさそうに、顔の前で、まぁまぁという感じで両手を広げて、
ひらひらと振っている。

 「 ぇと、名前なんて言ってましたっけ?シスター。」

「 私は…。」

晴れやかな笑顔で、シスターは自己紹介をした。

【たぶん、つづく?】

【風船魔導士 クオラ】 第十一時限目 弱肉強食とかヒトが決めた枠組みですから5~解答

2016-08-18 15:46:11 | 妄想小説
1)
 タフィは、クオラに納得してもらい、満足げに縦に身体を揺らした。

 「 その通りよ。解毒の風船魔法を教え…。」

言いかけた言葉を飲み込んで、今度はその身を、宙を見上げるように縦に揺らした。

 「 どうしたの?」

 タフィに釣られて、クオラも天を仰ぎ、絶句する。
 荒れ狂う天候のせいで気づかなかったが、一機のカノンフリューゲルが、制御不能になったらしく、毒を受けて、朦朧としているズミューアを目がけて墜落しているではないか。
 確か、あの飛行体のエンジンには、魔素を効率よく圧縮し、推進力に変えるため、国家機密の何かが使われていると、現在、傍らで気絶しているクオラの親友は、言っていなかったか?
 一抹の不安を感じ、クオラとタフィは、洞窟の奥へと退避していった。

2)
 アイリスは、突然、倒れこんだシスターに、慌てていた。

 「 ど、どうしたのよ?いったい。」

 シスターに近寄ろうとするアイリスにも、胸に痛みが走る。

 「 つっ!」

 「 どうも…、ど…くに…。私…たちっ。」

 途切れ途切れの声で、シスターは、アイリスに危機を伝えた。

 「 毒?なんで?」

 そんなもの受ける機会もなかったのに、二人同時に毒を受けるとか、疑問しか浮かばない。

 「 あ、危ないっ!」

 呆然とするアイリスに、ふらふらのシスターが、突然覆いかぶさる。

  (えっ?何?何?)

 アイリスが、戸惑うよりも早く、空間自体が激しく揺れた。

3)
 激しい揺れが、洞窟の中のクオラとタフィにも伝わってきた。
 
 「 あ、アイリス。シスター。」

 この揺れでは、いくらズミューアとはいえ、ひとたまりもあるまい。
 心配になったクオラは、洞窟の入口へと駆け出した。
 クオラが洞窟の入り口に近づくにつれ、激しい熱波が押し寄せてくる。
 クオラが目にしたのは、森を焼き尽くすほどの山火事と、巨大なクレーターだった。

4)
  シスターの速い心音を聞きながら、アイリスの視界は、未だに闇の中にある。
  だから、何かから自分を守るように四つん這いに覆いかぶさったシスターに
必死の思いで、尋ねてみた。

   「 ねぇ?何があったの?あなたには、外が見えてるのでしょう。教えて。」

  外で何か危ないことが、アイリスに起きそうになって、毒を受けて瀕死のシスターが
自分を庇ったのだろうということくらいは、理解できる。
それなのに、シスターは、無理に笑顔を作ってるのだろうけれども、そんな苦労を微塵も
見せない微笑みを浮かべて、

   「 ふふふ。それより、大丈夫ですか?アイリスさん。」

 などと小憎らしく、アイリスに問い返してくる。

  「 大丈夫ですか?って、それは、私のセリフでしょ?
謝るから。ちゃんと謝るから。
私、兄が心血を注いで、実用化したカノンフリューゲルを、
兵器扱いされたことが嫌だったの。
平和利用しようと頑張ってた努力も知らないでって意地になっていたの。
ごめんなさい。」

 いつしか、アイリスの瞳も潤んでいた。そんなアイリスを、力ない視線でなぞりながら、
本当に申し訳なさそうに、シスターは謝罪した。

  「 アイリスさん、私こそ、ごめんなさい。私、言い過ぎたみたいです。」

 シスターは、アイリスと言い争いながらも、アイリスが怒るポイントが、自分が思っている議題と大きく異なっているということに気づいていた。が、核心が掴めなかった。
 それが、今のアイリスの科白で、理解できた。だからこそ、シスターは、こう続ける。

 「 私も深く事情を知らず、安易に批判してごめんなさい。
それと、な…、何があったかは、やっぱり、言え…ません。」

要は、知り合いが発明した乗り物を、シスターが悪しざまに言ったことが気に食わなかったということのようだ。故に、それが原因で、今の状況があるのは、アイリスが傷つくだろうことは、安易に想像できた。心底、心配げなアイリスに、弱々しい笑みを見せながら、
今度こそ、シスターは、脱力したようにアイリスに覆いかぶさった。
 そんなシスターを、抱きしめるように受け止めたアイリスは、

 「 ちょ…。しっかりしなさいよ。弱肉強食は、人が作った理屈なんでしょう。」

 今まで、頑なに固辞して反対していたシスターの意見を容認する発言をしていることに、
恐らくは、気づいていない。

 「 助けて頂いて、ありがとうございます。
わ…、私は、弱いものが虐げられ、強いものが恣意を通す世の中が、
気に入らなかっただけですよ。ただの我儘です。それに…。」

 「 それに?」

 「 私、わかったんです。これは、命の…。」

 シスターは、何かを言いかけて、静かになった。
 アイリスは、絶句する。
身体が密着したことで、より強く伝わっていたシスターの鼓動が―――

4)
 ふぅふぅふぅ…

 クオラは、洞窟の中で、巨大な青い風船に息を込めていた。

  「 これで、山火事は鎮火しそう?タフィ。」

  「 うん、それだけ大きければ充分よ。後は…。」

  「 ズミューアの中の二人だね…。」

 クオラは、苦しそうに胸を押さえながら、タフィを頼るような視線で、

  「 でも、あのクレーターじゃあ…。」

  「 うん、とりあえず、外に…。」

 大事そうに、青い魔法の風船を抱えながら、クオラたちは外に出た。
 迫りくる熱気に耐えながらも、青いゴム幕に浮かぶ、森緑の魔法陣の中央に、
クオラは呪文を唱えながら、軽く口づける。

 「 フォリッジ・スコール。」

ふわりと宙に風船は浮かび、天高く舞い上がったところで、星のように青白く輝いた。
 そこから発せられた光は、森を覆いつくすように、天空に巨大なフォリッジグリーンに
煌く魔法陣を刻んで、スコールを降らせた。雨が降りやむと、山火事が鎮火して、なおかつ、
壊滅的だった森林地帯が、完璧に元の状態に戻っていた。

 「 さすが、私の後継者ね。」

 タフィは、満足げに周囲を見渡すと、クレーターが開いた場所へと、ふわふわと漂って
いく。クオラも、タフィの脇に、歩を進めた。

 「 ねぇ。二人とも無事かなぁ?」

 一応、彼女たちの肉体は、石碑のある場所に寝かせてある。

 「 わからない。結構、時間を食っちゃったし。」

 しばらく、森の奥へと進んでいくと、大地にぽっかりと広いすり鉢状の穴が開いている
場所へと出た。その爆心地と見られる、穴の中央には、機械の残骸らしき破片と、消し炭に
なった巨大な動物の遺体が横たわっている。

 「 右の首が、左の首を庇うようにして、炭化しちゃってるわね。」

 近くに寄って観察していたタフィが、残念そうに、クオラに言った。

 「 じゃあ…。二人は?」

 タフィは、ふるふると悲しそうに、風船の身を揺らした。

 「 そんな…。」

 愕然として、膝から崩れ落ちるクオラ。
 慰めようと、彼女にすり寄ろうとするタフィは、ズミューアの異変に気付き、

 「 あれ?」

 と、声をあげる。クオラは、光を失った瞳を、タフィの視線へと合わせた。

【つづく】

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                  

【風船魔導士 クオラ】 第十時限目 弱肉強食とかヒトが決めた枠組みですから4

2016-08-16 21:04:29 | 妄想小説
1)
 雷が激しく鳴る暴風雨の中で、未だに、ズミューアは、左右の首同士で争っていた。
 もう、まる一日は争っている。クオラは、ズミューアを見ていることに飽きたので、雨宿りをしている洞窟を散策してみることにした。
 黄色の魔法の風船を、ぷぅぷぅとふくらまして、光の魔法を発動させると、松明代わりに光って浮かんでいる風船を手に、奥へと歩を進めてみる。

  「 魔物は、いないみたいね。タフィ。」

  「 たぶん、ズミューアを恐れて近寄ってこないのよ。左の首の牙には猛毒があるし、天候も操れるしね。」

  「 ふぅん…。あれ?石碑かな?」

 近寄ってみると、石碑には文字が記されているようだが、クオラには読めない。だが、タフィには読めたみたいで。

  「 ふぅん、この森に来たりし、相違う者…

 うんうんと、クオラは、タフィの話を聞きながら、何気に石碑の裏を覗いてみると、

  「 あっ!」



  と、大声をあげた。


  「 …裁きの竜の双首となりて、死をもって、罪を問わん…って書いてるわね。って、何よ?!大声だして。」

  「 たふぃ、石碑の陰に、アイリスとシスターが…。って、今なんて言ったの?」

 お互いに、驚いた声を出して見つめあうタフィとクオラ。

  「 裁きの竜の双首となって、だよ。」

 青ざめた顔で、死んだように眠るアイリスとシスターの身体を見ながら、タフィはクオラに告げる。

  「 違う、その続きよっ!」

 いつになく、慌てた様子でクオラはタフィに詰め寄った。

  「 ぇと、死をもって、罪を問わん、だったっけ?え?つまり…。」

  「 あの、外で争っているズミューアは、この子たちってこと。」

 クオラは、そう断言する。しばらく間を開けて、タフィは重い声で言った。

  「 やばいわね。止めないと…。お姉さん、冷や汗でてるわ。
    ほっとけば、死ぬまで争い続けるわよ。」

  「 どうやって、止めるのよ。竜の言葉なんか、話せないわよ。」

 二人で、重い空気を引きづりながら、クオラとタフィは、相談を重ねる。

2)
 アイリスとシスターが、裁断の森へと足を踏み入れたのは、クオラたちが行く数日前のことだった。
 シスターの案内で、洞窟の中へと入り、石碑の前に立った。どちらが正しいのか決めてもらいたくて、
伝説の裁断の森へと、判断を委ねたのだった。そうして、気づくと、闇の中で二人、口論していた。

 「 分からない人ですね、貴女は。どうして、そう争いに持っていくのですか。このテロ女っ!」

 「 テロ女って、なによ!この偽善者!強いものが、すべてを奪って何が悪いの!」

 「 少しは、弱者のことを考えてください!この冷血乙女!」

 「 れ、冷血って…。実現不可能な事を言って、脳内お花畑でいる夢見るおバカよりはましよ!」

 「 実現不可能じゃありません!弱肉強食は、なくすことはできます。」

 「 無くなるわけないでしょ。自然の摂理なのよ。摂理。無理って言ったら、無理なの!」

 「 無理じゃありません!」

 「 強情な子ねぇ。」

 「 貴女ほどじゃないですぅ。」

 と、いう具合にいつ終わるとも知れない論争を、彼女たちは続けていた。

3)

 ズミューアの首同士の争いは、未だに続いていた。

 「 はぁ~っ。どうしろっていうのよ。」

 再び、洞窟の入り口にクオラとタフィは戻り、未だに首同士争っているズミューアを見上げて、愚痴をこぼしつつも観察していると、あることに気付いた。
 それは、奇妙なことに、この森の中に開けた、この場所でしか異常気象は起きていないという事実だった。

 「 これは…。結界ね。結界を張って、左の首が発しているマイナスの影響を軽くしようとしている?」

 「 右の首が?」

 疑問でいっぱいの表情をして、クオラは、タフィに尋ねると、こくんと頷くように、
風船の身体を縦にゆらして、彼女は断言した。

 「 そう、右の首が。とは言え、それが分かったから、どうよ?って話なんだけど…。」

 タフィは、説明を続けようとして、急に首同士が静かになったことに感づいた。

 「 えっ。何?」

 クオラは、タフィが見上げる先に視線を移すと、左の首が右の首に噛みついていた。

 「 やばい、このままだと、毒がまわっちゃう。」

 「 右の首に?」

 「 そうだけど、よく考えてね?クオラ。」

タフィは、真面目な口調で顔に疑問符を貼り付けているクオラを諭した。

 「 よく考えてって…。」

 と言いながら、クオラはズミューアの全身を眺めまわし、重要な事に気付いて、
短く声を発する。

 「 あっ!身体で一つに繋がってるから、このままだと全身に毒が回っちゃう。」

 かなり危ない状況にあることに気付いたクオラは、それが分かったからといって、
どうにもならない事に気付く。だが、悪いことは続くものだ。

4)
 クオラたちが異変に気付く、その数時間前のこと、シスターがその異変に気付いたのは、
アイリスと言い合うだけ言い合った末に、このまま、がなりあっていても、埒を明けないと
思い、ひとまず、落ち着こうとしたときのことだった。
 ふぅっと、短く息をつき、改めて周囲を観察すると、妙なことになっている。

 「 えっ?!わっ?!」

 自分の視界が、横方向に、三百六十度、高い位置から、全方位に確認できている。
 足元を見ると、硝子張りの床にでも立っているかのように、心もとない。
 つまり、魔法も使わずに、生身で、森の中、宙に浮いていた。

 「 どうしたの?おかしくなった?」

 対面にいるアイリスが、訝し気な視線を、シスターに送っている。

 「 おかしくなってないし。てか、私、宙に浮いてるの。」

現状を素直にアイリスに報告するが、何かヤバい人を見る目に彼女はなって、すすすっと、
シスターから距離を置こうとして、アイリスも周囲の異変に気付いたようだった。

 「 あっ?あれっ?真っ暗じゃない。どこよ?ここ?」

 アイリスは、きょろきょろと周囲を見回し、先ほどとは一転して、不安げな表情をみせた。

 「 えっ?アイリスさんは、周囲が真っ暗に見えてるの?」

 「 えぇ。シスターは違うの?」

 シスターは、こくりと頷いて、宙に浮かんでると、改めて、説明をする。

 「 場所は、裁断の森で間違いないみたいだけど、なんで、外にいるのかしら?」

 「 さぁ?シスターに連れられて、洞窟の奥まで入ったことは覚えてるけど。
   とにかく、外の様子は分かるのね。シスター。」

 「 えぇ。なんか、すごいことになってるわよ。天気が。」

 どうやら、急にゲリラ豪雨が降ったかと思えば、カンカン照りの晴れ間になったり、
かと思えば、北国かと思えるほどの豪雪が降ったり、とにかく、乱れ切ってるらしい。

 「 いったい、私たち、何に巻き込まれているのよぉ。」

 アイリスが、頭を抱えて悩みだすと、再び天候が変化して、滝のような雨が降り出した。

 「 それを考えるんでしょ?しっかりして。」

 シスターが、アイリスを諭すと、あれほど猛威を振るっていた豪雨が、ぴたりと止まった。

 「 えっ?」

 今の不可思議な事象を見逃さず、何かに、シスターは気づいた。

 「 ど、どうしたの?」

 不安げに問うてくるアイリスを、脇にシスターは思案投げ首に、

 ( アイリスさんが、愚痴ると天候が変わって、あたしが諭すと天候が戻った。)

 「 ……ということは、何かが、私たちの心と連動している?」

 と、つぶやいた。確信とまではいかないが、どうやら、シスターの行動が、
現状を打破するカギを握っているらしい。そう結論づけると、一旦、この話題は脇に置いて
アイリスとの共闘を具申することにする。あんまり、寡黙を押し通すシスターに、アイリス
は、我慢できずに突っかかった。

 「 ちょっと、黙られたら、不安になるじゃない。何か、しゃべってよ。」

 「 あ、ごめんなさいね。
ちょっと、現状を打破できそうな案があるんだけど…。」

 シスターは、きょとんとした表情のアイリスと仲直りすべく、行動に出る。

 「 乗ってみる?」

 そう言った直後、シスターは、苦しそうに心臓を押さえ、ばたんと倒れた。

【つづく】