瓢簞舟の「ちょっと頭に浮かぶ」

こちらでは小説をhttps://kakuyomu.jp/works/16816700427846884378

気だるい午後

2015-03-03 16:51:50 | 随想
また書き損じたか。次が三度めになる。

こんな書類とも呼べないようなものでさえ私は書き込むのが苦手である。局員から振替用紙を三たびもらう。

間違えぬよう、書き込むことをつぶやきながら手を動かす。なかなか計がいかない。この数分間でいくつも歳をとったような錯覚に陥る。なんだか肉体がままならぬ老人のような心持ちである。頭も靄がかかったように判然としない。

局員同士、右脳と左脳の話をしている。
「わたしは左脳なの」
「局長もやってみてくださいよ」

そんな声を聞きながら作業をつづける。
通信欄には二カ月後の日付を記入しなければならないけれど、そんな遠い先のことなどうまく考えられず途方に暮れてしまう。

どうにか書き込んだ振替用紙を窓口に出しながら尋ねる。
「右脳だの左脳だの、なんの話ですか」
局員は虚をつかれたような表情をしたが、にわかに私を雑談に招き入れるような口調になって教えてくれる。

腕組みや指の組み方で左右どちらの脳を優位に使っているかがわかるらしい。
実際に組んでみる。
「右脳ですね」
局員が私を見て答える。
そうなのかしら?
それが表情に出たのか、ネットの情報ですけどね、と局員が断りを入れる。

私は私のことがわからない。他人に私がどう理解されているのかもわからない。ジョハリの窓のようなわかりやすい図式が私には描けない。
私にはすべてが謎である。
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