26歳のときにライプチッヒでバッハの研究を始めた著者は、ドイツ国内にとどまらず広く海外に留学や出張などの機会を得て旅をしています。
その時の体験をまとめたのが本書で、アイゼナッハをはじめバッハゆかりの地はもちろん、多くの地を訪れた際の話題が簡潔な文章でまとめられています。
専門のバッハに限らず幅が広く、その土地での音楽や音楽家の話題、それも表面からは窺えない話が次々と語られます。しかし、いわゆる裏話ではなく、バッハ研究にまつわる話や演奏会事情など音楽学者ならではの話題は興味が尽きません。バッハ以外には、モーツァルト、ワーグナー、ブルックナー、オネゲルなどが登場。通り一遍のガイドではなく、彼らの作品を聴くうえでの参考になるのではと思います。
コロナ禍がまだ終わらないどころか、第8波到来も現実味を帯びてきて、国内も海外も旅行はいまだしという現在。このような得難い本を読んで満足するか、よけいにフラストレーションを溜め込むかは読んだ人次第… ∎
樋口隆一著『バッハ学者は旅をする;私の音楽草枕』アルテスパブリッシング、2021年9月刊.