2012年09月28日
最初の小児甲状腺がんの症例の報に接して(広河隆一より)
本人もご家族もどんな思いで医師の宣告を受けたのだろうか、どれほどの不安と恐怖にさいなまれているのだろうか。
せめて医師は患者の身になって告知したのだろうか。
それとも事実は学者のデータ管理庫の中にあって、本人家族にはまだ告げていないのだろうか。
チェルノブイリでは、検査の結果は親に伝えられた。
「がん」という言葉は大人でさえ耐えられないほどなのに子どもには重すぎる。
しかし子どもが自分の診断書を見つけて知ってしまうこともあった。
子どもが知った後、泣き明かす母親を慰める子どももいた。
今回検査を受けたのは18歳以下の8万人だという。
その子どもたちの多くは、「自分ももしかしたら」と考えているかもしれない。
次の検査で自分が宣告されるかもしれないと考えている子どもも多いに違いない。
権威を振りかざす医師や医師会や自治体や政府が、「安全」を説くのが自分の役割だと考え、
子どもが放射性ヨウ素で被曝するのを予防する仕事を放棄した。
安定ヨウ素剤を与えると不安をあおってしまい、
自分たちがそれまで安全だと言ってきたことが嘘だということになってしまう。
事故があり、ベントが決定され、被曝の危険性が高まることが分かっていても、子どもや妊婦のために当然やらなければならないことをやらなかった。
原発事故が起きたらすぐに何をしなければならなかったかは、専門家でなくても誰でも知っている。
安定ヨウ素剤を飲むことと、妊婦、子どもの避難である。それを権威者はやらなかっただけでなく、
むしろ妨害したケースさえある。
ある医師は安定ヨウ素剤を大量に注文した。
しかしそれは医師会にストップされた。これら医学界の犯罪は、メディアの犯罪調査とともにまだ手に付けられていない。
この程度の被曝では、安定ヨウ素剤が必要ないと、彼らは考えた。
しかし彼らも含め、すべての関係者は、どれほどの放射能が放出されるか知らなかった。
医師も政府も東電も分からなかった。
そして、安定ヨウ素剤は、放射能が来る前に呑まなければ効果がない。
結果的に多量の放射性ヨウ素が襲ったと分かってからではすべて後の祭りなのだ。
そうしたことが起こらないように事前に服用するのが安定ヨウ素剤なのである。
そんなことを知らない医学者はいない。
だから医学者たちが今回行ったことは、判断の間違いというより、犯罪である。
発表された子どもの甲状腺がん発症は、放射能のせいではないと医学の権威者は言う。
「なぜならチェルノブイリでは事故から3-4年後になって病気が急増したからだ」という。
しかし実際にはチェルノブイリの事故の4年後に、日本の医学者たちは、小児甲状腺がんの多発を認めなかったではないか。
「広島や長崎では小児甲状腺ガンは十年以上たってから現れたから、これほど早く発症するはずがない」とあの時彼らは言った。
彼らは自分たちの知っている知識や経験を超える「万が一」という言葉を嫌う。「万が一」に備えることを恐れる。自分たちの限界を認めたら、学会のヒエラルキーは崩壊する。
そしてチェルノブイリ事故でも、スリーマイル事故でも、母親たちの懸念のほうが、医学者や政府や電力会社の判断よりも正しかったことが証明されている。
今回の小児甲状腺がんの発症は、時期が早すぎるため、放射能とは関係ない、
つまり原発事故とは関係ないと医学者たちは言う。
そして8万人に一人という数字は、ふつうでもありうる数字だと言う。
しかしこれまで彼らは、小児甲状腺がんは100万人に一人しか現れないと繰り返し発言していたのではなかったか。
8万人に1人発症するのが普通だというなら、福島県の子どもの人口30万人余に対して、
これまで毎年平均して3-4人の小児甲状腺がんが現れていたとでもいうのか。そんなデータはあるはずがない。
このただれ切った日本の方向を変える力は、人々の意志と良心的医師たちの活動にゆだねられる。
そして「万が一」にしろ被害者がこれ以上増えないようにすることに、すべての力を結集すべきで取り組むべきである。子どもたちを守るために。
福島のこども支援プロジェクト「沖縄・球美の里」代表
DAYS JAPAN 編集長
広河隆一
2012年9月30日(日) 午前0時50分 再放送
シリーズ チェルノブイリ原発事故・汚染地帯からの報告
「第2回 ウクライナは訴える」
http://www.dailymotion.com/video/xtu39y_yyyy-yyyyyyyyyyy-yyyyyyyyy-yyy-yyyyyyyyy_news
去年4月、チェルノブイリ原発事故25周年の会議で、ウクライナ政府は、汚染地帯の住民に深刻な健康被害が生じていることを明らかにし世界に衝撃を与えた。
チェルノブイリ原発が立地するウクライナでは、強制避難区域の外側、年間被ばく線量が5ミリシーベルト以下とされる汚染地帯に、事故以来26年間、500万人ともいわれる人々が住み続けている。
公表された「Safety for the future未来のための安全」と題されたウクライナ政府報告書には、そうした汚染地帯でこれまで国際機関が放射線の影響を認めてこなかった心臓疾患や膠(こう)原病など、さまざまな病気が多発していると書かれている。
特に心筋梗塞や狭心症など心臓や血管の病気が増加していると指摘。子供たちの健康悪化も深刻で2008年のデータでは事故後に生まれた子供たちの78%が慢性疾患を持っていたという。報告書は事故以来蓄積された住民のデータをもとに、汚染地帯での健康悪化が放射線の影響だと主張、国際社会に支援を求めている。
今年4月、私たちは汚染地帯のひとつ、原発から140キロにある人口6万5千人のコロステン市を取材した。この町で半世紀近く住民の健康を見続けてきた医師ザイエツさんは、事故後、目に見えて心臓病の患者が増えたことを実感してきたという。その原因は、食べ物による内部被ばくにあるのではないかとザイエツさんは考えている。予算が足りず除染が十分に行えなかったため、住民は汚染されたままの自家菜園で野菜などを栽培し続け食べてきた。また汚染レベルの高い森のキノコやイチゴを採取して食用にしている。
学校の給食は放射線を計った安全な食材を使っている。しかし子供たちの体調は驚くほど悪化。血圧が高く意識を失って救急車で運ばれる子供が多い日で3人はいるという。慢性の気管支炎、原因不明のめまいなど、体調がすぐれない子供が多いため体育の授業をまともに行うことができず、家で試験勉強をして体調を崩すという理由から中学2年までのテストが廃止された。
被ばく線量の詳細なデータはなく、放射線の影響を証明することは難しいが、ウクライナの汚染地帯で確かに人々は深刻な健康障害に苦しみ、将来に不安を抱えながら暮らしていた。
しかしIAEAをはじめとする国際機関は、栄養状態の悪化やストレスなども原因として考えられるとしてウクライナの主張を認めていない。放射線の影響を科学的に証明するには被ばくしていない集団と比較しなければならないが、住民の被ばくに関するデータも、被ばくしていない集団のデータも十分ではなく、今後も証明は困難が予想される。
国際社会に支援を訴えながら、放射線の影響とは認められていないウクライナの健康被害。チェルノブイリ原発事故から26年たった現地を取材し、地元の医師や研究者にインタビュー、ウクライナ政府報告書が訴える健康被害の実態をリポートする。