アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

アジア関係の新刊本ご紹介

2022-04-05 | 東南アジア映画

出版社めこんの社長から、新刊の「ラーマーヤナ演劇」をいただきました。福岡まどか先生と平松秀樹先生が寄贈リストに名前を入れて下さったようです。ありがとうございました。ちょうどこの機会に、もう1冊、少し前に出た本ですがやはり著者から頂戴した本「夢みるインドネシア映画の挑戦」(英明企画編集)も併せて、ちょっとご紹介しておきます。

現代東南アジア(●インドネシア●カンボジア●シンガポール●タイ)における・・・・・ラーマーヤナ演劇」

福岡まどか編・著/めこん/2022.3.20/2,700円+税 版元公式サイト

【目次】

第1部 ラーマーヤナの多元的解釈
第1章 現代東南アジアにおけるラーマーヤナ演劇の多元的意味(福岡まどか)
  <コラム>ダンサー、ピチェ・クランチェンによるダンス作品(福岡まどか)
第1章(付論)ヴァールミーキ版の7巻本の概要と東南アジアにおけるその展開(福岡まどか)
  <コラム>映画『オペラ・ジャワ』に見る「ウッタラ・カーンダ」の伝承(青山亨)
第2章 タイのラーマーヤナ、「ラーマキエン」の現代的展開――チャイヨー・スタジオ製作映画を中心にして(平松秀樹)
第3章 残虐なる魔物か、それとも勇敢に死にゆく英雄か?――バリ島のワヤンの演目「クンバカルナの戦死」のダランによる解釈(梅田英春)
第4章 カンボジアにおけるラーマーヤナ演劇(サムアン・サム)

第2部 多様化する上演コンテクスト
第5章 インド人ディアスポラとラーマーヤナ――シンガポールにおけるアートマネージメントとローカル/ナショナル/グローバルな表象(竹村嘉晃)
第6章 観光文化におけるラーマーヤナ演劇――インドネシアとタイの事例から(福岡まどか)

第3部 表象されるラーマーヤナ
第7章 ラーマーヤナ演劇をめぐる近代タイ知識人の認識(日向伸介)
第8章 日本の博物館で東南アジアのラーマーヤナを展示する(福岡正太)

委嘱創作作品解説
1 ディディ・ニニ・トウォによる舞踊劇「人魚ウラン・ラユンとアノマン対レカタ・ルンプン」
2 ナナン・アナント・ウィチャクソノによるアニメーション作品「ラーマーヤナ:最後の使命」
3 ケン・スティーヴンによる合唱作品 「シーターの火の試練」

タイの絵はがきより。ワット・プラ・ケオ(エメラルド寺院)に描かれたハヌマーン

東南アジア映画好きとしては、第1章(付論)のコラムと第2章が気になるところですが、青山先生のコラムは「ラーマーヤナ」の最終巻「ウッタラ・カーンダ(後続の巻)」のジャワにおける展開が述べられており、勉強になりました。また、『ハヌマーンと7ウルトラマン』(1974)などを取り上げた第2章は、舞台劇「ラーマキエン」にも言及しながら、これらの「ハヌマーン映画」の内容と、それらがタイでどんな役割を果たしたのかをわかりやすく解説してくれます。「ラーマーヤナ」が本国インドでの受容と違っている点も興味深く、もっと詳しく読みたいところ。現地調査がままならないこんな時期ですが、いつか「ハヌマーン映画」の詳しい現地調査をしていただいて、1冊の本に残していただければと思います。

これもタイの絵はがきより。戦うために巨大化したハヌマーン

それ以外にも、インドの「ラーマーヤナ」を知る人にとっては思わず目が点になるようなことも書かれていて、ある文化が他国・他地域で受容されるとはこういうことなのか、と思わされます。また、本書は主として「ラーマーヤナ」がパフォーマンスの題材となるシーンが集めてあるので、舞踊好き、演劇好きの人にはぐぐっと惹きつけられる内容になっています。最後には五線譜による楽譜まで付いていてびっくりですが、一体どんなメロディーだろうとYouTubeで検索してみたら、作曲家・作詞家のケン・スティーヴンさんの動画が出て来ました。福岡先生のお名前も出てくるので、これだと思います。7分15秒なので、ご覧になってみて下さいね。

"Sinta Obong" (by Ken Steven) - Virtual World Premiere | Voice of Bali

 

うーむ、基本バリ舞踊ではありますが、ものすごくモダンですね....(絶句)。なるほど、こういう試みが、若い人たちによっていろいろなされているということなのでしょう。この「ラーマーヤナ演劇」、本の装丁やページのデザインもとても素敵なので、ぜひ手に取って見てみて下さい。即、お買い上げの方は、アマゾン沼までご注文下さい。

<追記>今、メコンの社長桑原さんのメールを読み直していて気がついたのですが、この本は冒頭に豪華なカラーページが付いていて、その中に「委嘱創作作品」3本のページもあり、何とそこにQRコードが付記されているのです。それをQRコードリーダーにかざせば、限定YouTubeサイトでこれらのパフォーマンスが見られる、というわけなのですね。タイトル検索で行き着けたケン・スティーヴンさんの動画は、限定サイトじゃなかったのかな? あとの2つも、のちほど試して見ようと思います。

<追記2>上記動画のYouTubeアドレスも「委嘱創作作品解説」の各作品のページに付記してある、とまたまた桑原さんからご連絡をいただきました。わーい! これでアドレスを入れてパソコンで見られる! 明日は仮面舞踊と影絵芝居の2本立てです。

 

「夢みるインドネシア映画の挑戦」

西芳実著/英明企画編集/2021.12.26/2,500円+税 版元公式サイト

【目次】

本書に登場する映画の舞台①〈インドネシア、東ティモール〉
本書に登場する映画の舞台②〈世界〉

■第1部 序論 インドネシアの夢と願いを映画にみる──1998年政変以降を中心に
  ○理想と現実が同居し、希望と若さがあふれる国の映画
  ○現実と虚構、異なる場を越境するメディアとしての映画
 ●第1章 多彩なインドネシアを構成する民族と言語、風土と社会
  ○ジャカルタ、ジャワ、地方──三地域の特徴と世界観
  ○民族と言語の独自性が集い織りなすインドネシア
 ●第2章 インドネシア映画史── 1926年~1998年
  ○独立後──国民映画の制作開始とスカルノによる未完の革命
  ○スハルト時代──映画産業の発展と国産映画の危機
  ○強権的統治の進展と映画による挑戦の萌芽── 1970~1990年代
 ●第3章 新生インドネシアの三つの挑戦を映画にみる
  ○権威に頼らず社会をまとめる──政府(父)-国民(子)関係の再構築
  ○世界、国内、個人の三層でいかに多様な信仰を実践するか
  ○国難の犠牲者を忘却から掘り起こし、国民として共有する

■第2部 父をめぐる国民の物語の模索──映画にみるインドネシアの家族像
 ●第1章 父という厄介者を描く── 1998年スハルト退陣とリリ・リザ監督……『クルドサック』、『ビューティフル・デイズ』、『GIE』、『虹の兵士たち』
  ○頼りにならない父親たち──『クルドサック』(1998年)
  ○父のふるまいがもたらす別れ──『ビューティフル・デイズ』(2002年)
  ○成長しても父になれない──『GIE』(2005年)
  ○父なしで逞しく育ち、夢を追う──『虹の兵士たち』(2008年)
 ●第2章 家族から父を消してみる──ニア・ディナタ監督の女家長による家づくり……『分かち合う愛』、『三人姉妹(2016年版)』、『窓』
  ○父をめぐる競合から抜ける──『分かち合う愛』(2006年)
  ○女たちが家をまとめる──『三人姉妹』(2016年)
  ○父を支えるのをやめる──『窓』(2016年)
 ●第3章 父亡きあとに父を受け入れ自立を目指す──三つの映画にみる父との向き合い方……『珈琲哲學~恋と人生の味わい方』、『再会の時~ビューティフル・デイズ2』、『魔の一一分』
  ○成長して父の思いを理解し自立する──『珈琲哲學~恋と人生の味わい方』(2015年)
  ○父の死後に自分を取り戻す──『再会の時』(2016年)
  ○完璧な父を目指すことをやめる─『魔の一一分』(2017年)
 ●第4章 支えられ、やり直して父になる──ドラマと家族のリメイクにみる家族像の再編……『ドゥル』、『チュマラの家族』
  ○「よき子」は「よき父」になれるか──『ドゥル』三部作(2018-2020年)
  ○弱い父を励まし支える家族──『チュマラの家族』(2019年)

■第3部 信仰と規範、社会秩序の問い直し──呪縛と闘うインドネシア映画
 ●第1章 信仰が生む暴力と向き合う──バリ島爆弾テロ事件と宗教の不寛容……『楽園への長き道』、『愛の逸脱』
  ○テロを支える「善良なムスリム」と外部の敵意──『楽園への長き道』(2006年)
  ○浮かび上がる「逸脱を正す」という名の暴力──『愛の逸脱』(2017年)
 ●第2章 信仰実践を世界に発信する──インドネシアは世界の手本になるか……『愛の章』、『欧州に輝く九九の光』、『望まれざる天国』
  ○ジレンマを克服したインドネシア発のイスラム映画──『愛の章』(2008年)
  ○世界に「インドネシアのイスラム教」の道を説く──『欧州に輝く九九の光』(2013年)
  ○成長し自己を確立するムスリム女性──『望まれざる天国』(2015年)
 ●第3章 信仰のなかで生きる女の幸せを考える──ジャワ農村の束縛からどう逃れるか……『ターバンを巻いた女』、『愛が祝福されるとき』、『カルティニ』、『ジルバブ・トラベラー』
  ○男社会という監獄のなかで自由を求めて闘う──『ターバンを巻いた女』(2009年)
  ○学問を究めて男社会を支える──『愛が祝福されるとき』(2009年)
  ○超えられないジャワ娘の理想像──『カルティニ』(2017年)
  ○等身大のムスリム女性の立身出世──『ジルバブ・トラベラー』(2016年)
 ●第4章 秩序を回復し家族を守る女を描く─闘う女たちのホラーと活劇……『スザンナ──墓の中で息をする』、『マルリナの明日』
  ○「化ける女」の物語を読み替える──『スザンナ─墓の中で息をする』(2018年)
  ○男たちによる非道の犠牲者に新たな生き方を示す──『マルリナの明日』(2017年)

■第4部 国民的悲劇を語り直し乗り越える──想像と連帯を促す映画の力
 ●第1章 「国民的悲劇」に向き合う──九月三〇日事件と「共産主義者狩り」の語り直し……『紅いランタン』、『アクト・オブ・キリング』、『フォックストロット・シックス』
  ○犠牲者の幽霊が求める真相の究明──『紅いランタン』(2006年)
  ○海外の視角が晒した虐殺の加害者の姿──『アクト・オブ・キリング』(2012年)
  ○SFアクションに仮託された語り直しの呼びかけ──『フォックストロット・シックス』(2019年)
 ●第2章 失踪と別離に寄り添う──革命と政変が招いた溝の深さ……『プラハからの手紙』、『他者の言葉の物語』、『ソロの孤独』、『サイエンス・オブ・フィクションズ』
  ○取り戻せない五〇年という時間──『プラハからの手紙』(2016年)
  ○再会を待ち続けた気持ちこそ真実──『他者の言葉の物語』(2016年)
  ○恐怖を誰とも共有できない孤独を描く──『ソロの孤独』(2016年)
  ○人はみな真実と虚構を伝えるメディア──『サイエンス・オブ・フィクションズ』(2019年)
 ●第3章 「受難の生」を受け止め生きる──インド洋津波と東ティモール紛争は国民的悲劇になるか……『デリサのお祈り』、『バスは夜を走る』、『ベアトリスの戦争』
  ○健気に祈る津波孤児への共感──『デリサのお祈り』(2011年)
  ○紛争はすべての人にとっての災い──『バスは夜を走る』(2017年)
  ○悲劇をいかに受容して生きるか──東ティモール映画の変遷と『ベアトリスの戦争』(2013年)

■おわりに

■資料
 ●監督紹介 映画でインドネシアの語り直しに取り組む15人
 ●インドネシア映画研究ガイド 映画からインドネシア社会を読み解く10冊
 ●インドネシア映画関連年譜
 ●観客動員数が100万人を超えたインドネシア映画(1999年~2019年)

『虹の兵士たち』(2008)VCDケース(シンガポール販売)

非常に内容豊富な本で、目次だけでもこの長さ。目次に上がっている映画の紹介以外にも、いろんな作品に言及してあって、自分がこれまでに見たインドネシア映画がいかに少ないか思い知らされます。データ部分も充実していますが、特に最初のインドネシア地図と世界地図に記された「本書に登場する映画の舞台」は、もうこれだけでもインドネシア映画の貌がよくわかる資料になっています。資料と言えば最後の「資料」パートは欲張りすぎなぐらいで、次作に取っておかれてもよかったのでは、と思うぐらいサービス満点。これでページ索引が付いていたら、と、自分たちの本には付けなかったのに不満を言ったりして申し訳ないのですが、小さな不満はあるものの、インドネシア映画辞書としても使えるスグレモノの本です。

『シェリナの大冒険』(1999)VCDジャケット

映画自体の紹介だけでなく、映画を取り巻く社会状況、歴史等々にも広く、深く言及がなされており、インドネシアを知る上で最高の教科書ともなる本です。これで、ここに挙げてある作品が全部見られるといいのですが、ネットフリックスにはほとんどインドネシア映画が入っていませんね...。とはいえ、アマゾン・プライムとの両方でいくつかの作品が見られるため、今度『フォックストロット・シックス』(2019)とかを見てみようと思います。皆さんもこの本をガイド役にして、インドネシア映画の世界に分け入って下さいね。アマゾン沼のサイトはこちらです。最後に、本書でも取り上げられている『マルリナの明日』(2019)の予告編を付けておきます。アマゾン・プライムでレンタルできますので、お試し下さい。

映画『マルリナの明日』予告編/2019年5月18日(土)ユーロスペースにてロードショー

 


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2 コメント

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Unknown (アハマド)
2022-04-11 23:38:48
毎度どうも、インドネシアからアハマドです。

例の西さんの本を読まれているのですね。混成アジア映画研究会での論文が半分くらい含まれているようで、既読の記事もいくつかあるのですが、私はまだ入手できてません。次回帰国時に必ず購入致します。

今回西さんが取り上げたのはスハルト政権崩壊以降の映画ばかりで、それ以前の映画についてはあまり言及されてない、或いは見ていないようで、その点いくつかの立論にやや疑問が残りますが、日本で殆ど知られてないイスラーム恋愛映画について詳しく紹介している事は素晴らしいです。何しろ、日本で観られるインドネシア映画と言えば、エクストリームアクションか、ホラーか、アートフィルムかの三択で、他のジャンルがごっそり抜け落ちていたので。

西さんに刺激されてというわけでもないのですが、私もインドネシア映画について「よりどりインドネシア」というウェッブマガジンに書いてます。こちらにリンクを貼れない(投稿ができませんとの表示)ため、大変お手数ですが、Google検索していただき、お時間ある時にご笑覧して頂ければ幸いです。 有料ですが、文章全体の半分は一般公開しています。
返信する
アハマド様 (cinetama)
2022-04-12 18:37:35
コメントありがとうございました。
「よりどりインドネシア」はこのタイトルで検索していただければすぐ出て来ます(やっぱりコメント欄からリンクが張れないようです)。
「轟英明」さんという日本名でアハマドさんの記事が出ていますので、ご興味がおありの方はチェックしてみて下さいね。
私も、仕事が一段落したら拝見しますね(4月末まで地獄の仕事中。ブログ更新もままならず...状態です)。
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