アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

第16回大阪アジアン映画祭開催中!②ブータン映画の秀作を一足先に見られます!!

2021-03-09 | アジア映画全般

いよいよ佳境に入っている大阪アジアン映画祭。毎年そうですが、コンペ作品はもちろんのこと、それ以外にも見たい作品がてんこ盛り。大阪の緊急事態宣言は解除されたものの、こちら地元は2週間延長なので、高齢者でもありますし、じっとがまんのステイホーム中です。幸か不幸か仕事がいろいろ来ていて、自宅から出られないことでもあり、今年も大阪アジアン映画祭は夢のまま終わりそうです。

その、見たいやんけ~♥、の作品の中で、1本だけすでに見せていただいた作品があります。<特別注視部門>で上映されるブータン映画、『ブータン 山の教室』(2019)です。すでにこちらでも簡単にご紹介しましたが、4月3日(土)から東京の岩波ホールでの「開校」ロードショーが決まっています。それに先駆けて、関西の皆さんは3月12日(金)にご覧になれるのですから、ラッキーですね。ストーリー等は映画祭の作品紹介サイトや作品の公式サイトをご覧いただくとして、ちょっとブータンの基本情報を見ておきましょう。

と言いつつも、私はまだブータンに行ったことがないんですね。これから書く知識は、ある大学で南アジアについて半年間の講義をした時に、「1国フォーカス:ブータン」として取り上げた、そのレジュメの中から取りだしています。「南アジア」というのは「SAARC(South Asia Association for Regional Cooperation=南アジア地域協力連合)」に加盟している国々-インド、パキスタン、バングラデシュ、スリランカ、ネパール、ブータン、モルディヴと、2007年に加盟したアフガニスタンからなる地域を指します。ブータンは小国ですが、国の名前が「ブータン王国」というとおり南アジアで唯一立憲君主制の国で、南アジアの中でユニークな存在となっています。欧米世界から見ると発展途上国となるブータンですが、南アジアだけでなく世界の中でブータンをユニークな存在にしてきたのは、この「王」が関係してきます。(以下、©のない写真はWikipediaより)

King Jigme Khesar Namgyel Wangchuck (edit).jpg

今続いているワンチュク王朝が成立したのが1907年で、現在のジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク国王が第5代の国王として即位したのが2006年でした。上が現国王の写真ですが、見覚えのある人も多いのでは、と思います。2011年3月11日の東日本大震災に見舞われた日本を、いち早く国賓として、同年11月15日に訪問したのがワンチュク国王でした。傍らには、同年10月13日に結婚したばかりのジェツン・ペマ王妃がいて、このお二人の写真が当時マスコミを賑わしたので、日本の皆さんの印象にも残ったはずです。

現在までの近代ブータンの歩みを簡単な年表にしてみました。

 1907年 ワンチュク王朝成立。ウゲン・ワンチュクが初代ブータン国王となる
 1910~49年 ブナカ条約によりイギリスの保護下に入る
 1926年 第2代国王ジグミ・ワンチュク即位
 1952年 第3代国王ジグミ・ドルジ・ワンチュク即位
 1964~92年 海外技術協力のため西岡京治氏が農業指導。「ダショー」の称号付与
 1971年 国連加盟
 1972年 第3代国王急逝により、第4代国王ジグミ・シンゲ・ワンチュク16歳で即位
 1976年 海外における記者との会見で国王が「GNH(国民総幸福量)」という考え方を発信
 2005年 第4代国王が総選挙後の立憲君主制への移行を宣言
 2006年   第4代国王の譲位により、第5代国王ジグミ・ケサル・ナムゲル・ワンチュク26歳で即位
 2008年 新憲法発布
 2011年 11月にワンチュク第5代国王が新婚の妃と共に来日し、被災地を訪問
 2016年 2月にワンチュク第5代国王夫妻に男児誕生

上写真は前国王、第4代ワンチュク国王なのですが、彼が1976年にある国際会議に参加した帰途インドのムンバイに立ち寄った時、記者の訪問を受けて述べたのが「GNH(国民総幸福量)」という考え方でした。これは「GNP=Gross National Product(国民総生産)」をもじったもので、「GNH=Gross National Happiness(国民総幸福量)」でその国の充実度を測ろう、という提案だったようですが、すぐに世界の国々の関心を引きました。その後ブータンで考え方が整理されて、GNHの「4つの柱」や「9つの指標」が設けられ、一挙に「幸福の国ブータン」とか言われるようになったのです。「4つの柱」と「9つの指標」は次の通りです。

   ・4つの柱
     ①持続可能な社会経済開発
     ②環境保護
     ③伝統文化の振興
     ④優れた統治力
   ・9つの指標
     ①時間の使い方とバランス~労働時間など
     ②良き統治~現在の政府についてなど
     ③人々の健康
     ④文化の多様性~伝統文化を守る、新しいメディアの導入など
     ⑤地域の活力~ボランティア活動や寄付行為など
     ⑥生活水準・所得~富の平等、経済的安定など
     ⑦精神面の幸福~お祈り、瞑想など
     ⑧環境の多様性と活力
     ⑨教育~歴史・文化、市民性、エコロジー、動植物の名前など

これがまとめられたのは後になってからのようですが、それでも今日本で「持続可能な(サスティナブル)社会」というのが声高に唱えられていることを考えると、ブータンが先進的だったことがわかります。こんな実績から、第4代国王に対する国民の敬愛の念は強く、『ブータン 山の教室』の中でも冒頭のシーン、首都ティンプーで祖母と暮らす主人公ウゲン(シェラップ・ドルジ)の部屋のシーンで、第4代国王の写真がチラと写ります。ただ、GNHという指標を提案したからと言って、「ブータンは幸福の国」と思ってしまうのは早計で、そのあたりの現実もこの映画はしっかりと見せてくれます。

©2019 ALL RIGHTS RESERVED

上写真、右が主人公ウゲンで、左は赴任するウゲンを途中まで迎えに来てくれ、7日間かけて赴任地ルナナまで徒歩で連れて行ってくれる村人ミチェン(ウゲン・ノルブ・ヘンドゥップ)です。二人とも民族衣装の「ゴ(Gho/ゴーと書くこともある)」を着ていますが、襟元など日本の和服と似ていますね。映画のほとんどのパートは、ブータンの北端にある地区ルナナが舞台になっていて、そこの美しい景色を堪能することができます。ルナナの位置はこちらです。

©2019 ALL RIGHTS RESERVED

標高4,800m(富士山の頂上よりずっと高い!)、人口56人のルナナ村で、ウゲンがどんな先生ぶりを発揮するのか、『ブータン 山の教室』でぜひ目撃して下さい。最後に予告編と特報を付けておきますので、この素敵な映画をちょっぴり楽しんでみて下さいね。

映画「ブータン 山の教室」本予告

 

映画「ブータン 山の教室」特報

 


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