間もなく、8月6日の広島の原爆記念日がやってきます。それに合わせて、広島市映像文化ライブラリーでは8月3日(水)から、「平和のシネマテーク2011」が開催されます。上映されるのは、『千羽鶴』 (1958)、『はだしのゲン』 (1983)、『黒い雨』 (1989)などほとんどが日本映画ですが、その中に香港映画が1本混じっています。龍剛(ロン・コン)監督の『廣島廿八』 (1974)です。
チラシ等では「ルン・コン」と表記されている龍剛監督、ローマナイズがLung Kongなので、最初にこの映画が紹介された<アジアフォーカス・福岡国際映画祭'97>以降この表記になってしまったようですが、ここでは広東語音を取って「ロン・コン」と書かせていただきます。下の写真が、1997年の第21回香港国際映画祭でお見かけしたロン・コン監督です。この映画祭では香港の中国への返還を目前にして、「光影繽紛五十年」という香港映画45本を上映する特集が組まれ、『廣島廿八』もその1本に選ばれたのでした。
この時のロン・コン監督はニューヨーク在住で、シンポジウム等で自己紹介の時には必ず「我叫龍剛、係〔口係〕紐育來〔口既〕」(私はロン・コンと言います。ニューヨークから来た者です)と言って笑いを誘っていました。観客が笑ったのは、そんな自己紹介など不要なほど、ロン・コン監督の顔はよく知られていたからです。というのも彼は、1958年にショウ・ブラザーズの広東語映画『酒店情殺案』でデビューして以降、長らく俳優としても活躍していたからです。主演もありますが、むしろ個性的な脇役として活躍した人で、香港の観客は彼の顔をよーく知っていたのです。そうそう、近年では『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ&アメリカ 天地風雲』 (1997)にも顔を出しています。
ロン・コンが監督に転じたのは1966年の『播音王子』からで、この作品にも主演した謝賢(パトリック・ツェー)と組んだ監督第2作『英雄本色』 (1967)がヒットし、人気監督になりました。パトリック・ツェーは謝霆鋒(ニコラス・ツェー)のお父さんですね。また、『英雄本色』は同じ原題の『男たちの挽歌』 (1985)の元ネタとなった作品です。こうしてロン・コン監督は1977年までに、蕭芳芳(ジョセフィーヌ・シャオ)主演の『飛女正傳』 (1969)など計12本の映画を監督するのですが、その中でも『廣島廿八』はちょっと異色の作品です。
<スチール提供:第二十一屆香港國際電影節>
主演は、ジョセフィーヌ・シャオ、秦祥林(チャールズ・チン)、關山(クァン・シャン)、そして監督自身も出演しています。チラシの紹介文では、「原爆投下から28年後の広島、父親が被爆した今井家の人々は、年月を経ても原爆の影から逃れられなかった・・・。香港の俳優が日本人を演じ、広島で暮らす家族のドラマに平和のメッセージをこめた作品」となっており、香港製日本映画という点でも見逃せない作品です。ジョセフィーヌ・シャオらの着物姿も見られます。
<スチール提供:第二十一屆香港國際電影節>
上映は8月25日(木)の10:30~/14:00~/18:30~の3回ですが、上映開始後30分たつと入場できませんのでご注意下さい。鑑賞料は大人500円、こども250円です。広島市映像文化ライブラリーの場所等は、HPでご確認下さい。広島近辺の皆様、あるいはこの時期広島にいらっしゃる皆様はぜひお見逃しなく。
『廣島廿八』、やはり広島映像文化ライブラリーが独自に収蔵なさったのですか。素晴らしい!
ロン・コン監督は最初広東語映画を撮っていたのですが、4作目から北京語に転じ、『廣島廿八』のあとはまた広東語で撮ったり、広東語・北京語の両方で撮ったりしています。今フィルモグラフィーを見ていたら、最後の監督作『波斯・夕陽・情』(1977)はイラン・ロケをやってますね。うーん、とてもユニークな監督さんです。
こちらの作品、2001年に広島市映像文化ライブラリーさんで新たに字幕を付けさせていただきましたので、所蔵品だと思います。
香港の監督がこういう作品を?!と驚いたのを覚えています。
監督のお顔を拝見するに、広島に取材に来た中華人(どこからという設定が不明です)の役の方かなと記憶を辿りました。原語は北京語でした。(この頃の映画はそういうものですかね。。。)
日本映画がかつての敵国を舞台にして敵国人にこれほど同情的な映画を作ってきたか考えてみると、ロン・コン監督の本気度がわかるような気がします。
私も、アジアフォーカスの名誉のために(笑)この映画の日本初上映は<アジアフォーカス・福岡国際映画祭'97>だということを入れておこうと思って、最初の方で言及してあります。今度上映されるプリントも、福岡市総合図書館所蔵のものかも知れません。あるいは福岡での上映で知った広島市映像文化ライブラリーが新たに所蔵したのかもしれませんが、こうやって上映されるのはありがたいですね。
ロン・コン監督に関しては研究書「香港影人口述歴史叢書之六:龍剛」(香港電影資料館、2010)が出ていて、その中でロン・コン監督自身が『廣島廿八』のロケの様子などをかなり詳しく語っています。そこにはおっしゃるように、上映するや「日本から金が出てる」とか「龍剛は漢奸だ」というそしりを受けたことが書かれていますが、反対に映画祭で賞を獲ったりもしたので、ロン・コン監督にとってこの作品は忘れがたい映画となったようです。
私は今回も『廣島廿八』を見られそうにないのですが、香港でDVDを探してみようと思っています。
たしか香港でもネガは残っていなくて、ビデオ変換だったせいか、退色が気になりました。でも、ブルース・リーが反日映画「怒りの鉄拳」を発表した翌年にこんなに日本に同情的な映画を撮った龍剛監督の勇気に敬服します。反日感情の強い当時はかなり叩かれたでしょうから。
個人的には『飛女正傳』の方が好みです。ゴーゴーしまくりの蕭芳芳やフェイフェイことリディア・サムがかわいいので。(笑)『英雄本色』もそうですが、龍剛作品は非常にモラリスティックなところが特徴かなと思います。