久々に公開されるインド映画『囚人ディリ』の初日が、今週金曜日11月19日に迫ってきました。7月16日にに公開されたのが『ダルバール 復讐人』(2020年/タミル語)で、翌17日に公開されたのが『ジャッリカットゥ 牛の怒り』(2019年/マラヤーラム語)、そして今回の『囚人ディリ』は2019年のタミル語映画と、今年の日本におけるインド映画公開作は1月8日公開の『ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打ち上げ計画』(2019年/ヒンディー語)も入れた計4本なので、「南高北低」ですねー。それはさておき、この『囚人ディリ』、ちょっと泥臭いアクション映画なんですが、体が前のめりになるアクションシーンが何カ所もある上にシチュエーションの作り方が非常にうまくて、右手と左手でかわるがわる汗を握りながら見てしまう、というとってもユニークな作品なんです。ちょっとさわりだけ、ご紹介しましょう。
『囚人ディリ』 公式サイト
2019年/インド/タミル語/145分/原題:Kaithi
監督・脚本:ローケーシュ・カナガラージ
出演:カールティ、ナレーン、ラーマナー、ジョージ・マリヤーン、アルジュン・ダース、ハリーシュ・ペーラディ、ハリーシュ・ウッタマン
配給:SPACEBOX
©Dream Warrior Pictures, ©Vivekananda Pictures
物語は、マザーテレサ養護施設から始まります。ここに収容されている10歳の少女アムダ(ベビー・モニカ)に、女性職員が「明日、朝10時にあなたの大事な人が来るからね。今日は早く寝なさい」と教えてくれるのですが、アムダには両親もおらず、一体誰なのか不思議に思います。そんなわけで夜中に何度も目が覚めてしまうアムダでしたが、その間に”大事な人”の身には大変なことが起こっていたのでした。
その夜、警察の特殊部隊を率いるビジョイ警部(ナレーン)は、部下4人と共に犯罪組織のコンテナトラックを押さえて乗っていた男たちを逮捕し、同時に大量の麻薬と武器などを押収しました。その麻薬の量は何と900㎏、末端価格にすると84億ルピー(約126億円)というとんでもない量です。ビジョイは怪我を負った右手をかばいながら、部下にそれらをすべてティルチ警察本部の地下室に運び込むよう指示しました。ティルチ警察本部はイギリス時代からの堅牢な建物で、地下室の存在はごく一部の人間しか知らず、地下室からの地下道は本部の外へも伸びていました。ビジョイ警部は部下に今夜のことは一切口外せぬよう言い渡し、彼らと共に80㎞ほど離れた郊外にある、警察のゲストハウスに向かいました。
©Dream Warrior Pictures, ©Vivekananda Pictures
一方、麻薬組織のボスであるアダイカラム(ハリーシュ・ウッタマン)の弟アンブ(アルジュン・ダース)は、コンテナトラックを奪われたことに怒り狂っていました。そこに「俺は押収されたブツがある場所を知っている」という電話がかかってきます。実はかけてきたのは麻薬捜査局の地域局長ステファン・ラージ(ハリーシュ・ペーラディ)で、分け前20㎏を要求し、アンブが承諾するとこの作戦に関わったビジョイ警部ら5人の名前をアンブに教えます。また局長は、警官の中にもぐり込ませていた男に指示し、外部から鎮静剤を受け取って、それを今夜ゲストハウスで出される酒にまぜるように命令します。鎮静剤入りの酒はある量を飲むと15分間で意識失い、8時間は醒めないという効果があり、その夜ティルチ警察長官の退任を慰労するためにゲストハウスに集まった警官たちを動けなくするのが目的でした。
局長はアンブに、麻薬の隠し場所は警察本部であり、また、実行部隊のビジョイら5人はゲストハウスにいることを告げます。アンブは部下を半分率いて警察本部に向かい、残りの部下には「ビジョイら5人を殺せ。仕留めた奴には一生分の金をやる」と札束を見せつけます。その頃ゲストハウスでは、警察長官始め警官たちがバタバタと倒れ、怪我をして薬を飲んでいるためにアルコールを摂取しなかったビジョイ警部のみが正気でいる、という状態で、ゲストハウスの従業員らはパニックに陥っていました。ビジョイ警部のところには、アンブ一味に潜入させている部下から、「奴らが麻薬奪還に向かった」というメッセージが入ってきます。ビジョイ警部は病院に電話して警官たちの症状を伝え、医師から「その症状は鎮静剤の入った酒を飲んだんだな。5時間以内に連れてくれば助かる」と言われて、大型トラックの荷台に全員を乗せて連れて行こうと考えます。ところが、誰もトラックを運転できる者がおらず、その時気づいたのが、ゲストハウスに到着した時に別の警官から伝えられた、「ID不所持の不審者がいたので逮捕した。手錠でジープに繋いである」という連絡でした。その男に尋ねると、運転できるとのこと。手錠の鍵がないためジープ内のパイプを警部がはずし、車の外に降り立ったのは、10年間の刑期を終えて娘に会うために町にやってきたディリ(カールティ)という男でした...。
©Dream Warrior Pictures, ©Vivekananda Pictures
簡単にストーリーを紹介するはずが長くなってしまいましたが、これぐらい基本情報を知っておいていただかないと、物語の流れが正確に掴めないという、非常に堅牢かつ複雑な脚本になっています。これに加えて、警察本部建物内でのエピソードを彩るために登場してくる重要人物が6人いるのですが、これはご覧になってのお楽しみ。中でも印象に残る存在が、下写真(ネットから取りました)の真ん中にいるナポレオンという巡査で、『神さまがくれた娘』(2011)などでお馴染みの名脇役ジョージ・マリヤーンが演じています。後ろにいる4人は、ある事情から警察本部に留め置かれた大学生と彼らを迎えに来た友人で、もう1人太った大学生を加えた総勢5人の若者と共に、純朴なナポレオン巡査が大活躍します。
上に記述したストーリー以後、映画はトラックで移動するディリやビジョイ警部たちと、警察本部を襲うアンブたちに対峙するナポレオン巡査と大学生たち、という2つのシーンを交互に切り返しながら進行していきます。どちらも次から次へと思いがけないことが起き、最初に書いたように手に汗を握らされるので、トラック組の危機に右手でじっとりと汗を握ったと思ったら、次は警察本部組の危機に左手で冷や汗を握る、といった具合で、イントロ部分が終わってから2時間弱、気の休まる時がありません。特にトラック組は、竹林編、林の中編、山頂編、採石場編と、アクションシーンの見どころがてんこ盛り。ディリも超人的な活躍をするものの、やっぱり生身の人間か、と肝が冷えるシーンもあって、見応え度200%です。
©Dream Warrior Pictures, ©Vivekananda Pictures
とってもインド映画らしいシーンも用意されており、ディリがシヴァ派の敬虔な信者であることがよくわかって、「純朴! 寡黙! 信心深い!」という少々ダサいキャッチコピーも納得です。さらにうるさすぎるトラックの持ち主の若僧も登場したり、アムダ役のモニカちゃんがかわいすぎる(トリシャーそっくり!)上、監督もそれがわかっているらしく途中にも登場させたりと、ハードなアクション映画とは思えぬサービスも盛り込まれています。でも、一番の魅力はやはりディリを演じたカールティの演技で、キツい眼差しから涙に濡れるソフトな眼差しまで、その澄んだ目の演技力だけでも十分に印象に残ります。加えて彼の生身のアクションの素晴らしさが、アクションシーンに人間味を加えてくれて惹きつけられること間違いなし。これ1作で、きっとファンがどどっと増えることでしょう。
©Dream Warrior Pictures, ©Vivekananda Pictures
監督のローケーシュ・カナガラージは本作のヒットで注目され、続くヴィジャイ主演作『マスター 先生が来る!』(2021年。先日のIMWで上映)のスーパーヒットにより、目下最も注目されているタミル語映画の監督です。映画のラスト付近に出てくるセリフからすると、『囚人ディリ』は当初から続編が作られることが決まっていたようで、本作を超える続編ができるのか!? という点でも興味をかき立てられます。インド映画ファンは絶対に見逃せない1本ですね。最後に予告編を付けておきますので、あとは劇場の大スクリーンで十二分にお楽しみ下さい。2回、3回と見たくなること請け合いです!
映画『囚人ディリ』予告編 【11.19公開】
<オマケ>映画紹介サイト【BANGER!!!】には、安宅直子さん執筆の紹介記事も掲載されています。併せてご覧下さい。