香港国際映画祭も早くも3日目、本日は毎年製作されているオムニバス映画『美好』シリーズの最新作『美好2015/Beautiful 2015』のプレミア上映が行われました。このシリーズは香港国際映画祭が製作、毎年著名なアジアの監督4人に依頼して短編を作ってもらい、それを1本の作品として映画祭でお披露目する、といいうものです。今年はスポンサーに中国大手インターネットメディアのYouku([にんべんに尤]酷)が付き、イランのモフセン・マフマルバフ監督、香港の厳浩(イム・ホー)監督、台湾の蔡明亮(ツァイ・ミンリャン)監督、中国の黄建新(ホアン・チェンシン)監督という豪華メンバーが結集しました。
本日は午後7時前から、九龍駅の上にあるシネコン、グランドシネマで記者を集めての会見が行われ、7時15分から上映開始。私は直前まで映画祭事務局でDVDを見ていたため、会見がほぼ解散状態の時に着いたのですが、黄建新監督以外の方の写真をパチリすることができました。まず、イム・ホー監督。さすが地元の人、人気者で、次々と記念撮影をせがむ人が。
ツァイ・ミンリャン監督(右端)と主演男優の李康生(リー・カンション/中)。もう46歳なのにそばで見ても若いリー・カンションは、今でも「小康(シャオカン)」という呼び名がピッタリです。
モフセン・マフマルバフ監督と奥様。旧知の日本の友人(実はこの方、最近のインド映画公開の功労者でもあります)と話しておられました。
スクリーンは数百人入るかという一番大きなホールだったのですが、ぎっしり満員。映画祭事務局でチェックした時に満員ということがわかり、そういう時VIPゲストは希望すれば招待券がもらえるのですが、私はプレスの身分なのでチケットはもらえず。事務局の友人の、「必ず空席があるから、待っていれば入れるよ」という言葉通り粘ってみたら、とても親切な映画祭の現場責任者の方がホール内をチェックしに行ってくれ、「一番前とかですがいいですか?」と入れてくれました。ラッキー! 20分遅れぐらいで(きっと舞台挨拶があったと思うので10分遅れぐらい?)中に入ることができました。では、4作品を簡単にご紹介しておきましょう。
モフセン・マフマルバフ監督『房客/Tenant』
イギリスに暮らすイランからの難民青年、アミール・アリーが主人公となります。彼は、ハンディキャップのある人たちの案内を請け負い、お金を稼いで暮らしています。少しでもお金がほしいため、同時に何組もの顧客を受け持つアミール。エリザベス女王がテームズ川を船で下るパレードがあった雨模様のこの日、彼が受け持ったのは車椅子の老婦人とそのお供の子犬トゥイッギー、そして目が不自由な若い女性で、ポルトガル人のマルガリータ、やはり目が不自由な青年で、バチカンから来ているアレッシオの3人でした。アミールはうまく3人を案内していましたが、途中イランでのトラウマで気を失ったりし、また老婦人をトイレに連れて行くために見物の場を離れたりして若い2人とはぐれてしまい、おまけに犬までいなくなるというハプニングに見舞われます....。
英語をなかなか達者に話すアミールがうまく3人をさばいていく様子や、目の不自由な若い2人が「あなたの好きな色は?」「グリーンだよ」「この音は何かしら?」とか他愛ない会話から心を近づけていくシーンにはこちらも胸が温かくなりますが、やはりつらい結末が、という苦みを含んだ作品でした。上空で警戒する警察のヘリの音で、アミールは気を失ってしまうのですが、そこにイランの現状への批判を込めて....というところなのでしょう。
イム・ホー監督『死後三天/Three Days after My Death』
ホームレスの人にお弁当を恵んでいた中年女性が、帰途自動車にひかれて危篤状態に。彼女はその時「天使」と名乗る若い男性と出会います。天使は彼女を野原に案内してくれ、花をプレゼントして彼女の話を聞いてくれます。彼女にはアメリカで働く息子がおり、ちっとも帰省しない、それも嫁が悪いからだ、と彼女はさんざん愚痴ります。とその時、ホームレスの男性が自殺してしまい、彼も仲間に加わってきます....。
死亡直後の脳内世界、みたいな内容で、ぼかしたアップの映像多用、過剰なBGMと、ちょっとしんどい作品でした。
ツァイ・ミンリャン監督『無無眠/No No Sleep』
ずっとシリーズで続いている、リー・カンションが行者のような格好をして超ゆっくりと街を歩く、という作品の一つで、今度の舞台は東京です。渋谷の歩道橋にうごめく影は、深紅の衣をまとったリー・カンション。スローモーション的な動きで、ゆーっくりと一歩を踏み出して行きます。それが続いた後は、地下鉄日比谷線、山の手線などの電車から写した映像が続き、そしてカメラは深夜のサウナへ。そこで独り体を洗っているのは、安藤政信。湯船にはリー・カンションが沈んでいて、やがて安藤政信も隣に入ってきます。じっとゆだっている(笑)二人。リー・カンションの右手と安藤政信の左手が湯の中で交差して....。
と書くとちょっと期待してしまうのですが(笑)、何も起こらず、あとは二人が別々に寝ている姿を写すだけ。BGMも一切なく、静かな映像が続きます。でも、力のあるその映像にぐぐっと引きつけられる作品でした。安藤政信はシャワーのシーンでオールヌードの全身をさらしてくれます。勇気がありますねー。
ホアン・チェンシン監督『失眠筆記/Insomniac Diary』
この作品は北京の金持ち青年梁(リャン)が主人公。彼のモノローグで始まります。不眠症に悩む彼は医者にセラピーを受けており、そこで過眠症に悩む25歳の女性周(ジョウ)と出会います。二人は梁の近代的で豪華なマンションで同居し始めますが、周の過眠症がどんどん度を増していき、梁は監視カメラを据え付けたりして、いつ何時彼女が眠りに落ちて倒れても助けられるようにします。でも、ある日....。
ラストシーンは、いろいろ解釈できる映像になっていました。しかし、大会社勤務とはいえ、あの程度の役職でこんな豪華なマンションに住めるのか....。料理も編み物も上手な男、という梁(ショーン・ドゥ)のキャラはさわやかで感じがよく、周役の佟麗婭(トン・リヤ)との美男美女演技を楽しめる作品でした。
さてさて映画祭報告、あと2回ほど続きます。作品のスチールは全て、第39回香港国際映画祭の提供です。
Photo(C)39th Hong Kong Internatinal Film Festival