映画祭以外に見た映画のことを書いておきます。劉徳華(アンディ・ラウ)主演の、少々変わった映画があったのです。「変わった」というのは映画自体ではなく、アンディ・ラウの役柄としては、という意味です。
タイトルは『失孤/Lost and Love』、監督は彭三源、出演はアンディ・ラウのほか、井柏然(ボラン・ジン)、呉君如(サンドラ・ン)、梁家輝(レオン・カーファイ)ら。彭三源という人は、調べてみると女性監督で、作家、脚本家としてこれまで活躍してきた人のようです。特にテレビドラマの脚本を多く手がけているようで、『失孤』で初めて映画監督に挑んだとか。
物語は、中国で頻々と起こっている幼児連れ去り事件を扱っています。1998年に2歳の息子を誘拐された雷澤寛(アンディ・ラウ)は、15年の間ずっと息子を探し続けています。彼のバイクの後ろには、2歳の息子の写真を引き伸ばした旗がひるがえり、中国全土を回っては尋ね人のチラシを配ってまわる日々。人々は、「15年も経ってたら、会っても顔がわからないだろうに」とか言い合いますが、雷はどこかの村や町に「誘拐されて連れてこられた子がいる」と聞けば出向いて確認し、また旅に向かうのでした。
ある村でバイク事故に遭った雷は、村の修理工場の青年曾(ボラン・ジン)に助けられます。曾もまた、どこかから誘拐されてきた子供でした。年が合わないため息子ではなかったものの、親を探したいという曾の子供の頃の写真もバイクの後ろに付け、雷はまた旅に出ます。そして、後を追ってきた曾と合流した雷は、雷の故郷らしき村に行きつくのですが....。
中国の苦い現実を描き出す本作はロードムービーともなっており、中国人の様々な旅を垣間見ることができます。アンディ・ラウの役は、絶望的な状況にいながらも希望を失わない、貧乏だけど強靭な魂を持った男。途中道を間違えてパトカーに注意され、事情を聞いた警官(レオン・カーファイ)からそっとカンパをもらった時は、その記録をノートにつけてあとで返そうとする、という律儀な男でもあります。中国人俳優なら、陳道明(チェン・ダオミン)や張涵予(チャン・ハンユー)ら、この役に似合いそうな人がいっぱいいると思うのですが、それをあえてアンディ・ラウが演じるのが、本作の見どころとなっています。ただ、それでアンディが新境地を開いているか、というとそこまでの見応えはなく、むしろボラン・ジンとのからみにアンディらしい軽さ、明るさが出ていて、引かれるものがありました。
こういう幼児誘拐というか連れ去りは、子供が売れる、という現実があるからで、本作の中でもサンドラ・ン扮する女性が赤ん坊を跡継ぎのほしい家に売りに行くシーンが描かれます。彼女は結局捕まるのですが、子供たちは跡継ぎだけでなく労働力としても売られていき、戸籍がないまま成長していきます。本作でもボラン・ジン演じる曾が、「戸籍がないから学校に行けなかった」というシーンがあり、養父母はよくしてくれても結局は闇の存在として大きくなるしかないのです。日本ではちょっと考えられませんが、広大な中国では各地で起きていることのようです。
あと1本、上の作品『台北夜蒲團團轉/One Night in Taipei』も見たのですが、こちらはひたすらドホホなお色気が売り物の作品でげっそり。実はホテルから徒歩3分の所にある新寶戯院という映画館でやっていたのと、映画祭と同時期に開かれているフィルマートでの上映作品に入っていたため、つい見てしまったのですが、勘弁して、の作品でした。香港人が台湾に行って、怪しい世界に引き込まれる、というアバンチュールものですが、今後タイトルに「蒲團」が付いていたら絶対に見ないことにしよう、と固く心に誓った次第です。数年前に大ヒットしたポルノ映画『3D SEX&禅』の原題が「3D肉蒲團之極樂寶鑑」なので、その流れを組んでいるもの、という意味なんですね。
新寶戯院、もう1本の上映は『シンデレラ』で、女子中学生がいっぱい入って行っていました。こっちにすればよかったなー。
ところで、今回いつものホテルが取れなくて仕方なく泊まったスタンフォード・ホテルは、サービスが非常によくて、ちょっと料金が高いホテルってこんななんだー、と久しぶりに高級感(といってもささやかなものですが)を味わいました。着いた次の日には果物が、チェックアウトの前日にはどうも自家製らしいピーナッツチョコがお部屋に届けられましたし、チェックアウト時に「タクシーをお願いします」と言ったら、「ちょうど送迎バスが出発する時間なのでどうぞ」と貸切状態で九龍駅へ。スタッフの皆さんがとても行き届いていて、気持ちよかったです。
禁煙フロアも半分以上を占めているし、洗濯物はよくかわくし、すぐ近所に郵便局もあるし(私がチェックする三大ポイントがこれ)、お金があるなら毎回でも泊まりたいぐらいです。でも、いつも泊まるホテルより5割増しの料金(14,000円弱)なので、次はまた旺角のいつものホテルになると思います。では、あとの報告は日本に帰ってから、ということで~。