アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

第35回香港国際映画祭が終わってた

2011-04-09 | 中国映画

段ボールの山を築くのに汲々としていたら、今年の香港国際映画祭がとっくに終わっていました。最終日は清明節で休日だった4月5日(火)でしたが、今年は特にクロージング・セレモニーもなかったみたいです。

香港国際映画祭はグランプリ授与というような大きなコンペはない代わりに、<アジア映画デジタル作品コンペ><ドキュメンタリー作品人道賞コンペ><国際ショートフィルム・コンペ>が設けられています。今年の<アジア映画デジタル作品コンペ>で金賞を獲得したのは、中国映画『老狗』(英語タイトル:Old Dog)でした。なお、銀賞はタイ映画『永遠』(原題:Tee rak/英語タイトル:Eternity)に、さらにスペシャルメンションが中国映画『太陽總在左邊』(英語タイトル:The Sun Beaten Path)に与えられました。

『老狗』はチベットを舞台にした、老人と犬の物語です。と書くと、ほのぼのペット物語みたいですが、もっと厳しい、生と生活の現実を描いています。

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中国は今ペットブーム。チベット犬が人気なのに目を付け、父親の愛犬を売り飛ばして息子は飲んだくれます。老いた父親は娘婿の協力で愛犬を取り返したものの、その後も盗まれかけたり、しつこく売れという金持ちが現れたりと、もはや愛犬は心を慰めてくれる存在ではなくなっていきます。

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息子夫婦に子供ができないのも老人の悩みなのですが、病院で検査してもらうよう言っても、嫁は従うものの息子は結局無視。さまざまな重圧が、やがて老人に思いもかけない行動を取らせてしまいます...。

毅然とした老人の姿が魅力的なだけに、ラストのどんでん返しには、「これは煩悩からの解脱ということか?」とちょっと納得できない気持ちに。この厳しさこそが、チベット高原に生きる男の定めということなのでしょうか。

この作品はセリフがほとんどチベット語でしたが、スペシャル・メンションを獲得した『太陽總在左邊』(写真下)もチベット語の映画です。

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ここ10年ほど、特にインディーズ系中国映画では、普通話(標準中国語)ではない地方諸語で作られる作品が増えてきました。周縁からの発信というか、都市部から離れた所で営まれている人々の生活が、リアルな映像と言語で伝えられるようになってきたのです。

今回はさらに、セリフらしいセリフのない作品も見ました。王兵(ワン・ビン)監督の『無名者』(2009/英語タイトル:Man with No Name)です。昨年の東京フィルメックスで上映された『溝』 (2010)の舞台と同じ場所では、と思うのですが、そんな溝というか土中に掘られた穴に住んで、小さな畑を耕して生きている男性の1年を追ったものです。

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早春の訪れと共に、運んできた新しい土を畑に盛り上げ、トウモロコシの種を植える男性。雑草を抜いたり、馬糞を集めて堆肥にしたりと手を掛けているうちに夏が訪れ、成長したトウモロコシは実をつけます。やがて秋が来て作物は枯れ、冬がまたやってくる...。カメラは黙々と働く男性の姿を、食事する姿なども混ぜながら追っていくだけで、この男性がどうして今のような生活をすることになったのか、これからどうしたいと思っているのか等々は、何も語らせようとしません。淡々とした映画なのに、ホームレスの農業者という存在が強烈で、妙に惹きつけられてしまいます。

このほか、インディーズ系の中国映画では、『老驢頭』 (英語タイトル:The Old Donkey)もひたむきな人間を描いた作品でした。辺境の村で、砂漠と化した傾斜地に柳の苗を植えようとする老人の話です。子供たちは都会に出てしまい、末娘だけが近所に嫁入りしたので、一人暮らしの老父の面倒を見ています。老父の相棒は年取ったロバ。もう長らく一緒なので、近所の人たちも老父のことを「老驢頭」と呼んだりします。

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 村落委員会からは、「勝手に土地を使い、木を植えてもらっては困る」と言われ、老人が体調を崩して街の病院に入院した時には、帰ってみると木が全部引き抜かれていたりします。それでも老人は、ねばり強く砂地の斜面に柳の苗を植えていくのです。フィクションとはいえ、斜面一面に作られた区画と、そこに植えられた柳の苗の姿は圧巻です。

こういうじみ~なインディーズ系作品も作っているかと思えば、陳凱歌(チェン・カイコー)監督作品『趙氏孤児』 (英語タイトル:Sacrifice/写真下)のような大作も生み出す中国。やはり大きな国だなあ、と思わずにはいられません。

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私の段ボール作業は、150個詰めて一昨日やっと終了。デスクの背後に段ボールの山がそびえています。一昨日、8日(木)深夜の大きな余震の時は、崩れてこないかとヒヤヒヤしました。あ、今もまた余震がありました。いったいいつまで続くんでしょう。余震だけでも、早く終息してほしいものですね。

(※印スチール写真提供:第35回香港国際映画祭)

 

 


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