『ブラフマーストラ』公開まであと6週間。今日はちょっと、ヒーローとヒロインのお話をしましょう。その前に、いつもと同じく基本データをどうぞ。
『ブラフマーストラ』 公式サイト
2022年/インド/ヒンディー語/167分/原題:Brahmastra Part One: Shiva
監督・脚本:アヤーン・ムカルジー
出演:ランビール・カプール、アーリヤー・バット、アミターブ・バッチャン、シャー・ルク・カーン、モウニー・ロイ、ナーガールジュナ・アッキネーニ
提供:ツイン、Hulu
配給:ツイン
※5月12日(金)より新宿ピカデリーほかロードショー
© Star India Private Limited.
本作の主人公はシヴァ(ランビール・カプール)。ムンバイ在住で、両親はいなくて、親がいない子供たちが一緒に住んでいる家で暮らしています。仕事はDJ。今の時期は秋のお祭りシーズンで、ダシャラ祭(ダシャヘラー/ラーマ神が魔王ラーヴァナに勝利する過程を10日間にわたって祝うその最終日。昨年は10月5日で、毎年日が変わるのは他のお祭りも同じ)、ドゥルガ女神の祭り(ドゥルガー・プージャー/9日間にわたって行われる女神ドゥルガーの祭り。昨年の初日は10月1日)、ディワリ祭(ディワーリー、ディーパーワリー/灯明をともす光の祭りで花火も使う。昨年は10月24日)と次々とお祭りがあり、それに伴ってパーティーも各所で開かれているので、DJシヴァは引っ張りだこ。そんな時、礼拝の場で見かけた女子をパーティーで見つけ、シヴァの胸は高鳴ります。彼女はイーシャ(イーシャー/アーリヤー・バット)と言い、富豪の娘でロンドン在住。たまたまお祭りの時期で、ムンバイに里帰りしているのでした。
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二人は心を通わせ合い、シヴァはイーシャを自分の下宿に連れて行きますが、その夜不思議なことが起こってしまいます。シヴァがあるビジョン(幻影)を見るのです。その中で痛めつけられる人物が、まるで自分自身でもあるかのように痛みや苦しみを体現してしまうシヴァ。イーシャはとまどいますが、そこから二人は不思議な世界へと導かれていきます。シヴァが最初に見たビジョンはデリーの科学者(シャー・ルク・カーン)が襲われた出来事で、次に2人はバラナシ(ベナレス/ヴァーラーナシー/カーシー)へと導かれ、そこではある芸術家(ナーガールジュナ・アッキネーニ)を襲う者たちと対峙します。科学者と芸術家が襲われたわけは、彼らがいずれも「ブラフマーストラ」と呼ばれる強力な武器の欠片を持っていたからでした。ブラフマーストラはかつて円盤状だったのが3つに割れ、それぞれ欠片を所持していた科学者と芸術家は、「ブラフマーンシュ」と呼ばれる集団の人々だったのです。デリーの欠片は襲ってきたジュヌーン(モウニー・ロイ)とその手下、ラフタール(スピードの意味)とテージ(パワーの意味)に奪われたものの、もう一つの欠片は手にしたシヴァ。シヴァとイーシャがたどり着いたのは、ヒマラヤ山中にあるアーシュラムで、そこにはグル(師)と呼ばれる人物(アミターブ・バッチャン)とブラフマーンシュの老若男女がいました...。
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前回とかなり重なるストーリーですが、もうこれぐらい読んでいただければ、前半の物語はバッチリでしょう。しかし、ストーリーだけ読むのと、実際の画面展開はかなり違っていますので、想像を絶する『ブラフマーストラ』の世界で思いっきり驚いて下さいね。私が感心したのは、そんな中でシヴァとイーシャの恋愛を「愛は強し!」として歌い上げていることで、ブラフマーストラという最強の武器を打ち負かすことができるのは至高の愛だけ! がテーマでは、と思ってしまうほどです。本作の監督アヤーン・ムカルジーは『ブラフマーストラ』の前に、日本でも公開された『若さは向こう見ず』(2013)を撮っています。これもランビール・カプール主演で(アヤーン・ムカルジーのこれまでの3作品は3本ともランビールが主演)、自由な心と考え方を持った主人公(ランビール)に、ガリ勉メガネっ娘女子(ディーピカー・パードゥコーン)が惹かれたものの、そのまま主人公は海外に出て、二人が再会したのは8年後。昔の仲間の結婚式でまた顔を合わせた二人は、8年の空白を経て互いの心を確かめ合う、という物語でした。その中の挿入歌シーン「Bdtameez Dil(お行儀の悪い心)」は、歴代ソング&ダンスシーンのベスト10に入る素晴らしさでしたが、青春ものの上手い監督、というイメージが強く残りました。
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今回の『ブラスマーストラ』は「ファンタジー・アドヴェンチャー・アクション映画」と謳ってあったのではてさてどんなものかしらん、と思っていたところ、前述したようにアヤーン・ムカルジー監督の良さがしっかり出ていて、ラブストーリーとしても見応えがあります。そして観客の側からすると、実生活でも恋人の二人、ランビール・カプールとアーリヤー・バットの恋物語を大画面で見られるので、よりうっとりすることでしょう。インドでの大ヒットはそれもあったのかも知れません。ご存じだと思いますが、ランビール・カプールは曾祖父がインド映画黎明期の著名俳優プリトヴィー・ラージ・カプール、祖父が1940年代から80年代までインド映画界のキングとして監督・俳優・製作者として活躍したララージ・カプール。そのラージ・カプールの次男であり、70・80年代のトップ男優で人気者のリシ・カプールが父で、母はリシの相手役の人気女優ニートゥ-・シン、というサラブレッド中のサラブレッドです。親戚には著名な俳優がわんさかいて、従姉はカリーナー・カプールと、トップ男優にならないのが不思議という位置にいるのがランビールです。日本では、『バルフィ!人生に唄えば』(2012)や『SANJU/サンジュ』(2018)も公開されているほか、アーミル・カーン主演の『PK/ピーケイ』(2014)のラストにもちょこっと出てきていました。
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一方のアーリヤー・バットはこれまた映画人一族の出で、父は1980・90年代の超人気監督マヘーシュ・バットであり、母はアート系作品を中心に女優として活躍しているソーニー・ラーズダーン、父の前妻の娘プージャー・バットも90年代は人気女優として活躍し、今はプロデューサーにもなっているほか、親戚には映画人がゴロゴロ。2020年にスシャント・シン・ラージプートが亡くなった時、ネポティズム(縁故主義)批判が巻き起こりましたが、そのやり玉に挙げられたのもわかる、映画人一族の出です。ただ、アーリヤー・バットは、2012年のカラン・ジョーハル監督作『スチューデント・オブ・ザ・イヤー 狙え!No.1!!』はコネ出演だったかも知れませんが、以後は問題作、意欲作にどんどん出演していき、若手女優としては一風変わった出演履歴を築いてきました。『ガリーボーイ』(2019)を見てもわかるように、確かな演技力に裏打ちされたキャラクター作りの妙に長けている女優で、ボリウッド映画界では一番の演技派と言ってもいいかも知れません。だからこそ、S.S.ラージャマウリ監督が『RRR』(2021)にも起用したのではないかと思います。
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そんなアーリヤーが、過去にはディーピカー・パードゥコーンやカトリーナ・カイフと浮名を流し、カトリーナとは結婚寸前まで行ったランビール・カプールとなぜ恋人同士になったのか。これは長い間私にも不思議だったのですが、今回調べてみると、アーリヤーは14歳の頃ランビールがデビューした時にファンになったのだとか。それから10年ちょっと、かつての少女は一人前の女優になり、何かの機会にランビールと会ってお互いに恋に落ちた、ということらしいです。それが2018年あたりらしいのですが、ちょうどその頃、ランビールの父リシ・カプールは白血病を発症、妻のニートゥーと共にニューヨークで治療にあたっていたのですが、ランビールとアーリヤーが見舞いに訪れる姿がたびたび目撃され、それで二人が付き合っていることがわかったのでした。その後、治療のかいなく、リシは2020年4月30日に亡くなります。さらに同じ頃からコロナ禍がインドを襲い、映画撮影現場も映画館も大混乱となったため、ランビールとアーリヤーのこともあまり噂にのぼらなくなったのでした。続いて2022年3月25日の『RRR』公開に向けてアーリヤーの露出が多くなり、一方ランビールも2022年7月の『Shamshera(シャムシェーラー)』公開に向けて露出が増えてきた...と思ったら、唐突に二人が結婚式を挙げることが発表された、というのが正直な印象です。
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これは、あとからいろいろ考え合わせると、アーリヤーの妊娠がわかり、急遽結婚式を挙げた、というのが正直なところではないかと思います。二人が結婚したのは2022年4月14日で、結婚式場は自宅という、スター同士の結婚式には似合わぬ”地味婚”でした。コロナ禍前から、大スターの結婚式は海外、またはラージャスターンのお城のホテルで親族・友人を招いて大々的に行う、というのがトレンドになっていたのですが、それに比べるとずいぶんお手軽婚だな、と思ったのを思い出します。そして結婚式からほどなくしてアーリヤーの妊娠が伝えられ、9月9日の『ブラフマーストラ』公開の頃にはお腹が目立って大きくなり、映画がヒットを続ける11月6日に女の子誕生のニュースが駆け巡ったのでした。というような、映画を地で行くラブストーリーにも後押しされて『ブラフマーストラ』は大ヒット、2022年のヒンディー語映画興収第1位を獲得したのでした。この、リアル恋愛&結婚を知って映画を見てみると、二人の愛情の強さがグッと胸に迫ってきます。ぜひ至高の愛を、『ブラフマーストラ』で目撃して下さいね。最後に予告編を付けておきます。
『ブラフマーストラ 』本予告