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アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

ベトナム映画の薫風が吹く:『サイゴン・クチュール』&『ソン・ランの響き』

2019-12-25 | 東南アジア映画

ここ10年ほど、目立ってきたのがベトナム・ブーム。ベトナム料理店も増えました。私が好きなお店は有楽町の「ベトナム・アリス」で、あそこのパクチーと水菜のサラダは毎日でも食べたいぐらい。デパ地下にもベトナム料理コーナーがあったりして、今やタイ料理と互角ぐらいの浸透度になってきましたね。ほかにも、ラタン(籐)家具とか小物とか、ベトナムのグッズもよく見かけるようになりました。そしてついにフリーペーパーも出現、「日越文化通信/ロータス・タイム」というこんなかわいい雑誌です。裏表紙のベトナム航空の宣伝も素朴なかわいさがあるので、一緒にスキャンしておきましょう。「ロータス・タイム」はこちらでご覧になれますので、ぜひアクセスしてみて下さい。


このベトナム・ブームを押し上げているのが、続々と公開されるベトナム映画。ちょっと前まではベトナム映画=トラン・アン・ユン監督作品だったのですが、その後映画祭等の場でいろんな作品が上映されるようになり、特にアルゴ・ピクチャーズが積極的に新作を紹介し始めてからは、ぐっと作品の幅が広がりました。今回は、そんなアルゴ・ピクチャーズが「ムービー・アクト・プロジェクト」の名前で配給、宣伝等に関わった2作品のご紹介です。


『サイゴン・クチュール』 公式サイト
 2017年/ベトナム/ベトナム語/100分/原題:Cô Ba Sài Gòn/英語題名:Tailor
 監督:チャン・ビュー・ロック、グエン・ケイ
 出演:ニン・ズーン・ラン・ゴック、ゴー・タイン・ヴァン、ホン・ヴァン
 配給:ムービー・アクト・プロジェクト
 特別協賛:松竹株式会社
12月21日(土)より新宿K's Cinemaほかでロードショー中

(C)STUDIO68

1969年のサイゴン。現在はホーチミン市と名前を変えていますが、当時は南北に分かれていたベトナムの南ベトナム、つまりアメリカ(1969年は大統領がジョンソンからニクソンに代わった年)に後押しされたグエン・バン・チュー大統領のベトナム共和国の旗色が、だんだんと悪くなってきていた頃でした。でもサイゴンの町は、太平洋戦争前の植民地時代の宗主国フランスの文化と、アメリカ文化の両方の影響を受け、繁栄を謳歌していたのです。そんな時代の最先端を行き、ファッショナブルで美しい容姿から3年連続ミス・サイゴンに選ばれたのは、9代続くアオザイの仕立屋の娘ニュイ(ニン・ズーン・ラン・ゴック)。でもニュイはアオザイをバカにしていて、西洋風ファッションのデザイナーを目指していました。そんなある日、店に目を引く豪華なアオザイが登場、ついそれを着てみたニュイは、胸元を飾る翡翠の光に運ばれて、何と現代の2017年にタイムスリップしてしまいます。高層ビルや走り回る車を見て、「こんなの、私のサイゴンじゃない!」と悲鳴をあげるニュイ。ところがさらに悲劇だったのは、48年後の自分自身との対面。だらしなく太った中年女、これが私? しかも、母は亡くなり、仕立屋は閉店。衝撃から立ち直ったニュイは、運命を変えるべく現代ファッションの世界に飛び込んでいきますが...。

(C)STUDIO68

ご紹介が公開日より後になってしまったのですが、とーっても面白い&興味深い映画なので、ベトナム好きの方はもちろん、ファッション好き、カワイイもの好き、歴史好き、SF好き(珍しい、タイムスリップものの掟破り作品です)...いろんな人を魅了する作品になっています。私はベトナム戦争世代(大学時代がちょうど1975年のサイゴン陥落の少し前で、学内で「ベトナム戦争反対! 北爆をやめろ!」とかやっていた)なので、冒頭の1960年代のドキュメンタリーに捉えられたサイゴンがとても興味深かったです。今回の画像では、アオザイ姿の写真であまりいいのがなかったのですが、ニュイの母親役のゴ・タイン・バン始め、美しいアオザイ姿もいっぱい拝めます。アオザイの仕立て風景もあり、「そこがポイントなのね!」という発見も。

(C)STUDIO68

ゴ・タイン・バン(上写真のメガネ美女)は本作では、大人しいけれど芯の強い母親役ですが、ご存じの方もいらっしゃるように、ベトナムを代表する女優ベロニカ・グゥとして『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017)にも出演しています。また、アクション映画『The Rebel 反逆者』(2007)や『ソード・オブ・デスティニー』(2016)、歴代興収記録を打ち立てたという報道も見られた『ハイ・フォン』(2019)等では、戦うヒロインとして華麗なアクションも披露。『フェアリー・オブ・キングダム』(2016)では出演と共に監督も、というすごい才能の持ち主です。本作ではプロデューサーとしても活躍していますが、やはり『フェアリー・オブ・キングダム』に出演し、ゴ・タイン・バンと悪者母娘を演じたニン・ズーン・ラン・ゴックとは息がピッタリ合ったところを見せ、本作を見応えのある作品に仕上げています。アクション女優とはまた違った、ゴ・タイン・バンの魅力を堪能して下さい。最後に楽しい主題歌のプロモ映像を付けておきますので、アオザイの優雅なデザインをお楽しみ下さい。

Cô Ba Sài Gòn OST - Đông Nhi | Nhạc Phim Chính Thức



『ソン・ランの響き』 公式サイト
 2018年/ベトナム/ベトナム語/102分/原題:Song Lang
 監督・脚本:レオン・レ
 出演:リエン・ビン・ファット、アイザック、スアン・ヒエップ
 提供:パンドラ 
 配給協力:ミカタ・エンタテインメント 
 配給宣伝:ムービー・アクト・プロジェクト
※2020年2月22日(土)より新宿K's Cinema他ロードショー

(C)2019 STUDIO68

1980年代のホーチミン市(旧サイゴン)。ユン(リエン・ビン・ファット)は高利貸しを行う女性ズーのもとで、取り立て屋として働いていました。その情け容赦のない取り立てぶりは有名で、カイルオン劇団の座長のもとに取り立てに出向いた時には、返せないという座長に対し、舞台衣裳を重ねた上に油を撒いて火を付けようとするという非道ぶり。見かねた座員のリン・フン(アイザック)は、自分の金鎖と時計をはずしてユンに差し出しますが、ユンは腕時計を受け取らずにそのまま去って行きました。リン・フンは花形役者として、人気の出し物「ミー・チャウとチョン・トゥイー」のチョン・トゥイーを演じていましたが、ある時食堂で男たちにからまれ、ケンカになってしまいます。リン・フンをかばったのが、たまたま食事に来ていたユンで、ユンは気を失ったリン・フンを自宅に連れ帰ります。芝居には穴をあけてしまったものの、ユンの自宅で彼の素顔を知ることになったリン・フンは、ユンの父が芝居の一座で楽器ソン・ランを奏でていたと知って親近感を覚えます。父の形見のソン・ランを取り出し、父の書いた詞を歌ってくれるようリン・フンに頼むユン。こうして二人の心は近づいていくのですが...。

(C)2019 STUDIO68

南北ベトナムの統一が実現したのは1976年。サイゴンからホーチミン市に改名されたのは1975年のサイゴン陥落後すぐとのことですが、それから数年後のホーチミン市はまだ”敗戦気分”が漂っていたようです。北ベトナム(ベトナム民主共和国)と南ベトナムでゲリラ活動をしていたベトナム解放民族戦線が勝利し、国が統一されてベトナム社会主義共和国ができるわけですが、元の南ベトナム(ベトナム共和国)に属していた人々には閉塞感があったのでしょう。さらに、伝統的大衆演劇の世界や裏社会的な世界に属していたとすると、新しい時代に取り残される鬱屈感も漂っていたに違いありません。そんな時代の雰囲気も、本作は伝えてくれます。

(C)2019 STUDIO68

リン・フンの一座は「カイルオン(改良)」と呼ばれる、古典演劇に改良を加えた大衆演劇を演じていますが、感じとしては京劇や粤劇などの中国古典演劇とは少し肌合いが違っていて、台湾でよく演じられる歌仔戯(コアヒ)に近いようです。劇中で演じられているのは「ミー・チャウとチョン・トゥイー」で、漢字で書くと「媚珠と仲始」らしく、紀元前210年の安陽王(アンズオン)の時代に起きた、安陽王の娘媚珠と隣国の王子仲始との悲恋物語を描いたものだとか。私がカイルオンの名前を知ったのはもう30年以上前ですが、実際に見たのは本作が初めてです。その節回しも不思議な音階で、歌仔戯とはまた違う、ベトナムで独自に発展した大衆演劇をじっくりと見られるありがたい作品でした。

(C)2019 STUDIO68

タイトルにもなっているソン・ランは弦楽器なのですが、漢字で書くと「雙郎」になるらしく、「2人の男」を表す言葉でもあるとか。確かにユンとリン・フンの間には、友情というより愛情と表現した方がぴったりするような感情が漂います。特にユン側からのベクトルが強いようで、本作に関する香港のサイトに載った映画評を見ると、本作を『さらばわが愛 覇王別記』になぞらえて論じているものが目立ちます。監督のレオン・レ(下の写真は2018年10月の東京国際映画祭(TIFF)会場で写したもの)にはそこまで踏み込む意図はなかったようですが、深読みもできてしまう作品ではあります。

昨年のTIFFでご覧にならなかった方は、ぜひ劇場でご覧下さい。昨年のTIFFではユンを演じたリエン・ビン・ファットも来日しましたので、彼の写真も付けておきます。結構映画の感じとは違うので、見比べてみて下さいね。

今後もアクションからコメディ、しっとりしたドラマまで、上映が続きそうなベトナム映画。2020年は、日本におけるアジア映画上映に薫風が吹く気配です。



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