アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

『Badrinath Ki Dulhania(バドリーナートのお嫁さん)』と『Trapped(閉じ込められて)』

2017-03-18 | インド映画

インドで見た映画で、書き漏らしていた作品について書いておきます。3月半ば、ホーリー祭に向けて公開された『Badrinath Ki Dulhania(バドリーナートのお嫁さん)』は、まずまず楽しい作品でした。最近のインド映画は、自立しようとする女性を描く傾向が目立ちますが、この『バドリーナートのお嫁さん』は少々ハタ迷惑な、自立志向女性が主人公です。監督は、『Humpty Sharma Ki Dulhania(ハンプティ・シャルマーのお嫁さん)』(2014)でデビューしたシャシャーンク・カィタン。前作と同じくカラン・ジョーハル製作、アーリアー・バットとヴァルン・ダワン主演で、舞台をラージャスターン州のコーターとシンガポールに移して、またまた勢いのあるラブコメを作り上げました。以下の紹介はネタバレも含んでいますので、嫌な方はスキップして下さいね。

बद्रीनाथ की दुल्हनिया पोस्टर.jpg

ラージャスターン州の東南部にあるコーターに住む、大金持ちのバンサル家の次男バドリーことバドリーナート(ヴァルン・ダワン)は、いつも友人ソームデーウ(サーヒル・ヴァイド)とつるんでは夢のようなことを考えている、ちょっと柄の悪いおぼっちゃまです。そんな彼が一目惚れしたのは、堅実な家庭に育ったヴァイデーヒー・トリヴェーディー(アーリアー・バット)。ヴァイデーヒーを追いかけるバドリーでしたが、彼女からは「姉が未婚だから、姉の結婚が決まらないと結婚できない」と言われてしまいます。それならとバドリーは彼女の姉の結婚相手にある宗教家の息子(アパルシャクティ・クラーナー/アーユシュマーン・クラーナーの弟)を選び出し、めでたく2組のカップルが誕生しました。2組同時の盛大な結婚式が挙げられる当日、2人の花婿行列も到着したのに、ヴァイデーヒーだけが姿を現しません。何とその頃ヴァイデーヒーは駅に向かっており、自分の夢であるキャリア実現のための家出を決行したのでした。その後、ヴァイデーヒーはシンガポールのシルクエアにCAとして就職、研修のためにシンガポールに滞在していました。それを知ったバドリーは、「花嫁を取り戻せ!」とばかりソームデーウとシンガポールに向かいますが...。


本作は、テレビ局ズームともタイアップして、上のようなホーリー作戦@バス停留所を各地で繰り広げました。私が見たのはプネーとムンバイですが、街のあちこちのバス停に派手なこの宣伝ディスプレイが出現していたので、相当な集客効果があったのでは、と思います。それもあってか客足の伸びはよく、すでに13億5千万ルピー(約23億円)を稼ぎ出しました。”ボーイ・ミーツ・ガール”で男の子が女の子を追いかけ、紆余曲折があって結局はハッピーエンド、というのはラブストーリーの定番ですが、今回はそれにキャリア志向の花嫁が結婚式直前に逃亡、という衝撃が入ってインターバルに。その後シンガポールという別世界で男女ともに成長する、という”ならし”を入れたのち、女の子が2年間のキャリアを生かして地元で起業して男の子と結ばれる、というハッピーエンドに持って行っています。前半は地方都市コーターのきれいな風景や、湖を水上バイクで走るシーン、「世界の七不思議公園」とかいう名前のタージマハル等ミニモニュメントなどがある公園でのロケなどで目を楽しませ、後半はシンガポールでの生活を見せてくれて、このあたりも観客には楽しいところ。

ただ、あまりにも身勝手な花嫁逃亡は、バドリーだけでなく両家の全員に深い傷を残したわけで、これはいくらチャーミングなアーリアーが演じたとしても「人間失格」の部類ではないかと思われます。また、シンガポールをよく知る身としては、インドでのテンションの高い言動がシンガポールでは異常に見える、というのを今更ながらに発見し、警察につかまるシーンなどを興味深く見てしまいました。シンガポールの女性警官役の人がカッコ良かったのですが、これってゴゥハル・カーンでしょうか。予告編を付けておきます。

Badrinath Ki Dulhania - Official Trailer | Karan Johar | Varun Dhawan | Alia Bhatt

この中でもフィーチャーされている歌「Tamma Tamma Again」ですが、「再び」というだけあって元歌は1990年の『Thanedaar(警察署長)』で使われた「Tamma Tamma Loge」。翌年のアミターブ・バッチャン主演作『タイガー 炎の三兄弟』(1991)にも同じメロディーで「Jumma Chumma De De」という歌があるのでわかるように、元歌の元歌があって、モリ・カンテの「Tama」がそれ。当時聞いた時は「アフリカン・ミュージックまでパクった!」と驚いたりあきれたりしたものですが、今、これを書くためにモリ・カンテやサリフ・ケイタの曲をYouTubeで聞いてみると、イントロ部分などボリウッド映画音楽で聞き覚えのあるメロディーがどっちゃりありました。今回もクレジット料は払ってないんでしょうねぇ、作曲家バッピー・ラーヒリー。

Badrinath Ki Dulhania Cover.jpg


あと、もう1本、インドから離れる直前に見たのは、ヴィクラマーディティヤ・モートワニー監督の『Trapped(閉じ込められて)』。ヴィクラマーディティヤ・モートワニーはデビュー作『Udaan(飛翔)』(2010)で注目された監督で、日本では『Lootera/略奪者』(2013)がインディアン・フィルム・フェスティバル・ジャパン(IFFJ)で上映されています。『閉じ込められて』の主人公を演じるのはラージクマール・ラーオで、間もなく『クイーン』(2014)でも皆様の前に現れますが、以前大阪アジアン映画祭で上映された『わが人生3つの失敗』(2013)にも出ていた俳優です。この頃から演技のうまい俳優として注目されていましたが、その後IFFJでも上映された『アリーガル』(2016)でも記者役でいい演技を見せていました。今回も、3分の2ほどは独り芝居という役柄を見事にこなして、映画の緊張を持続させてくれます。

Trapped Poater.jpg

物語は、気の弱いメガネ青年ショウリヤ(ラージクマール・ラーオ)が同じ職場の美女ヌーリー(ギーターンジャリ・ターパー)におずおずとアタックの電話を掛けるシーンから始まります。やがて2人は付き合うようになりますが、実はヌーリーにはもう結婚相手がおり、2人が恋人同士になった時には、2日後が結婚式という切羽詰まった状況でした。「僕と結婚してくれ」「あなたのことは好きだけど、結婚しても住む部屋もないでしょ」それまで男友達数人と部屋をシェアしていたショウリヤはあわてて部屋を探しますが、彼が出せる月15,000ルピー(約25,000円)の家賃の家族用住居なんて、ムンバイではどこを探してもありません。不動産屋を回り回って消耗したショウリヤでしたが、彼の前にある男が現れ、「あるよ」と言って彼を人気のない高層マンションに連れて行きます。部屋は広く、家具まであるので、即ショウリヤは契約し、男に15,000ルピー渡して引っ越しました。次の日、ヌーリーに電話で起こされたショウリヤは、あわてて結婚式場所に駆けつけようとしますが、いったん部屋を出たあとで携帯を忘れていたことを思い出します。昨夜は充電が十分できず、そのまま置いてきた携帯が鳴っていたため、あわてて鍵をドアに差し込んだまま部屋にとって返したところ、そのままドアが閉まって開かなくなってしまいました。そういえば、最初から開け閉めがやりにくい、問題ドアだったのです。

ところが、呼べど叫べど、誰も来ません。鍵屋に来て開けてもらおうと電話しましたが、携帯の充電が不十分で途中で切れてしまいます。台所にあったペンチでドアの鍵を開けようとしても開かず、なぜかそのうち電気も水も止まってしまいました。食糧もなくなり、ショウリヤは追い詰められていきます....。


大都会のうち捨てられたマンションに閉じ込められた男のサバイバルを描く作品で、最初「そんなの、連れられて来た時におかしいと思わなくっちゃ!」と思って見ていたこちらも、だんだんとその状況に引き込まれてしまいます。ツッコミどころもあるものの、日本を出る直前に見た韓国映画『トンネル』(2016)にも重なる部分があって、ディテールを十分に堪能しました。予告編を付けておきます。

TRAPPED | Official Trailer | Rajkummar Rao | Dir : Vikramaditya Motwane | Releasing 17th March 2017

映画も面白かったのですが、映画館でちょっと面白いハプニングがありました。本作はインターバルが入っていなくて、劇場側で勝手に途中で映写を止めたようなのですが、後半が始まる時、黒味画面のままなかなか始まらなかったのです。誰か映写室に声をかけてよ~、とか思っていたら、そのうち映写室から漏れる光をバックに、スクリーンに影絵が登場しました。後ろの方の席の誰かだと思うのですが、日本でもよくやる犬がワンワンとかの影絵です。これには場内大笑いで、拍手も起きて場がなごみました。


ムンバイの映画料金はのきなみ200ルピー超で、後ろの方はシートが豪華にしてあって300ルピー以上します。この時は朝一の上映だったため、私が座った前の方の席は120ルピー、後ろの席でも160ルピーでしたが、茶目っ気のある人が高い席に座っていたおかげで、印象深い上映となりました。



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