やっと1月らしい寒さになってきましたね。数年前まではこの時期になると韓国へ行って、映画を見たり資料収集をしたりしていたのですが、よく大雪や零下10数度という寒さに悩まされたものです。最近は、韓国映画が本国公開から間をおかずして日本でも公開されるようになり、すっかり韓国ともご無沙汰になっています。でも今年はあまり寒くなくて動きやすいと思うので、ちょっと行ってみたい気がふつふつと。どうも、奈良に行ってから、旅行の虫がもぞもぞとうごめき出したようです。
さて、その韓国映画から、またまたとんでもない作品が誕生しました。脚本の出来と俳優の演技のうまさにはいつもうならされている韓国映画ですが、今日ご紹介する作品はアイディアでアッと言わせられる1本です。タイトルは『ビューティー・インサイド』。これだけだと女性の美しさの話かと思ってしまうのですが、いえいえいえ、思いも寄らないアイディアを使った作品で魅了されます。まずは、基本データとストーリーをどうぞ。
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『ビューティー・インサイド』 公式サイト
2015年/韓国/127分/原題:뷰티 인사이드(Beauty Inside)
監督:ペク
主演:ハン・ヒョジュ、パク・ソジュン、上野樹里、イ・ジヌク、キム・ジュヒョク、ユ・ヨンソク他
配給:ギャガ・プラス
宣伝:田中館、菅野
※1月22日(金)よりTOHOシネマズ新宿、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次大公開!
主人公は、29歳のウジン。家具デザイナーとして友人サンベク(イ・ドンフィ)と共に著名な家具工房を持っている彼には、重大な秘密がありました。それは何と、眠りについてから次に目覚めると、まったくの別人に変わってしまうという”病気”でした。これが発症したのは高校生の時からで、ある朝起きるとウジンは、額が後退した中年男(ペ・ソンウ)に変身していたからさあ大変! 母(ムン・スク)は冷静に受け止めてくれ、以後、母と親友サンベクのみがこの秘密を共有して彼を支え、何とかウジンは社会生活を続けてこられたのでした。
ウジンが変身する人間は千差万別。同じ年頃の男子もいれば、年寄りも子供もいますし、女性への変身も頻繁に起こります。時には金髪碧眼の外国人女性になることもあり、まったく予測のつかない、目覚めた時の「出たとこ勝負」的変身なのです。ところが、そんなウジンがアンティーク家具専門店で働く女性イス(ハン・ヒョジュ)に一目惚れしてしまったため、話がややこしくなっていきます。様々な姿でイスに会ったあと、若くてイケメンの姿になった日に彼女に話しかけ、ずっと眠らずその姿を保っていようとしますが、3日目についウトウトしてしまい....。こんなウジンの恋は実るのでしょうか。
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これまで映画で、一人二役、一人三役というような試みはいっぱいなされてきましたが、反対に二人で一人を演じるというのは年齢変化を表すなどごく限られた場合のみ、が普通でした。それを、『ビューティー・インサイド』では何と123人がウジンという一人の人物を演じるのですから、何とも大胆な試みです。こんな設定では見ている方も大混乱....かと見るまでは思っていたのものの、不思議なことに、何とも自然に画面で起こる現実を受け入れていけるのです。それどころか、むくつけきヒゲのおじさんになったウジン(キム・サンホ)や、イスと初めて会う時の知的な中年ウジン(イ・ボムス)の中に、その前の若いイケメンのウジン(ト・ジハン、パク・ソジュン(下の写真)など)の残像をつい求めてしまったりと、すっかり映画の中に引き入れられてしまったのでした。
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ウジンが女性になった時も、まったく違和感なく見ていられるのですが、それは日本人女性になったウジン(上野樹里/下写真)のように、演じる俳優たちの演技がごく自然体であることも関係しているのかも知れません。ペク監督はこれが監督第1作とのことですが、確かな演出力を感じさせてくれます。
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ほかにウジンとして登場する俳優たちの中には、主役級の大スターであるキム・ジュヒョク(下写真)や、
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『尚衣院-サンイウォン-』(2014)の若き王様役で印象的な演技を見せたユ・ヨンソク(下写真)、
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『怪しい彼女』(2014)では細面のTVプロデューサーだったのに、本当はマッチョな人だったイ・ジヌク(下写真)らがいます。このイ・ジヌクの登場場面は、ちょっとトーンが変わっていて面白いです。
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とはいえ、こんなめまぐるしい現実を受け入れる相手、イスの方は相当大変には違いなく、それゆえにストーリーは一度転換点を迎えます。そこから2人の関係がどうなっていくのかがまた実に巧みに描かれるのですが、こんな風に「毎日姿の変わる男」を描きながらも、その底では普遍的な愛の物語を描いているところがこの映画の良さと言えるでしょう。ドタバタ劇に陥ることなく、むしろしっとりしたラブストーリーになっていて、見終わった後どのウジンのシーンも印象に残ります。ウジンの変身が何に起因しているか、というのが最後に明かされたりするのが不要なぐらい、123人が形象するウジンを抵抗なく受け入れられる不思議な作品でした。下に、海外版の予告編を付けておきます。
The Beauty Inside Official Trailer #1 (2015) - Jin-wook Lee, Hyo-ju Han Korean Romantic Drama HD
こんな未知の領域に踏み込んだ作品を世に出す韓国映画、やっぱりタダモノではありません。ぜひ、大画面でこの不思議な感覚を味わってみて下さい。なお、ハン・ヒョジュは目下来日中で、明日1月14日(木)には虎ノ門のニッショーホールでの試写会イベントに登壇の予定です。取材記事がいっぱい出ると思いますので、ファンの方はチェックしてみて下さいね。
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さて、お陰様でこのブログも丸5年を迎えることができました。本日までのトータル訪問者数は784,222人、ページビューは2,695,211です。これからも、どうぞよろしくお願い致します。
そんな時に、悲しいお知らせが届きました。字幕翻訳者として活躍しておられた太田直子さんが、1月10日、ガンのため亡くなられたそうです。享年56。元々は天理大学と早稲田大学でロシア語・ロシア文学を専攻した方で、英語とロシア語の作品の字幕が多かったのですが、『初恋のきた道』(1999)などアジア映画の字幕もたくさん担当、またインド映画も『頭目(ダラパティ 踊るゴッドファーザー)』(1991)などの字幕を担当して下さっています。さらに名エッセイストとしても知られ、「字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ」(光文社新書、2007年)、「字幕屋のニホンゴ渡世奮闘記」(岩波書店、2013年)、「字幕屋に「、」はない」(イカロス出版、2013年)などのエッセイ集というか、鋭い字幕論も残しておられます。その上マンガもお上手で、よくタバコをくゆらす自画像を描いておられました。「字幕屋のニホンゴ渡世奮闘記」では、カットも自ら手がけておられます。
こちらのラジオ番組のサイトに、お写真がいっぱい載っていました。太田直子さんのご冥福をお祈りします、と書いていてもいまだ信じられず、「私を勝手に殺さないでよぉ」と斜め下を向いた眼差しの太田さんからお叱りを受けそうな気がしてしまいます。字幕翻訳界にとって、本当に大きな損失です....。
先日もインド映画『BAJIRAO MASTANI』の大阪での上映を知ることができて感謝しています。
なかなかコメントはできませんが、cinetamaさんの専門的な視点と適度にマニアックで親しみやすい文章を楽しんでいます。
『ビューティーインサイド』気になります。韓国映画はまだまだ奥が深いですね。
私のは専門的視点というよりもミーハー的視点でして、いつも、全然本格的な評論になってないなー、とガックリします。
『ビューティー・インサイド』も魅力を十分に伝え切れてなくて申し訳ないのですが、この不思議ワールド作品、ご覧になってぜひ論評などお寄せ下さい。
今後とも、ご支援よろしくお願い致します。
このブログとcinetamaさんの出会いのお陰で、今まで以上に映画を楽しむことができ、大好きな映画がもっと大好きになりました♪
これからもcinetamaさん目線で、アジア映画の魅力をたくさん紹介し続けてくださいね。
また、講座等でお会いできることも楽しみにしております♪
『ビューティー・インサイド』とても斬新で、「見た目と中身、本当に大切なのは・・・」と言う言葉に、観る人にも問いかけられているような感じがして、是非、観たいと思っています。
太田さん、お若く、字幕翻訳者として活躍されていたのに、残念ですね・・・。
ご冥福をお祈りします。
またしばらくしたら講座でお目にかかれますね。
前のコメントでも書きましたが、本年もあちこちでの出会いを楽しみにしています。
韓国映画は、見るたびに「インド映画、負けてるよ~」と思う作品が多く、『ビューティー・インサイド』もその一つです。
今年は、「これは韓国映画に勝ってる!」と思える作品がいっぱい出てきてほしいものですね。
では、2月6日、どうぞよろしくお願いします。