寒くなってきましたねー、と言いながらも、この4日間ほとんど家から出ず、おまけに汗かきながら作業していたので、寒さを感じるひまもありませんでした。作業とは、先月末7日間続いた給排水管交換工事のために、該当する部屋から運び出した荷物を戻す作業で、スチールのつっぱり書棚を戻して設置し、スチールのファイルケースを戻して元の場所に置き....等々の作業をしたのですが、金属製品は重い重い。ファイルケースなんて、空っぽでも20㎏強あります。というわけで、ファイルケースの中身は戻したものの、本棚の中身の方はまだ道半ば、といったところ。毎日途中で嫌になって、ちょいとNetflixを見たりしながら、いまだ作業中です。
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しかし、こんな肉体労働をしながらも、頭の中ではあれこれ考えているんですね。今、もっぱら考えているのは、明後日、12月8日(日)に新宿シネマカリテで『コール・ミー・ダンサー』上映後にさせていただく短いトークのこと。『コール・ミー・ダンサー』はこちらでも紹介したようにドキュメンタリー映画なのですが、Netflixで配信されている劇映画『バレエ 未来への扉』(2020)を見た人には、そのモデルになった2人の青年のリアルな姿が見られる、劇映画以上に劇的な作品なのです。劇映画はどうしても脚色や誇張があるのですが、そしてそれゆえに感情があおり立てられて面白く見られるのですが、ドキュメンタリーは淡々と事実を追っていき、ともすれば劇映画との違いを認識することや、主人公たちの後日談を確認することが中心になりがちです。ところがこの『コール・ミー・ダンサー』は、劇映画では描かれなかった主人公の大切な背景や、登場人物たちの心の結びつきに気づかせてくれるので、とても心に響いたのでした。そんな点を2、3メモっておこうと思います。
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私がまず驚いたのは、主人公のバレエ・ダンサーを目指す青年マニーシュのお父さんの出身地でした。ムンバイでタクシーの運転手として働くお父さんは、ムンバイから直線距離で約1600㎞離れたインド北部のヒマーチャル・プラデーシュ州の、おそらくパーラムプルという町かその周辺に実家があるようです。映画が始まって15分ぐらいで、マニーシュの一家が里帰りするシーンがあり、その時乗るバスにこの地名が書いてあったのですが、Wikiで見てみるとパーラムプルは標高1,256mとあり、かなりの高地です。祖母がまだ健在な実家は、建物といい広さといい結構裕福な感じですが、お父さんの兄、つまり伯父さんは軍隊に入っていたようで、軍人になる、というのは働き口が少ない地域の貧しい家庭にとって、一番確実な就職口なのでした。しかもこの伯父さんは軍隊で上の方の地位に上り詰めたようで、マニーシュも軍人にしては、とお父さんに提案します。しかしお父さんは、「大学に行ってMBAの資格でも取ってくれたら、と思っていたが」と言いながらも、マニーシュが望むダンスの道を歩ませてやろうと思っていることを兄弟たちに告げます。意外な一家のルーツの地と合わせて、開明的なお父さんだなあ、と驚いたのでした。
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その他、いろんな発見があった『コール・ミー・ダンサー』ですが、マニーシュとクラシック・バレエの教師イェフダ先生の間柄は、様々な困難を乗り越えることで気持ちが近づいていき、中でも語られているようにインドの伝統芸能の世界で言うところの「グル・シシュヤ・パランパラー(師弟伝承)」が見事に育った点は、大きな感動と驚きを与えてくれます。伝統芸能、つまり古典音楽や古典舞踊の世界では、厳しい師に付き従ううちに師への尊敬の念が生まれ、師の方では自分の芸術を継ぐ者としての信頼が生まれて、その心の絆ががっちりと結ばれ、豊かな芸術的、人間的実りがもたらされる、というのが、「グル・シシュヤ・パランパラー」です。このインドで尊ばれる思想が、西洋のバレエという分野でも生まれてくることが不思議であると共に、芸術の本質は一緒なんだ、という感動も覚えたのでした。一緒に生活をしたりしていたことも関係するのかも知れませんが、信頼の絆の強さは古典芸術のグル(師)とシシュヤ(弟子)に勝るとも劣りません。年を取ってから全く馴染みのない国に行き、順応できない(ムンバイでは車の激しい道路が渡れなかった、というイェフダ先生の告白にはうなずきました。日本と違って、車は絶対に止まってくれません)体験をいっぱいしながらも、見どころのある弟子がいたことで自分の居場所を見つけたイェフダ先生には、「天は自ら助くる者を助く」という言葉を思い出したほどです。
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そんな風に、いろいろな心の機微が描かれる本作は、単にインド人の若いダンサーが世界に挑戦する、というサクセスストーリーだけではないものを含んでいます。若い人からシニアまで、それぞれに感動する要素を含む作品です。ぜひご覧になってみて下さい。
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先にも書いたように、明後日12月8日(日)は12:00の上映終了後、14:00頃から30分ほどトークをさせていただきます。新宿シネマカリテのHPをご参照の上、ぜひ劇場にお運び下さい。皆様にお目にかかれるのを楽しみにしています! 予告編を付けておきます。
『コール・ミー・ダンサー』本予告