アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

TIFF2023-DAY5:本日も3本とも、よくできた映画でした

2023-10-27 | インド映画+中国映画

第36回東京国際映画祭も中日になりました。最終日の11月1日(水)には各賞の発表が行われるのですが、今年のコンペのアジア&アジア関連映画は力作揃い。今日も2本、中国映画を見てきたのですが、すごい迫力でした。あとはインド映画『相撲ディーディー』を見たのですが、3本とも意味合いは少し違えども、よくできた映画と言っていいと思います。今日見た3本を見た順にご紹介してみましょう。

『西湖畔に生きる』

©Hangzhou Enlightenment Films Co., Ltd.

 2023/中国/中国語/原題:草木人间
 監督:グー・シャオガン [顾晓刚]
 出演:ウー・レイ、ジャン・チンチン
 今後の上映日時:10/28(土) 16:05- / 10/30(月) 10:00- / 10/31(火) 21:10- 

©Hangzhou Enlightenment Films Co., Ltd.

浙江省杭州市にある西湖ですが、ここの近くの山々には茶の木が植えられ、香り高い龍井茶の産地として有名なのだとか。母が茶摘み女として農園で働いているムーリェンは、農園の持ち主チェンに気に入られ、就職先など探さず農園で働かないか、と言われています。ムーリェンの父はかつて森の木のことをいろいろ教えてくれ、自分の木があることも教えて、ムーリェンと自分の木を探すように言います。今は行方不明の父のことを母は「もう死んだのよ」と言いますが、ムーリェンは森に入ると父のことを思い出すのでした。母がそう言うのは、農園主のチェンと恋愛関係になっているからのようでしたが、それを知ったチェンの母親から追い出され、ムーリェン母子はマルチ商法を行っている会社に引き入れられていきます....。

©Hangzhou Enlightenment Films Co., Ltd.

2019年の作品『春光水暖』が東京フィルメックスで上映され、その悠揚迫らざる映像と物語がデビュー作とは思えぬ力を感じさせて、一挙に注目された顧暁剛(グー・シャオガン)監督(下写真)。あの作品はまるで水墨画を見るような感覚をこちらに味わわせてくれましたが、今度の第2作は、オープニングの山の茶畑といい森の中の様子といい、これは線が太く派手になった水彩画か、と思わせられました。そして途中部分、マルチ商法にどっぷりの人々の描写はどぎつい油絵調で、目を背けたくなります。ラストでは再び水彩画に戻るものの、前作にあった静謐だからこそ広がっていく世界、という感覚は希薄になっていて少々残念でした。さて、グランプリを獲るでしょうか?

 

『相撲ディーディー』

© Reliance Industries Limited, Mumbai 2023. All Rights Reserved

 2023/インド/ヒンディー語/原題:Sumo Didi
 監督:ジャヤント・ローハトギー [जयंत रोहतगी]
 出演:シュリヤム・バグナーニー、チャイタニヤ・シャルマー、ニテーシュ・パーンデー
 今後の上映日時:10/29(日) 13:30- 

© Reliance Industries Limited, Mumbai 2023. All Rights Reserved

それまで柔道選手だったヘタル・ダーヴェーが、初めて見た日本人力士の闘いぶりに感銘を受けて相撲への転向を決意、日本にやってきてその力士に鍛えてもらい、香港で開かれたトーナメントで世界中の先輩女性力士に挑む、というのがストーリーです。実在のインド人女性力士をモデルにしていますが、何よりも魅力的なのは、主人公ヘタルを演じたシュリヤム・バグナーニーのチャーミングさ。コルカタに住む中流家庭の娘で、弟が1人いる、という設定なのですが、子供時代のある時に急に体重が増え始め、母親を嘆かせることに。従妹のお見合いに引き立て役として引っ張り出されたりして落ち込むのですが、幼い時から彼女を見守ってくれるスポーツ療法士のアクシャトがいて、何かとヘタルを支えてくれます。このアクシャト役、さらには彼女を導く力士役の日本人(冒頭の写真右)もとてもいいキャラで、見ていて心がなごみます。音声の処理が少々雑だったりと、気になる点はありましたが、佳作と言っていいと思います。

© Reliance Industries Limited, Mumbai 2023. All Rights Reserved

本日の上映では、終了後に舞台挨拶があったのですが、私は次の作品『ロングショット』がどうしても見たかったため、映画終了と同時に出て、あとは銀座4丁目のシネスイッチ2まで駆け足でダッシュ。『相撲ディーティー』の舞台挨拶の様子はこちらなどに出ていますので、ご参照下さいね。ジャヤント・ローハトギー監督は、こんな方だそうです。


『ロングショット』

 2023/中国/中国語/原題:老槍
 監督:ガオ・ポン [高朋]
 出演:ズー・フォン(祖峰)、チン・ハイルー(秦海璐)、ジョウ・ジェンジエ(周政杰)
 今後の上映日時:10/29(日) 10:10- 

原題にある「槍」はピストルの意味です。1990年代初頭の中国東北地方。1949年の中国成立直後、1950年代に建設された大きな工場は、現在は機械も古びて廃業寸前。今はただ、鉄くずとして価値のある機械等を盗まれないために、工場の保安課だけが仕事を続けています。その保安課にも給料が出なくなる事態にまで追い込まれ、職員たちは外からの盗みに対応するのにも士気が上がりません。そんな中、昔射撃の名手として大会にも出たりしていた中年のグーこと顧学兵(祖峰)は、盗人たちに厳しく接し、未成年だからと言っても容赦しませんでした。未成年の不良たちが盗みに入った時、逃げ遅れた暁軍(周政杰)が捕まえられ、グーは警察に突き出すつもりでしたが、首謀者の名前を聞いた後自分の弁当を分けてやり、解放してやります。のちにわかったのですが、暁軍はグーがほのかな好意を抱いている女性小金(秦海璐)の息子で、別れた元夫と暮らしていたのですが、元夫が暴力を振るうため、母親である小金が引き取ったのでした。

それからグーは、暁軍が中学の授業をさぼらぬよう、勉強に集中するよう、彼を見守ることにします。最初は反発していた暁軍ですが、グーが射撃手としてトップクラスだと知り、手製の小型銃を見せてもらうに及んで、すっかりグーを尊敬するようになります。その一方で、暁軍はマーが率いる盗みのグループとも付き合い、工場に盗みに入ったりもします。それにはわけがあったのですが、ある時、別のわけあり窃盗の一団と鉢合わせした暁軍とマーたちに、とんでもない悲劇が出来します...。

上のポスター2枚はTIFF提供の画像ではなく、ネットから探し出したものです。この2人が役者も役柄もとても魅力的で、ぐいぐいと1990年代の不景気な工場とその周辺に、見ている者を引き込んでいきます。スリルとサスペンスも上手に配され、もの悲しさも含んだこの物語をラストまで飽きさせません。浦川留さんのブログ記事(10月24日)で読んだ時から、絶対に見たい! と思っていたので、泣く泣く『相撲ディーディー』の舞台挨拶を袖にしてプレス上映に駆けつけたのですが、その価値がありました。日本で公開してほしいものですが、主人公を演じた祖峰があまりにも貧相なので...とか思っていたら、この作品の舞台挨拶に登場した祖峰の動画を見てびっくり! あのすがめも貧相なオヤジ面もみんな演技だったのか! というわけで、ご覧になりたい方はこちらをどうぞ。これが監督長編第1作という高明監督も、すでになかなかの貫禄です。

 


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