本日は水曜日で、どこの映画館もレディス・デーとか映画ファンサービス・デーとか称して、料金が安くなっています。というわけで、久しぶりに映画館2館をハシゴ。『ソウルメイト 七月(チーユエ)と安生(アンシェン)』(2016/中国・香港/公式サイト)と『1秒先の彼女』(2020/台湾/公式サイト)を見てきました。最近は韓国映画を見ることが多かったので、なかなか新鮮です、中国語圏映画。そんな中国語圏映画というか中国映画で、7月16日(金)に公開となるのが、以前こちらでご紹介した『共謀家族』です。インド映画『Drishyam』(2013/マラヤーラム語)とそのヒンディー語版リメイク『ビジョン(原題:Drishyam)』(2015)を元に、上手に翻案してあるサスペンス映画なのですが、ご覧になる前にいくつか見どころをご紹介しておきましょう。まずは、『共謀家族』のデータとストーリーからどうぞ。
『共謀家族』 公式サイト
2019年/中国/北京語・タイ語/112分/原題:誤殺/英語題:Sheep Without a Shepherd
監督:サム・クァー(柯汶利)
主演:シャオ・ヤン(肖央)、タン・ジュオ(譚卓)、ジョアン・チェン(陳冲)、フィリップ・キョン(姜皓文)、チョン・プイ(秦沛)
配給:インターフィルム/アーク・フィルムズ
※7月16日(金)より新宿バルト9ほか全国順次公開
© 2019 FUJIAN HENGYE PICTURES CO., LTD, WANDA MEDIA CO., LTD
主人公は、タイに定住した中国人のリー・ウェイジェ(李維傑/シャオ・ヤン)。幼い時にタイにやってきたのですが、その後両親が亡くなって孤児となり、いろんな苦労の末に、今はインターネット回線業者として堅実な仕事をしています。さらに、大人しい妻アユー(阿玉/タン・ジュオ)と高校生の娘ピンピン(平平/オードリー・ホイ)、その幼い妹アンアン(安安)もいて、暖かい家庭を築いて幸せに暮らしていました。そんなウェイジェは映画を見るのが何よりも好きで、彼の中では洋画の『ショーシャンクの空に』がマイベストでしたが、他にもサスペンス映画や犯罪映画を中心に、ヒマさえあれば映画を見ている映画マニアでした。そんなある日、サマーキャンプから帰って来たピンピンが、なぜか塞ぎ込んでいます。気にしながら他の町へ仕事のため1泊出張したウェイジェでしたが、その夜、自宅では大変なことが起きていました。
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ピンピンはサマーキャンプで議員デゥポン(フィリップ・キョン)の息子スーチャットらにレイプされ、動画まで撮られてしまい悩んでいたのですが、スーチャットが「これをアップされたくなければ、今晩お前を訪ねていくから中に入れろ」と脅してきたのです。その夜、仕方なく納屋にスーチャットを入れたピンピンでしたが、母のアユーもやってきてスーチャットの携帯を取り上げようとしているうちに、携帯を壊そうとスコップを振り上げたピンピンの手は、誤ってスーチャットの頭を狙う形になってしまい、運悪く彼は死亡...。母は隣り合った敷地にある親戚の墓にスーチャットの遺体を隠しますが、それをアンアンにも見られてしまいました。翌日帰宅したウェイジェにすぐに打ち明けると、ウェイジェは犯罪の証拠を消し、アリバイを作ろうと即、行動を始めます。緻密に作り上げたアリバイでしたが、それが役に立つ日がやってきました。スーチャットの母ラーウェン(ジョアン・チェン)は実は警察局長で、息子の長すぎる不在に不審を抱いていたところ、ウェイジェが隠したスーチャットの車が見つかった上、ウェイジェと仲の悪い警官が「ウェイジェがこの車に乗って行った」と証言したことから、ウェイジェ一家に疑いが集中することに。凄腕の警察局長を前に、果たしてウェイジェの策は通用するのでしょうか....。
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舞台がタイになったのは、中国本土の警官は優秀な人材ばかり、という建前から、嫌われ者の警官や、被疑者を痛めつける警察局長のキャラが設定できない、という配慮からではと思われますが、それがいい効果を上げています。オリジナルのインド映画では、一家と警察側との間には何ら差異はない設定でしたが、『共謀家族』では中国人とタイ人という設定から、その間にある微妙な幕が感じられます。また、インド映画では実業家というか単なる金持ちだった被害者の少年の父親が、本作では選挙を控えた議員という設定になっているのも、世間体をより強く意識しなくてはならない職業の人間として言動にリアリティが出る、という見応えに繋がっています。ほかにもいくつか改変部分があるので、オリジナルのインド映画をご覧になっている方には、それを発見する楽しみもあってよけいに面白いことでしょう。
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オリジナルのインド映画では、マラヤーラム語の『Drishyam』の父親役は大物俳優のモーハンラール、ヒンディー語版リメイクではトップ男優の1人アジャイ・デーウガンと、どちらも貫禄十分の理想の父親像、という感じでした。それが『共謀家族』のウェイジェを演じたシャオ・ヤンは、イケメンでもなく偉丈夫でもなく...という、平々凡々な父親ぶりで、最初、軽すぎてちょっと違和感がありました。しかしずっと見て行くと、平凡な男の中にこそヒーローは潜む、というのもスリリングなものだなあ、と思い出し、なるほどそれで『ショーシャンクの空に』なのか、と納得した次第です。ラストは中国映画の限界というべきか、これはやはり、インド映画の方に軍配が上がりますが、様々な点でチェックを入れてみると、リメイク作品としては非常に出来のいい作品だと言うことができます。インドの元作品をご覧になった方には見どころ満載、ご覧になったことのない方にはハラハラドキドキたっぷりと楽しめますので、ぜひお運び下さい。パンフレット(700円でお買い得)にもコラムを書かせていただいているので、ご覧になってみて下さいね。最後にメイキング映像(+予告編)を付けておきますが、シャオ・ヤン、実物は若い! 今後、徐崢(シュー・ジェン)や黄渤(ホアン・ボー)のような人気者になっていくと思われますので、本作でまずはチェックを入れてみて下さいませ~。
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