アジア映画巡礼

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『クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅』がステキすぎる!

2019-04-18 | インド映画

『クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅』、インド、フランス、ベルギーの国際共同製作によるダヌシュ(日本公開に当たっては「ダヌーシュ」という表記が当てられてしまいましたが、音引きを入れるのは間違いなので、このブログでは「ダヌシュ」で表記させていただきます)主演作です。しかし、タイトルが長い! 長すぎる! 変換しようとしたら、「修飾語が多い」という警告が出ました。でも、仕方がないんですね。この作品には原作があり、それがこういう長ったらしいタイトルなのです。ちょっと並べて書いてみましょう。

原作本原題:The Extraordinary Journey of the Fakir Who Got Trapped in an Ikea Wardrobe
原作本邦題:IKEAのタンスに閉じこめられたサドゥーの奇想天外な旅
映画原題:The Extraordinary Journey of the Fakir
映画邦題:クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅

原作の翻訳本については、小学館文庫(吉田恒雄訳)をただ今注文&お取り寄せ中なのですが、「ファキール」がわかりにくいと考えられたのか、「サドゥー」になっていますね。「神父」を「お坊さん」と訳すような力業ですが、「ファキール」には「イスラーム教の修行者、托鉢僧、物乞い、一文無しの人」というような意味があります。一方「サドゥー(サードゥー)」は、もっぱらヒンドゥー教徒やジャイナ教徒の修行者に使う言葉です。と、ついインド関係者はそういうところにこだわってしまうのですが、ここでこだわらないといけないのは実は「IKEA」。そう、ご承知のように北欧スウェーデン発の大規模家具店です。「IKEA」が小説では実名で登場するようなのですが、それだと映画は「冠スポンサー映画」になってしまうので、映画の原題は原作本タイトルの関係代名詞「who」以下がごっそり削られています。ですが邦題は、原作本の邦題も一部生かして、『クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅』と長めのタイトルになったようです。チラシを見ると、「ツイッターclotabi_movie #クロ旅」とあるので、ここでは省略形の『クロ旅』を使わせていただきましょう。まずは、『クロ旅』の基本データをどうぞ。

 

『クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅』 公式サイト

2018年/フランス、ベルギー、インド/96分/英語/原題:The Extraordinary Journey of the Fakir
 監督:ケン・スコット
 原作:ロマン・プエルトラス「IKEAのタンスに閉じこめられたサドゥーの奇想天外な旅」(小学館文庫/吉田恒雄訳)
 出演:ダヌシュ、ベレニス・ベジョ、エリン・モリアーティ、バーカッド・アブディ、ジェラール・ジュニョ
 配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES
6月7日(金)より全国公開

 ©2018 Copyright BRIO FILMS-SCOPE PICTURES-LITTLR RED CAR-TF1 AUDIOVISUELS-SONY PICTURES ENTERTAINMENT FRANCE All rights reserved. Brio Films ©Sébastien

アジャことアジャンターシャーストルー(ダヌシュ)は、ムンバイの下町で暮らす青年。ある時彼は警察署に呼ばれ、3人の不良少年を前に自分の過去の冒険を語ることになります。生い立ちから語り始めたアジャの物語は、とんでもなく奇想天外なものでした。アジャはシングル・マザー家庭で育ちましたが、母親はムンバイの洗濯場で一生懸命働いて、スラム街の中にある学校にも行かせてくれました。アジャは賢い男の子に育ち、手品も憶えます。アジャの関心事は「自分の父親は誰か」ということで、しょっちゅう母親に「あの人が僕の父さん?」と聞いては困らせていました。アジャのもう一つの関心事は、お医者さんの待合室で見つけたきれいな雑誌。それは家具を紹介するカタログで、アジャは夢中になって家具のシリーズのネーミングを憶えました。こうして賢い青年に成長したアジャでしたが、母親が急死し、残されていた父親の手紙と偽の500ユーロ札を手にアジャは、父親を探しにパリに飛ぶことを決意します。飼っていた牝牛モヒニ(モーヒニー)に別れを告げ、アジャは一路パリへ。

 ©2018 Copyright BRIO FILMS-SCOPE PICTURES-LITTLR RED CAR-TF1 AUDIOVISUELS-SONY PICTURES ENTERTAINMENT FRANCE All rights reserved. Brio Films ©Sébastien

パリに着いたアジャは、親切そうな、でもその実外国人をカモにするタクシー運転手(ギュスターヴ)に頼んで、あこがれの家具店に連れて行ってもらいます。カタログで見た素敵な家具に次々と出会い、大興奮のアジャをさらにハイにしたのは、かわいいアメリカ人女性マリー(エリン・モリアーティ)との出会いでした。アジャの空想ごっこにも付き合ってくれるマリーに、一目で恋してしまったのです。アジャは次の日のエッフェル塔での再会を約束し、その夜はこっそりIKEAのクローゼットにもぐりこんで、家具店お泊まりを決め込みます。ところが真夜中、そのクローゼットが運び出され、ロンドンへの納品のためにトラックに積まれてしまったからさあ大変! 道中で目を覚まし、そのトラックに不法移民でロンドンをめざすウィラージ(バーカッド・アブディ)らも乗っていることを発見したアジャは、検問所を前にして彼らと逃げることになり、さらなる冒険へと巻き込まれて行くのでした...。

 ©2018 Copyright BRIO FILMS-SCOPE PICTURES-LITTLR RED CAR-TF1 AUDIOVISUELS-SONY PICTURES ENTERTAINMENT FRANCE All rights reserved. Brio Films ©Sébastien

これまでに見たことのないダヌシュが登場します。ドタバタしたり、騒いだりするのはいつものダヌシュらしいのですが、何だかスッキリしていて、とってもさわやか。特に、警察署で3人の少年たちに自身の体験を語るシーンは、惚れ惚れとしてしまうぐらいステキです。監督の演出の違いでしょうか。クラブで踊るシーンなどでは、あ、ダヌシュだ、と思ってしまうものの、それ以外のシーンでは初めて見るダヌシュの姿に1分毎に惚れ直す、という感じでした。ストーリー自体も、荒唐無稽でありながら、欧州の難民問題を上手に織り込んでいたり、インドの貧困もさらりと見せたりと、押しつけがましいところがまったくないのに、じんわりとこちらの胸に響いてくる作りになっています。ケン・スコット監督は、インド映画と言えばミュージカル、という点もちゃんと意識していて、前述のいかにもインド映画らしいクラブでの群舞シーンのほか、アジャを捕まえた警官が踊り出すシーンなども用意しています。サービス精神旺盛ですね。

©2018 Copyright BRIO FILMS-SCOPE PICTURES-LITTLR RED CAR-TF1 AUDIOVISUELS-SONY PICTURES ENTERTAINMENT FRANCE All rights reserved. Brio Films ©Sébastien

アジャの冒険は、パリ⇒ロンドン⇒スペイン⇒ローマ⇒リビア....と転がっていき、ローマでは女優ネリー(ベレニス・ベジョ)とのデート場面も登場します。最後のリビアでは思わぬ再会とクライマックスが待っていて、奇想天外の極めつけが見られます。そしてラストは....と、上映時間は96分なのに、2時間半のインド映画を見たぐらいの充足感があった『クロ旅』でした。インド・ロケのパートも、「それはナイナイ」がちょっとあるものの(スラムの小学生の制服が立派すぎ。だのに、路地の地べたに座って授業だなんて...)、子役を始めとする出演者(+出演牝牛)のしっかりした演技で欧州パートに劣らない見応えとなっています。特にアジャの子供時代を演じたハーティー・シン君、君の将来が楽しみです。ぜひ劇場で、このステキすぎる『クロ旅』をたっぷりとお楽しみ下さい。下に予告編を付けておきます。そうそう、IKEAのカタログで各シリーズを予習していけば、もっと楽しいかも知れませんので念のため。

『クローゼットに閉じこめられた僕の奇想天外な旅』予告編




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