昨日とは打ってかわり、今日は快晴のお天気。こんな日に暗いホールにずっといるのも何だかなあ、なのですが、プレス用の試写会場やら一般上映会場やら、それから映画祭事務局のDVDブースやらでこれまでに見た作品を簡単にご紹介しておこうと思います。ついでに、本日あった台湾映画『共犯』の張榮吉(チャン・ロンジー)監督のQ&Aもちょっとご紹介します。
<CROSSCUT ASIA#01 魅惑のタイ部門>
『稲の歌』 公式サイト
タイ/2014年/タイ語/75分/英語題:The Song of Rice
監督:ウルポン・ラクササド
主演:プラヤット・プロムマー
ドキュメンタリー作品。青々と茂る稲田から始まり、その中をかわいい魚篭と竿を持って歩む農夫。何を獲っているのでしょう? ナレーションは一切なく、時折会話が聞こえるだけ。ここから収穫祭に至るまでの稲田の歩みを追っていきます。煙を吐いて空に飛んでいく丸い型のロケット、初めて見ましたが大迫力です。お寺の行事らしき行列もあり、民俗学に興味のある方には内容豊富な映像です。
<アジアの未来部門>
『遺されたフィルム』 公式サイト
カンボジア/2014年/クメール語/105分/英語題:The Last Reel
監督:ソト・クォーリカー
主演:マー・リネット、ソク・ソトゥン、トゥン・ソーピー
まず、夜の町で無軌道ぶりを発揮する不良青年とその彼女の描写で物語は始まります。やがて彼女ソポンの家庭事情があきらかになり...と、かなり通俗的なドラマ仕立ての作品ですが、カンボジアの映画状況の一端がわかる内容となっています。劇中で『長い家路』という作品が上映されるのですが、これは実際に作られた映画なのでしょうか? 王子と村娘の恋を描いた作品で、村娘を助ける仮面のヒーローが出てくる、という、ちょっと新旧ないまぜになった面白そうな作品でした。
『メイド・イン・チャイナ』 公式サイト
韓国/2014年/韓国語・中国語/100分/原題:Made in China
監督:キム・ドンフ
主演:パク・ギウン、ハン・チェア、イム・ファヨン
中国からの密航者を乗せた船のシーンで幕を開け、6人の密航者のうちうまく韓国に潜り込めたチャンのお話が展開していきます。彼は、自分の養殖場のうなぎに水銀が含まれているという検査結果が韓国の役所から出されたことに不満を持ち、自分たちがいつも食べているうなぎを3匹抱えて韓国にやって来たのでした。確かに、生きたウナギを連れて入国はできませんから、これは密航しかしょうがないのですね。キム・ギドクの脚本ということでプレス試写は満員で見られずDVDで見たのですが、細部は突っ込みどころ満載ではあるものの、結構新鮮なストーリーで面白く見られました。
<ワールド・フォーカス部門>
『黄金時代』 公式サイト
中国・香港/2014年/中国語/179分/原題:黄金時代
監督:許鞍華(アン・ホイ)
主演:湯唯(ワン・ウェイ)、王志文(ワン・ジーウェン)、馮紹峰(フェン・シャオフェン)
実在の女流作家蕭紅の生涯を辿る大作です。タン・ウェイが熱演を見せてくれますし、魯迅に扮したワン・ジーウェンはピッタリのハマリ役となっているなど、1人1人の造形も個性的です。中国文学にもっと詳しければなあ、と見ているうちに後悔がわき出てきましたが、作家の顔や背景を知らなくても、力のある作品なので最後まで退屈せずに見られます。
『共犯』 公式サイト
台湾/2013年/中国語/88分/原題:共犯
監督:張榮吉(チャン・ロンジー)
主演:巫建和(ウー・チェンホー)、[登+おおざと]育凱(トン・ユィカイ)、鄭開元(チェン・カイユアン)
『光にふれる』(2012)のチャン・ロンジー監督が、まったく違うタイプの作品を作り上げました。上の写真は主人公となる高校生たちで、後列左からいじめられっ子の黄(ホアン)、自殺をする女の子夏(シャー)、腕力のある不良葉(イエ)、そして前列右から秀才の林(リン)、シャーをいじめていたとされる女の子、そしてホアンの妹です。ホアンがシャーの自殺現場に行きあい、そこへイエとリンもやってきて、3人がシャーの自殺の真相をさぐろうとする、というサスペンスドラマになっています。
今日の上映は満員で、終了後チャン監督が登場すると大きな拍手が。司会はプログラミング・ディレクターの石坂健治さん、通訳は水野衛子さんです。
Q(まず石坂さんが基本質問):前回『光にふれる』のTIFF上映時は来日していただけなかったので、今回が初来日ですね。『共犯』は『光にふれる』とは全く違う作品ですが、これはどうして?
A:本作は高校生が主人公ですが、『光にふれる』も学生が主人公でした(視覚障害を持つ大学生ホアン・ユィシアンが主人公)。僕は青少年に興味を持っていたもので、青少年のことが主題となっているこの原作を選んだのです。前作とは違うジャンルに挑戦してみたいと思いました。
Q:確かにいつも青少年が主人公ですね。
A:僕はドキュメンタリー映画を作っていたので、青少年の問題に触れる機会があったのです。『光にふれる』も最初はドキュメンタリー映画として作り、その後劇映画にしました。ですので、最初から虚構の世界の作品となるのは、本作が初めてです。
Q:主人公たちを演じる俳優はどのように選びましたか?
A:台湾では、高校生で俳優をやっている人は少ないのです。それで、高校に行ってみて、新人を選ぼうと思いました。男女6人の高校生のうち、4人は演技はまったく初めてで、あとの2人は少しだけ演技経験がありました。
(ここで場内から質問を募ることに。なお、本日の質問者には、監督からポスターがプレゼントされました)
Q:図書館の本は死んだホアンが入れておいたのだと思いますが、あれは見つかってほしいと願って置いたのでしょうか?
A:あの場所は、自殺した女の子が日記を誰かに見てもらいたくて置いておいた場所です。本は小説「異邦人」なのですが、ホアンが見つけてそのまま置いておいたものです。ホアンは友だちがほしいのだけれど、なかなかできない男の子でした。そのホアンは、日記を通じてシャーと知り合いになりたい、という気持ちがあったんです。今の青少年はネット上で顔をみたこともない相手と友人になります。それに近い感じで、生きていた時の足跡を辿って、相手の思いを追いかける、という試みをするわけです。
Q:『光にふれる』の上映を今企画しているのですが、あの映画とは違って、濁った水がよどんでいるような映像を見せられて新鮮でした。原作の小説はティーンエージャー向けに書かれたものですか?
A:元々は作者の未発表小説が脚本化されたものがあって、僕はそれを読んだんです。小説はその後、その脚本に手を入れて小説化して出版されました。映画と小説では少し違う所もありますが、”孤独な青少年”が描かれるという点では共通しています。”共犯”は主人公たちのことを言うのではなく、今は周りの人たちが無関心でいる、それこそが”共犯”なのだ、という意味で使いました。
Q:今回の作品に含まれている”悪”や”毒”という要素は、『光にふれる』からは想像がつきませんでした。最初に脚本を見た時、何に引かれたのですか?
A:脚本が送られてきた時、僕は一晩で読んでしまいました。特に、推理の部分が面白かったのです。主たる役柄の人物が途中で死んでしまい、その後また別の人物が現れてくる所なども面白いし、またそれぞれの持っている孤独感にも引かれました。それで、このストーリーに合った新しい手法にチャレンジしたいと思ったのです。
Q:本作は人と人とのコミュニケーションに対する警告であり、こうはならないようにしてほしい、と言っているように思いました。
A:映画の中でも、青少年がやっているネットを通じてのコミュニケーションが出てきますが、それらは速いけれど問題が出てきます。昔は実際の力の暴力、今は言葉の暴力が多いのではと思いますね。
終了後はたくさんの人からサインを頼まれていたチャン・ロンジー監督。物静かな話し方の、落ち着いた雰囲気を持った監督さんでした。