9月1日はもうはるか過去になりましたが、「9月1日は子供の自殺が特別多い日」という報道を見た時は、わが目を疑いました。確かに、夏休み明けはただでさえ登校がイヤだし、宿題も全部終わっていなかったりして憂鬱ですが、それが死に結びつくとは、よほどのことなのでしょう。そのうちの何人かは、「学校が始まったら、またいじめられる日々が戻ってくる」とつらい気持ちを抱いていたのかも知れません。そんな子供たちと親御さんたちにぜひ見てもらいたいのが、韓国映画『わたしたち』です。『オアシス』(2002)などの作品を撮ったイ・チャンドン監督が企画し、若き女性監督ユン・ガウンのデビュー作となった『わたしたち』は、小学生の女の子たちを主人公にして、いじめや社会格差といった問題を感性豊かに描いてみせてくれます。昨年の東京フィルメックスで上映され、観客賞のほか審査員のスペシャル・メンションも勝ち取った(特に女性審査員3名がこの作品を強く支持して、スペシャル・メンションを出すことになりました)本作が、いよいよ今週末から劇場公開となります。まずは、映画データをどうぞ。
(C)2015 CJ E&M CORPORATION and ATO Co., Ltd. ALL RIGHTS RESERVED
『わたしたち』 公式サイト
2015年/韓国/94分/原題:우리들/英語題:The World of Us
監督・脚本:ユン・ガウン
出演:チェ・スイン、ソル・へイン、イ・ソヨン、カン・ミンジュン、チャン・ヘジン
提供:マンシーズエンターテインメント
配給:マジックアワー、マンシーズエンターテインメント
※9月23日(土)より、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国順次ロードショー
(C)2015 CJ E&M CORPORATION and ATO Co., Ltd. ALL RIGHTS RESERVED
おかっぱ頭の主人公ソン(チェ・スイン)は10歳。工場勤務のお父さんと、小さな食堂を営むしっかり者のお母さん、そしてまだ幼い弟ユン(カン・ミンジュン)の4人家族で、集合住宅の1軒に住んでいます。ソンには仲良しの友だちと呼べる級友がいなくて、ちょっと寂しい思いも味わっています。夏休み、そんなソンが休み直前に転校してきたジア(ソル・ヘイン)と友だちになりました。ソンが得意の手編みで作ったブレスレットを、すごく気に入ってくれたジア。ジアが預けられることになった祖母の家は立派な家で、ジアの裕福さに時々ついていけないソンでしたが、ジアはソンの家にも泊まりに来たりして、弟のユンともすっかり仲良しになりました。ですが小さな行き違いから、夏休みが明けるとジアは塾の仲間であるボラ(イ・ソヨン)と一緒にいることが多くなり、いろんな事件も起きて、ソンとの間に溝ができてしまいます...。
(C)2015 CJ E&M CORPORATION and ATO Co., Ltd. ALL RIGHTS RESERVED
ざっくりとした筋を書きましたが、ユン・ガウン監督の脚本は非常に緻密で、子供たちの感情、彼らの行動、大人との関係などをとても丁寧に描いていきます。中でも、主人公ソンの描かれ方はどの場面も魅力的で、見ているうちに彼女が大好きになってしまいます。こんな子がなぜクラスではみそっかす扱いなのか不思議に思えてくるのですが、いつも一歩引いているところが他の子供たちには「ウザッ」とか思われてしまうのでしょうか。本作にはユン・ガウン監督の少女時代の体験が色濃く反映されているようで、「これはずっと長い間私の心の中にあったお話で、”人と関係を結ぶこと”は、私にとってはいつまでたっても謎が解けないミステリーのようなものです」と語っています。描かれるのは少女たちの関係ですが、それは大人にも共通することで、どんな”わたしたち”にも通じるのがこの物語、と言えそうです。
(C)2015 CJ E&M CORPORATION and ATO Co., Ltd. ALL RIGHTS RESERVED
ソン以外の少女たちもそれぞれに魅力的ですが、すべてオーディションで選ばれた子供たちで、プロの子役は1人もいません。監督は選ぶ段階から、100人以上の候補者をグループ分けしてお芝居をさせたり、それぞれの子供を観察してどんな性格なのか、どんな行動を取るのか等を見極めたりしたそうで、ここで監督のイメージにピッタリ合う子供たちが厳選されたのでしょう。選び出した後も、ワークショップを実施して各自が自分のキャラクターになり切る時間を与えたとかで、非常に手間暇のかかる準備段階を経て、この素晴らしい演技となったようです。お互いを傷つけ合う演技もあるので、そのケアも考えられて、心理相談カウンセラーも呼ばれたそうです。その結果、『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016)の子役キム・スアンにも引けを取らない、素晴らしい子役たちが誕生しました。
(C)2015 CJ E&M CORPORATION and ATO Co., Ltd. ALL RIGHTS RESERVED
また、ソンの弟ユンは時々、ハッとするようないいことを言う面白い坊やですが、この弟の存在と、お母さんの存在も、本作に膨らみを持たせてくれています。お母さんはごく普通の主婦なのですが、洞察力のある人で、その愛情と対応がソンを助けてくれます。また、お父さんは実の父親との間にわだかまりを抱いており、父親の死期が迫っているというのに素直になれず、見舞いにも行きません。それをカヴァーするのがお母さんで、こういった理解者がいるだけで、ソンやお父さんはしっかりと生きていけるのだなあ、とうらやましくなりました。
(C)2015 CJ E&M CORPORATION and ATO Co., Ltd. ALL RIGHTS RESERVED
いろいろ人生の示唆を与えてくれる作品で、どんな人の心にも響く『わたしたち』ですが、できればソンと同じ年頃の子供たちにぜひ見てほしいと思います。こういう作品こそシネコンでやってもらって、親子が一緒に近くのシネコンに見にくる、という光景が見受けられるようになってほしいのですが。
最後に予告編を付けておきます。ソンやジアの活き活きとした表情、ぜひ大画面でお楽しみ下さい。
彼女たちの友情はどうなる!?映画『わたしたち』予告編