12月29日(金)の『バーフバリ 王の凱旋』公開まであと6週間。つい先日、素晴らしい場面写真がいくつもリリースされて、『バーフバリ』ファンの心を躍らせしました。こちらやこちらのサイトでその場面写真を見ることができますが、「アジア映画巡礼」にも配信していただきましたので、それを使いながら、今後公開日まで数回にわたって『バーフバリ』の魅力を探っていこうと思います。
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『バーフバリ』がインド古代叙事詩「マハーバーラタ」を下敷きにしていることは、こちらの拙ブログ記事やパンフレットの拙文などでお伝えしましたが、同じく古代叙事詩「ラーマーヤナ」の要素も垣間見えることも、こちらの記事などでお伝えしてきました。そして、『バーフバリ 王の凱旋』を見た時に思ったのは、『バーフバリ 伝説誕生』を支配していたのはシヴァ神の影だと思っていたのに、ヴィシュヌ神の存在をも感じさせるものがあった、という発見でした。
ご承知のように、インドのヒンドゥー教には三大神が存在します。シヴァ神、ヴィシュヌ神、そしてブラフマー神ですが、現在のインドで人気を二分するのはシヴァ神とヴィシュヌ神。ブラフマー神は妻(ヒンドゥー教の主な神々は、妻や子を持っているという設定になっています)のサラスワティー(サラスヴァティー)女神の方は人気が高いものの、ブラフマー神の方は図像を捜すのも一苦労です。余談ながら、学問と智恵、音楽の神サラスワティー女神(下図はインドの絵はがきから)は日本に渡来して弁財天となり、一方ブラフマー神は梵天と呼ばれるようになりました。
これもインドの絵はがきから、シヴァ神とヴィシュヌ神の画像を下に付けておきましょう。シヴァ神は毛皮を身にまとい、首にはコブラが巻き付いて、また髪の毛からはガンジス川が流れ出しています。座する前には、シヴァ神を象徴する、男性性器を象ったリンガが置かれ、後ろには三叉矛と太鼓が描かれています。アーミル・カーン主演の『PK』(2014)で、PKが捜しているリモコンは、この太鼓というか鼓というか、でんでん太鼓方式の楽器に付いた皮を打つビーズだ、とえせ宗教家の導師様が強弁していましたね。あと、後ろの方にはシヴァ神の乗り物である白牛の姿も見えます。一方ヴィシュヌ神は、ナーガ(蛇)をバックに、4本の手にはそれぞれホラ貝、蓮の花、円盤、そして棍棒を持って立っています。シヴァ神もヴィシュヌ神も、この姿は一例で、他にもいろんな姿で描かれることがあるのですが、とりわけヴィシュヌ神は十変化をするので、その変化後の姿、アヴァタール(ネット用語「アバター」の語源です)として描かれ、信仰を集めることも多いのです。ヴィシュヌの十変化については、のちほどまたご説明しましょう。
こんな人気二大神のシヴァとヴィシュヌですが、『バーフバリ 伝説誕生』では、川から助け上げられた幼子がシヴドゥと名付けられたところから、シヴァ神の影が色濃く漂ってきます。極め付けは成長したシヴドゥ(プラバース)が、育ての母サンガ(ローヒニ)の願掛けの灌頂(かんじょう)を助けようとして、巨大なシヴァリンガを持ち上げ滝の下に移動させるこのシーンです。シヴァ派の人なら、もう拍手喝采! いやいや、シヴァ派でなくったって、心躍るシーンでした。
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「心躍る」と書きましたが、実はシヴドゥ、このシヴァリンガを滝の下に据え付けたあと踊るんです。日本で公開されたインターナショナル版ではカットされているのですが、岩場を飛び跳ねるようにして短い踊りを披露してくれます。これもシヴァ神を想起させる動きで、ヒンドゥー教の神々は誰もが様々な別名を持っているのですが、シヴァ神の別名の一つに「ナタラージャ(踊りの王)」があり、下のような像で表されます。
『バーフバリ 伝説誕生』のタミル語版ポスターの前で撮ったのでちょっと見にくいですが、インド古典舞踊のポーズを決めるシヴァ神で、古典舞踊の公演の時などにはよく舞台に飾ってあります。シヴドゥの踊りは、シヴァ神との二重写しのダメ押しとなっていたわけでした。
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また、シヴァ派かヴィシュヌ派かは、寺院で付けてもらう額の印でも見分けられるのですが、典型的なシヴァ派のマークは上写真の右端、僧侶の額に付けられている3本の横線です。また、真ん中のビッジャラデーヴァ(ナーサル)の額には、シヴァ神の三叉矛のマークが描かれています。これは映画のための飾りかと思いますが、「わしらはシヴァ派じゃ」という感じです。
ところで、ヴィシュヌ派の人たちが額につけるマークは? それはU字マークとでも呼べばピッタリのマークなのですが、これが『バーフバリ 王の凱旋』では出現します。アマレンドラ・バーフバリ(プラバース/二役)の妻となるデーヴァセーナ(アヌシュカ・シェッティ)の従兄、クマーラ・ヴァルマ(スッバラージュ)の額についているのがそれです。
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クマーラ・ヴァルマは今回初めて登場するキャラで、どんな人物なのかは映画をご覧になってのお楽しみ、としておきましょう。デーヴァセーナはクンタラ王国の王女なのですが、この一族はヴィシュヌ派という設定になっているようで、これも今回のインターナショナル版ではカットされているシーンの中に、クリシュナ神を祭るソング&ダンスシーンもありました。ここに画像を貼り付けておきます。
Kanna Nidurinchara Video Song - Baahubali 2 Video Songs | Prabhas, Anushka
ヴィシュヌ派とクリシュナ神がどうつながってくるの? と思われた方もいらっしゃるかも知れませんが、クリシュナはヴィシュヌ神の十変化の1人なのです。ヴィシュヌ神の十変化の画像を下に付けておきますが、トップから時計と反対回りに、(1)マツヤ(魚)、(2)クールマ(亀)、(3)ヴァラーハ(野猪)、(4)ヌリシンハ(人獅子)、(5)ヴァーマナ(矮人(こびと))、(6)パラシュラーマ(斧を持つラーマ)、(7)ラーマ、(8)クリシュナ、(9)ブッダ、そして(10)カルキです。それぞれがどんなキャラクターなのかは日本語版ウィキでも項目がありますので、そちらをお調べ下さいね。こんな風に、クリシュナや「ラーマーヤナ」のラーマ、さらには仏陀まで入っているのが、ヴィシュヌの十変化なのです。
で、この画像を見て何かひらめきませんか? 注目していただきたいのは、左一番下のヴァーマナの図像です。上とは別の図像を付けておきましょう。
これは、ヴァーマナの姿になったヴィシュヌ神が、神に対抗する力を持ったバリという男の頭を押さえて地界に押し込めようとしている絵なのですが、『バーフバリ』をご覧になった皆さんには連想されるシーンがあるのでは、と思います。そう、下の予告編にもチラと出てくる、カッタッパ(サティヤラージ)が赤ん坊だったマヘンドラ・バーフバリ(シヴドゥ)の足を額に付けるシーンです。
インド映画の記録を塗り替える『バーフバリ2(原題)』予告
そこまでいくと深読みしすぎでしょうか....。いずれにせよ、『バーフバリ 王の凱旋』をご覧になる時は、ぜひ額にご注目下さい! 『バーフバリ 王の凱旋』公式サイトはこちらです。おお、上映される劇場がどんどん増えています。沖縄の桜坂劇場でも公開なんですねー。 バーフバリ・ファンよ、日本中に増殖せよ。ジャイ・マヒシュマティ!
ほんとに、おっしゃる通りですね。
『~伝説誕生』の川を渡る、というのもそうですし、サンガはヤショーダーお母さんと二重写しになりますし。
ヴィシュヌ派にも配慮しつつ、南インドに多いシヴァ派を前面に出した、というところでしょうか。
カトマンズにお住まいなんですか。
遠くからコメント、ありがとうございました。
「ここはコレだよ~」という所がほかにもありましたら、ぜひまたコメントでお教え下さいね。