2015年もあとわずかとなりました。今年もたくさんの秀作を見られて幸せでしたが、来年も見応えのある作品が次々と公開される予定です。まずはその中から、中国と香港の合作である『最愛の子』をご紹介しましょう。すでに第16回東京フィルメックスでご覧になった方も多いかと思いますが、ピーター・チャン監督の本作は見事フィルメックスで観客賞を獲得しました。映画のデータは以下の通りです。
『最愛の子』 公式サイト
中国・香港/2014年/中国語/130分/原題:親愛的
監督:陳可辛(ピーター・チャン)
主演:趙薇(ヴィッキー・チャオ)、黄渤(ホアン・ボー)、佟大為(トン・ダーウェイ)、郝蕾(ハオ・レイ)、張譯(チャン・イー)
配給:ハピネット、ビターズ・エンド
宣伝:ビターズ・エンド、シャントラパ
※2016年1月16日(土)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー
(C)2014 We Pictures Ltd.
最初の舞台は、先日大規模な土砂崩れがあった中国南部広東省の都市深圳。香港に隣接したこの都市は経済特区になっており、21世紀に入って発展著しい場所です。そこでネットカフェを営むティエン(ホアン・ボー)は妻ジュアン(ハオ・レイ)と離婚し、3歳の息子ポンポンを引き取って2人で暮らしています。ジュアンは離婚後再婚していますが、息子ポンポンと週1回会う権利を行使し、この日も一緒に過ごしたあとポンポンをティエンの店まで送ってきました。母が去ったあとポンポンは近所の友達に誘われてスケートを見に行き、そこで母が車で帰る姿を見かけて、つい追いかけてしまいます。
(C)2014 We Pictures Ltd.
夕方になっても帰宅しないポンポン。心配したティエンは必死で探しますが、警察は誘拐かどうかまだわからないからと動いてくれません。連絡を受けたジュアンも一緒になって捜したにもかかわらず、手がかりはまったくなし。2人は激しく自分を責めます。こうして消えてしまったポンポンの行方を追って、ティエンとジュアンは同じような体験をしている親の会に参加したり、似ている子がいる、と連絡を受けると遠くまで確認に行ったりと、悪夢のような日々を過ごすことになります。そして3年後、確実な情報を得て親の会の世話役ハン(チャン・イー)と共に安徽省の村に向かったティエンとジュアンは、農家の主婦リー・ホンチン(ヴィッキー・チャオ)の息子になっているポンポンを見つけ、連れ戻そうとするのですが....。
(C)2014 We Pictures Ltd.
以前、このブログで劉徳華(アンディ・ラウ)が主演した『失孤』(2015)という映画を紹介したことがありますが、それと同じ問題、誘拐による子供の失踪を扱った作品が『最愛の子』です。私が『失孤』を見たのはまだ『最愛の子』を見ていない時で、『最愛の子』は今夏東南アジアへ旅行した時に機内で見たのですが、『失孤』以上に胸しめつけられる作品で小さな画面に見入ってしまいました。今回スクリーンで見直してみてさらに深く引きつけられたのですが、それは実に巧みな脚本のせい。本作では、前半は子供を突然奪われた親たちの側に立って、理不尽な事件への悔しさ、哀しみ、焦燥感などを描いていきますが、後半は奪った側の親を主人公に据え直し、その心情をかっちりと描いていくのです。
(C)2014 We Pictures Ltd.
ヴィッキー・チャオが演じる農婦ホンチンは、夫が連れ帰ったポンポン、それからもう1人の女の子を、愛情を込めて育てています。子供ができなかったホンチンにとっては、自分のお腹を痛めていなくても、2人とも自分の元にやってきた大事な我が子。特に夫が死亡してからは、大切な家族として2人を慈しんできたのです。それゆえに、ティエンとジュアンの行為はホンチンにとっては無理矢理の連れ去り、つまり誘拐にほかならなかったのでした。下の女の子まで警察に連れ去られ、児童養護施設に入れられてしまったホンチンは、弁護士(トン・ダーウェイ)を雇い、子供を取り戻そうとします...。
(C)2014 We Pictures Ltd.
こんな風にピーター・チャン監督は、どちらが善でどちらが悪という描き方をせず、翻弄される親子の関係とそれによる彼らの葛藤を丁寧に辿っていきます。それもそのはず、本作は実際にあった事件に基づいており、描かれたエピソードもほぼ事実のようで、唖然とするシーンもしばしば登場します。俳優陣も、コメディ演技を封印したホアン・ボーに、ノーメイクで安徽省訛りの中国語をしゃべるヴィッキー・チャオ、さらにハオ・レイやチャン・イーも含めて泥臭いまでに主人公たちになり切って迫真の演技を見せてくれ、見る者の心に強く訴えかけてきます。驚きが待つラストまで、ぐいぐいと引っ張られてしまう作品でした。
(C)2014 We Pictures Ltd.
中国で行方不明になる子供は、年間20万人にも及ぶとか。幼児誘拐は様々な社会的要因があって起こる事件だと思いますが、絶対に起きてはいけない事件と言えます。『最愛の子』や『失孤』のような作品が世に出ることで、人々の関心が高まってそんな事件が根絶されるといいのですが。
生みの親と育ての親の葛藤が胸に突き刺さる!映画『最愛の子』予告編
今年相次いで起きた大事故といい、まだまだ成熟しているとは言いがたい中国社会ですが、子を思う親の気持ちは日本と同じ。いや、日本以上に強いとも言え、本作での表現は親子の情愛の深さを見せつけてくれます。新しい年の初めに見ておきたい、ズンと心に響く作品です。