57.ある絵画の話 ①
今回は作品に念がこもるというお話しです。
念のつく言葉はたくさんあります。
「信念」「執念」「思念」「念力」「念仏」「情念」「怨念」等々。
とにかくたくさんありますね。
「念」の意味は「思考や感情をはじめとする、心中に抱いているもの。あるいは心の働きなどを広く指す言葉。」だそうです。
どうりで、いい意味にも悪い意味にも使われる。その人の心持ち次第というわけです。
作り手の思いが作品にこもることがあります。
遠い昔に作られたものが長い時間を経た今でも力強く存在している例はたくさんあります。仏像、文学、絵画、美術品や骨董品、例を挙げればキリがありませんね。
作り手の思いでもあり、それを観賞する側の思いも上乗せされていたりして。
インスピレーションで作ることとはまた別の分野だと思います。
インスピレーションで作る時は、むしろ自分の感情は入りにくい気がします。また、完全な形を表した場合も色褪せることは無いように思います。
創造とは本当に奥深いものだと思います。
ともかく作品に作者の思いがこもる、この事を深く心に刻む出来事がありました。
58.ある絵画の話 ②
それは十数年前、まだセミナーに行っている頃でした。
ある時、友人の家にもう一人の友人と遊びに行きました。
いつもは1階で過ごすのですが、その日は初めて2階を見せてくれました。
彼女の家には2階にお風呂があるというのです。私はどのおうちもお風呂は1階にあると思い込んでいたので、びっくりしました。すると「 2階に行ったことなかったっけ?」と言って 、2階に連れて行ってくれ ました。
階段の途中で 、 夏だというのに 背筋がゾッとしました。 気のせいかと思って いると 、降りる時もやはり同じ場所で背筋がゾッとするのです 。
それを友達に言いました 。私は何度か行ったり来たりして確認しました。 やはり同じ場所でいつも背筋がゾッとするのです 。
その上を見上げると壁に絵がかかっていました。 それは冬景色の風景画でした。教会に雪が降り積もっています。上手ですが、 とても寒々しい絵でした。
友人の好みとはあまりにも違うので、 どうしてこの絵を飾っているのか聞いてみました 。すると数年前に新築のお祝いで 旦那さん側のおばさんがこの絵をくれたと言うのです。 本当はその絵が好きじゃないけど、 おばさんは近所に住んでいるので、 来られた時に飾っていないと気まずいということでした。 それでなるべく気にならない階段の壁に飾っていたのでした。
でもいい感じはしません。 そこで私達はその絵を外して観察してみました。
結局理由はわからないけど、やはり何か良くないという結論になりました。友人もその絵が元々好きではないので、その絵を供養して手放すことに決めました 。供養の場所や日取りが決まるまで 、その絵をどうしようということになりましたが、もう友人も元の場所に飾る気にはなりません。
とにかく何か布で包んでおいたらいいんじゃないということになりました。すると友人が 気に入って買ったのに一度も使ってないテーブルクロスがあると言いました 。まさにその絵のために買ってあったかのようでした。
その日はその絵を包んで解散となりました。
そして数日後、友人から絵の素性がわかったと電話があったのです。
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59.ある絵画の話 ③
あれから数日後、 友人から 絵の素性が分かったと電話がありました 。
その絵について考えていた友人は、額の中に手紙があるのがイメージで見えたそうです。
どうしても確認したくて、思いきって 額を開けてみたそうです 。するとそこには 手紙は無かったものの、キャンバスの裏におばさんの名前宛と 絵を書いた方の署名があったそうです。
色々話を合わせると、なんとおばさんに好意を寄せた男性が おばさんのために描いて贈った絵だったようなのです 。それを受け取ったものの 、おばさんはその方の思いは受け取れず 、でもその絵を処分することもできずに、甥の新築祝いとして友人宅に贈ったのではないかということでした 。
友人は自分がイメージで見た手紙の意味がわかった、当たったと大興奮で話してくれました。
つまりその絵は 言わばその男性がおばさんに宛てたラブレターだったに違いないと。
そして友人はおばさんに事情を話して 返すことになったそうです。
おばさん宛の絵を頂くことはできない、そしてその絵をどうするかはおばさんが決めるべきだと言っていました。
これでようやく新築してから何年もの間、いやいや飾られていた絵は、本来の持ち主の元に戻ることになったのでした 。
そして友人の家に遊びに行くと 、その絵を包みから出してリビングに立て掛けているというのです。もうすぐおばさんに返すということでした。
ところが私はリビングに入っても、あの絵がどこにあるのかわかりませんでした。「ここあるやん」と言われて、私ともう一人の友人はその絵を見て 愕然としました。
私達にはその絵は冬景色に見えていました 。
ところがその絵は本当は全体に黄色い菜の花に包まれたような、とても明るい春の絵だったのです 。私と友人は 狐に化かされたようでした。
変な話、当たり前すぎて何が描かれているかについて話し合ったことがなかったのです。初めて見る絵について、自分の見えている絵が実際の絵と違っているなんて考えるでしょうか?私達はお互いに何度も二人で確認しましたが、やっぱり今まで見えていた絵では冬景色でした。
もちろん、飾っていた友人にも色などを説明して確認しましたが、最初からこの春の絵だと当然のように言いました。
その絵は友人宅に追いやられて悲しかったのかもしれません。だからゾッとするような寒々しい冬景色に見えたのではないでしょうか?
今でもたまに思い出す印象的な出来事でした。