DayDreamNote by星玉

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やさしき人の花

2015年04月08日 | 創作帳
毎日
水をやり
朝晩
話しかけ

大事にしてきた
お花が
殺されそうだったのです

少なくとも、わたしには
そんなふうに、感じられました

それで
とっさに

お花の上に
身をかぶせたのです

すべての悪しきものが
お花に、触れないように

しばらく
そうしていました

もう、だいじょうぶかしらと
からだを、起こしたわたしは

ああ何てことだと

崩れ落ちました

泣きながら
自分を殴り
自分を責めました

お花は
おおいかぶさった
わたしのからだの
重みで

つぶれてしまったのです


ああ、ごめんなさいごめんなさい

つぶれたお花を前に
わたしは、長いこと
ひざを抱えて泣き暮らしました

もとにはもどらない花を
何度も何度も、なでては
何年も何年も、泣きました

そうして
涙も枯れたころ

顔をあげると

お花の種を植えている
おばあさん

お花畑に肥料をやっている
おじさん

花束をかかえ
いそいそと歩く娘さん

が、目に入りました


何年かぶりに
わたしは、口を開いて

この人たちに
きいてみよう、と思いました


わたしのお花
わたしが、つぶしてしまったお花が
なくなりました
どこに


きくと

土になったのよ
星になったんだよ
あなたの心になったのよ

そんなこたえが、かえってきました

それから

おばあさんから
種を分けていただきました

おじさんに
満開の花を見せていただきました

娘さんに
花束の香りをかがせていただきました


やさしき人たち


わたしの、いなくなったお花は
いないままで

かなしみが
消えることは、ないけれど

そして

やさしき人たちのこたえが
正しいかは
確かめられないけれど


やさしき人たちの
花は、咲きます



(写真提供は「写真AC」acworksさんより。ありがとうございます。)


過去形

2015年04月06日 | 創作帳

おわかれ、は

いつも

過去形で、来るの


手を振るのはいま


さよならは

あとで、知るの


体を触れるのはここ


さよならに

前ぶれを、ふれないの


心を降らせるのはまだ



振れない手 触れた体
触れない体 降れた心
降れない心 振れた手


ばらばらになったものたちをしばり

風に投げるの
空に浮かぶの
光に泳ぐの


その形のことなど

空に、きいても
風に、きいても
光に、きいても

わかるわけ、ないから





まぶたを閉じて

2015年04月06日 | 創作帳
まぶたを
閉じていたのは

一瞬だったような
気がします

閉じている間に

世界は
変わりました

閉じていたせいですか

閉じなければ
変わらなかったのですか


知り合いのウサギも猫も
わからないままでよいのだ、と
鳴きました



世界は変わる
空気の色は剥がれ塗られ
また剥がれ塗られ

赤色が灰色に
灰色が金色に

金色が黒色に
黒色が銀色に

銀色が青色に
青色が桃色に



それらを
無造作、無神経に、取り巻く

時間
空間
人々

閉じたまぶたの
その裏に

放つ矢の速さで
流れ流れ流れ
流れが流れていきます

わたしと、あなたたち
あなたとわたしたち
過ごした日々を
さまざまに

塗って
染めて
いきました

色は
ふとした合間、
何気無い間合い、に


消えるのです


無色の野



これで
98999412925回
消えました


わたし、また
まぶたを、閉じます


世界の色を変えるためなのか
世界の色を無くすためなのか

空の向こう
鳥が鳴いて飛びました
わからないままでいいのだと


よければ、お願いです

あなたから、見える世界の色を
どうぞ、教えてください





(画像提供は「写真AC」ricoさんより。ありがとうございます。)


お届けものです

2015年04月04日 | 創作帳
荷物を、持って
橋をわたっています。

むこうがわに
いかなければならない
お仕事ができたのです。


お仕事とは
この荷物、つまり「お届けもの」
を届けることです。


お届けものの、中身は

「思い出」
という荷物です。


思い出……

これは
とても
こわれやすいものです。

だから

そうっとそうっと
運ばなければなりません。

なかなか
神経をつかいます。


ときどき
受け取り拒否をする方が
いらっしゃいますが

ゆくあてのない
「思い出」は

ますます
ふくれあがり

ますます
重量が増します。

どうか
お受け取りの
サインを




(写真「写真AC」チョコラテさん)



2015年04月03日 | 創作帳
鐘が、鳴っていますね。


近くに
教会でも、あるのでしょうか。


夜、
白い波の中で
泳いでいると

よく
聞こえるのです。

鐘の音。


聞きながら
波のあいだを、ゆきます。


泳ぎが
うまくないわたしは

波をたくさん
飲んでしまいます。

波は
とても、とても、しょっぱいです。

鐘の音は

泳ぐ人を

讃えているのでしょうか。
哀れんでいるのでしょうか。


まだ……

泳ぎます。


たくさん泳いで
手足がしびれたころ

ようやく

岩でできた、お城に
たどり着きました。

どうやら

鐘は
お城の、塔のてっぺんから
聞こえているようです。


白い波間を
夜に、泳ぎ

白い波を
からだに、いっぱい
飲みこんだら

その音は

わたしへ
あなたへ

鳴ることを
知りました。





(写真提供は「写真AC」旅人さんより。ありがとうございます。)