DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

#17.哲学

2018年02月28日 | 星玉帳-Blue Letters-
【哲学】


水玉キツネを部屋に招いた。


一緒に


壁や床やシーツに水玉を描いた。



「これで完成、という水玉模様はありませんね」


キツネが言う。



「長い作業になりそうですね」



わたしが答える。



「水玉は星であり愛であり過去であり現在であり未来であり自分でありあの人でもあるのです」



キツネの水玉哲学。





#16.夜

2018年02月26日 | 星玉帳-Blue Letters-
【夜】

銀色の糸を握る。


夜宙(よぞら)に水色の球を撒く。


紡いだ綿でシーツを編み


ヤギを隣りに寝かせる。


金星の歌を歌う。



宇宙船が伸ばす一条の光をたどり


鳥を追う。



ささやかな儀式が救うものたちを思う。



夜が開き、


星がひとつ漆黒へ落ちた。








#15.幻燈屋

2018年02月25日 | 星玉帳-Blue Letters-
【幻燈屋】


白を身につけていらしてください


と幻燈屋の扉には、貼り紙がある。




白いブラウスを着て宿を出、幻燈屋に入った。



白いブラウスには青い海の星が映された。



土星の人は幻燈を好んでいた。



わたる星のどこかにも幻燈屋はあるだろうか。



ブラウスは色を帯び青い星で見た色になっていった。










#14.極青

2018年02月19日 | 星玉帳-Blue Letters-
【極青】

海のそばにある絵の具屋を訪ねた。


店に入ると小箱を渡され


五月の一等の思い出をどうぞ


と言われた。



土星の人との思い出を語った。



箱は水でいっぱいになった。



水はわたしの涙だという。



絵の具屋が涙を煮詰めると


極青色になった。



瓶に詰めてもらう。



土星の人と過ごした五月の色だ。







#13.花

2018年02月18日 | 星玉帳-Blue Letters-
【花】


金星火山花を抱き


花パレードに加わった。



この花には


自分の熱で自分を燃やす性質がある。



パレードの終着点は海。


高熱の花は海に流すのがよいと聞いた。



熱はそれを抱いた者に即座にうつされ


パレードの後もしばらく続く。





#12.砂

2018年02月12日 | 星玉帳-Blue Letters-
【砂】


砂が風に乗り窓から入ってきた。



海の砂川の砂森の砂星の砂……



砂は様々な所から来て様々な色乾き方濡れ方をしていた。



一握りの砂に星の牧場の香りがした。



子守唄を歌う羊が住む牧場の砂のようだった。



砂の上に羊に宛てた手紙を書いた。




一瞬の風に上書きされ

消える手紙を

君に書いた。



#11.森番

2018年02月11日 | 星玉帳-Blue Letters-
【森番】


森番をしている女の人をたずねた。




若葉の香りがするお茶の淹れ方を


教わりたかったのだが


彼女は今日からここを留守にするという。


時間がなかった。



季節が来ましたよ会えるのですよやっと。



弾む声。



どこにいくのですか誰に会うのですか。




問うた声は


扉を開けた人に届かないまま。








#10.水玉

2018年02月10日 | 星玉帳-Blue Letters-
【水玉】


森の入り口で水玉模様のキツネに会うことがある。


キツネは自分の毛に水玉を描き続けている。



わたしが水玉模様のワンピースを着ていると


キツネは必ず寄ってきて


いい水玉ですね


と誉めてくれる。



水玉キツネは一日の終わりに


からだの水玉をすべて洗い流す。



水玉を愛するがために洗い流す。





#9.絵師

2018年02月06日 | 星玉帳-Blue Letters-
【絵師】


夕刻、


通りを歩いていると強い風が吹いてきた。


足元に一枚の紙が当たった。


拾い上げた。


何か描かれているようなのだが、紙は光るばかりだ。



その眩しさに目を閉じようとし、思い当たる。



この紙は夕陽の光のみ映し


瞬く間に漆黒へと変化(へんげ)する。



夕陽の絵師が飛ばす紙なのだ。








#8.金星塔

2018年02月03日 | 星玉帳-Blue Letters-
【金星塔】

金星塔の螺旋階段を上る。

展望台に行くのだ。


塔の階段には滑り止めのため荒い星砂が塗られていた。


金星塔の階段は滑りやすく足を踏み外して命を落とす人もいると聞く。



「展望台の売店で甘いものを買いベンチに座ってゆっくり食べなさい

今はそれ以外考えてはいけない」



壁にはそんな落書きがある。



#7.一滴

2018年02月02日 | 星玉帳-Blue Letters-
【一滴】

雨の一滴を珈琲に垂らすと


夜が入ってきて


褐色の液体は色も味も濃くなった。



宿の三軒先にある牛乳店で買ったミルクを足した。



いっとき使っていたZ牧場のミルクが


今はもう手に入らないのだ、



ということを夜が入ったこれを飲むごとに思い




雨が降るごとにそれは甘苦くなる。



#6.小栗鼠(こりす)

2018年02月01日 | 星玉帳-Blue Letters-
【小栗鼠(こりす)】

届けられなかった手紙はございませんか、


手紙回収屋の小栗鼠が宿の扉を叩いた。


小栗鼠は森の北にあるムクノキの幹に棲んでいた。


幾通かあったので渡した。


手紙は幹の空洞に入れ、

小栗鼠がくるくる走り回りかき混ぜるのだ。



すると手紙は粉になる。



粉は風の材料になるという。