DayDreamNote by星玉

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flake14.紐

2018年10月30日 | 星玉帳-Star Flakes-
【紐】


氷の海を往く人と


流氷の船上で別れたのは何時だったか。


記憶をたぐり寄せ紐に結ぶ。


紐は氷樹の皮で編んだもので結ぶのは深い記憶だ。


それらは系列も規則も持たず古くも新しくもなり得た。


不規則なものたちを結ぶ度に紐は固く冷たくなるので


胸ポケットに入れて鼓動に当てるようにするのだ。




flake14『紐』




flake13.花灯

2018年10月25日 | 星玉帳-Star Flakes-
【花灯】


森を進む。


辺りはどんどん暗くなり


殆ど闇の中にいるようになってしまった。


時たま足元に小さな白い光が浮かぶのが頼りだった。


この星にしか咲かない灯り花だ。


花のそばにいた小さな動物が


どうぞ灯りにと花を幾つかくれた。


闇は深くなるばかりで


と鳴く彼は


もうずっとここに佇んでいるという。




flake13『花灯』


flake12.葉

2018年10月22日 | 星玉帳-Star Flakes-
【葉】


野原に立つ樹木のそばで暮らす羊を訪ねた。


羊から葉を渡される。


言葉を記すための葉らしい。


思いつくままに綴ると


それはすぐに野に放たれた。


葉は養分となりどこかで実が育ったり


毒になり何かを傷めたり


何にもならず漂ったりすぐに朽ちたり


それはおおかた風任せなのですよと羊は言う。


 


flake12『葉』




flake11.境界

2018年10月18日 | 星玉帳-Star Flakes-
【境界】


いつの間にか体が水に濡れていた。


河原を歩いていたはずなのに


瞬く間に全身が水に包まれてゆく。


どこへいくはずだったのか。


夢なのか現なのか


それを明らかにする必要があるのかと


濡れながら思う。


夢との境界はいつも曖昧で尊い。


どこかの星のどこかの川辺も


境界が見せた映し絵に違いない。




flake11『境界』





flake10.水辺

2018年10月16日 | 星玉帳-Star Flakes-
【水辺】


青いシャツを羽織り水の星を訪ねた。


川を流れる銀の水でお茶を淹れ


深いところで暮らす魚を待った。


この青シャツは約束の目印なのだ。


が、煙も印にはならないかと


ここを訪ねる度に川辺で火を焚き湯を沸かす。


そして夜風が吹き


青シャツから銀の水の匂いが香る頃


ひとり火を消すのだった。




flake10『水辺』



flake9.方角星

2018年10月12日 | 星玉帳-Star Flakes-
【方角星】


夜の気配が濃くなるにつれ


遠い惑星で過ごした日々の記憶が流星のように流れてきた。


あの星では南北の方角星ばかりが頼りだったけれど


星宿の夜、方角はさほど重要なものではなくなった。


ただ流星を数える。


夜が深まるころになると


流星は欠片になるので


それらを手に目を閉じるのだ。





flake9『方角星』




flake8.金星草

2018年10月11日 | 星玉帳-Star Flakes-
【金星草】


丘の斜面には金星草が繁っていた。


この星のこの季節、金星草の花は開き特有の香りを放つ。


香りは記憶を一瞬で引き寄せ


星の宿の一夜が鮮やかに蘇った。


あの惑星では


至るところに金星草の花が香っていた。


置き去りにしていただけの記憶に


時の流れはなく


それは簡単に近くなる。




flake8『金星草』



flake7.スープ

2018年10月08日 | 星玉帳-Star Flakes-
【スープ】


夜明け


やって来る鳥のためにスープを作る。


鳥の好物の星草の固い実を入れて火を止める。


スープがほどよく冷めた頃


窓を開けた。


遠い声が次第に近づいてくるのを聞く。


声は鳴き声なのか泣く声なのか歌う声なのかそのどれもなのか。


どこへ届けるともないその声を聞きたくて今朝もスープを注ぐ。




flake7『スープ』



flake6.星石

2018年10月06日 | 星玉帳-Star Flakes-
【星石】


星の河原に転がる星石は


星の光を受けて強く弱く光る。光


をよく浴びたものは適度な硬さになって細工がしやすなり


加工場でいろいろな形に加工される。


星石で作られた青の惑星を型取った小さな玉は


いつもポケットにしまっている。


時折力を込めて握る。


青の星で過ごした時が溢れすぎぬよう。






flake6『星石』





flake5.地図

2018年10月05日 | 星玉帳-Star Flakes-
【地図】


港の地図屋で地図をひとつ求めた。


この星の道は複雑に入り組んでいるという。


地図は単なる目安とお守りにすぎませんよ、この星の迷いやすさは格別です


と地図屋は言った。


異言語の地図は読み取ることが難しく


星灯りの道は暗い。


迷うことが旅となるならばと地図を閉じ


ただ森の香りをさがした。





flake5『地図』




flake4.対岸

2018年10月04日 | 星玉帳-Star Flakes-
【対岸】


河原を歩いていると対岸に人影が見えた。


土星の川辺で出会った人によく似ている。


ああまた。


この星では似た影をよく見かけるのだ。


似ているだけの見知らぬ影を幾度も。


対岸に渡りたいのだが橋も舟も見当たらない。


影はこちらに気づく様子もなく遠ざかり


やがて降り出した雨に溶けていった。





flake4『対岸』



flake3.鞄

2018年10月03日 | 星玉帳-Star Flakes-
【鞄】



通りの鞄屋で手持ちの紙が入る鞄を求めた。


紙の束が入った重い鞄を抱えて町に出かけては宿に戻る日々を続けるうち、


その鞄屋は店じまいをしてしまった。


鞄を作っていた店主の行方も知れず。



夢も憂いも希みも哀しみもここ(鞄の中)に見えます


と彼は言っていた。



この星唯一の鞄職人だった。





flake3『鞄』




flake2.雫花

2018年10月02日 | 星玉帳-Star Flakes-
【雫花】


嵐の止んだ夜明け前、


花畑に出かける。


嵐の季節に花開く雫花に付く水滴を集めるためだ。


雨と風を受け続けた花から一滴二滴。


それをまぶたに塗れば、


濃い闇の中でさえなお閉じることの出来なかったものを


いとも簡単に一夜の夢に変えることができるという。


星の人から聞いた療法だ。





flake2『雫花』




flake1.星船

2018年10月01日 | 星玉帳-Star Flakes-
【星船】


船は暁色の雲路を抜け宙に現れた。


この星に不定期に湧く夜明け雲の雲油を使って往来する星船だ。



船灯りは次第に大きくなり



航路を照らしながら水滴を発生させ海霞に溶け合う。



汽笛を聞きトランクに切符と昨夜記した物語と船乗りから届いた古い手紙を詰めた。



あの船に間に合うように。







flake1『星船』