カゲは、わたしと共にいました。
太陽や光に当たると、カゲは必ず、わたしに寄り添い
カタチを、さまざまに作ってくれました。
寄り添うカゲは、わたしの大切な宝でした。
カゲの作ってくれるカゲは、非常にわたしに親しいカタチで、
それでいてつかみどころのないものです。
それでも、わたしは今にもきえそうなカゲの手とおぼしきものを取り……
(正確には手をとったつもりになり)
わたしたちはよくダンスをしました。
ダンスといってもふたり一緒に気の向くままに揺れている、そんな感じの動きです。
ダンスは、笑顔の時も。悲しい時も。つらい時も。苦しい時も。
気まぐれに現れては消えるカゲを、わたしはつかまえて、大事な宝物を入れる自分の「宝箱」に入れたいと
よく思いましたが、
カゲは、はっきりとつかむことなど、できませんし、
第一そんな愚かなことをしてはいけないと、わたしは分かっているつもりです。
箱に入れるなどして閉じ込めてしまったら、
カゲはカゲの自由さ-たやすくカタチを変えたり気まぐれにふっと消えたり登場したりする力(それはカゲのすべて!)-
そのような魔法の力とも呼ぶべき力を失ってしまうでしょうから。
あるとき、わたしは病を患ってしまいました。
光に当たることのできない病気でした。
光に当たってしまうと、全身が震え出し、呼吸が苦しくなってしまうのです。
命さえ奪ってしまう病でした。
何よりもわたしを悲しませたのは、
光に当たれないこと、というよりも、光に当たらないことによって「カゲに会えない」ということでした。
光が現れるとき必ずカゲもやってくるのです。
わたしは、光の当たらない部屋に閉じこもり
何年も何年も泣き暮らしました。
暗い部屋の中で、たまに小さな頃から大事にしている「宝箱」を開けて眺める、そんな生活が続いていました。
宝箱の中には、お気に入りの石だとか指輪だとか、子供の頃から集めていた、他愛のないものが入っているだけなのですが。
カゲに会えない今、そんなことくらいしか、できない自分でした。
ある日、いつものように、宝箱を開けると
え?
中に、何か、黒いような、形の定まらないようなものが、よぎったようでした。
もしかして……
カゲ?
カゲなの?
わたしに会いに来てくれたの?
それ(カゲとおぼしきもの)は、かすかにうなずいたようでした。
カゲが会いに来てくれた!
見ると、閉め切っていた窓のカーテンが、いつのまにか少しだけ開いていました。
もしかして
カゲが開けてくれたの?
カーテンのすきまから、一筋の光が差し込んでいます。
宝箱の中でカゲは、光とともに、そのカタチを長くしたり短くしたり横に動いたり縦に跳ねたりさせたりして、
わたしたちがよくしていたあのダンスをしているようでした。
これは喜びのダンス。
カゲもわたしに会えて喜んでいるのだわ。
きっとわたしの願いが、カゲに通じたのだ。
さあ、箱になんか、入っていてはだめよ。
わたしは、カゲに手を伸ばしました。
カゲも、それを待っていたように手を伸ばし、わたしの手を取ってくれました。
わたしとカゲは、手をつないで踊りました。
なつかしく愛おしいカゲとのダンスでした。
このまま永久に踊っていられたらいいのに……
わたしが言うと、カゲもまたうなずきました。
扉を開けましょうか?
ここは狭いわ。
カーテンがさらに開いたみたいです。
目の前にぱあっと光の道が開けました。
まぶしい。
強烈なまぶしさです。
扉の形がはっきり見えます。
カゲの形もだんだんはっきりしてきました。
光のまぶしさにともなって、わたしの意識は、だんだん薄れていくようです。
わたしはカゲに言いました。
「扉の向こうへ、いきましょう。踊るにはここは狭いわ。それにこの暗い部屋はもうたくさんなの」
カゲがわたしに言いました。
「向こうへ行くと、戻れないのだよ、ここには。それでもいく?」
戻る?
そんなこと!
どうしてたずねるの?
扉へ。
さあ開けましょう。
(画像提供は「写真AC」そぼぼんさんより。ありがとうございます)
太陽や光に当たると、カゲは必ず、わたしに寄り添い
カタチを、さまざまに作ってくれました。
寄り添うカゲは、わたしの大切な宝でした。
カゲの作ってくれるカゲは、非常にわたしに親しいカタチで、
それでいてつかみどころのないものです。
それでも、わたしは今にもきえそうなカゲの手とおぼしきものを取り……
(正確には手をとったつもりになり)
わたしたちはよくダンスをしました。
ダンスといってもふたり一緒に気の向くままに揺れている、そんな感じの動きです。
ダンスは、笑顔の時も。悲しい時も。つらい時も。苦しい時も。
気まぐれに現れては消えるカゲを、わたしはつかまえて、大事な宝物を入れる自分の「宝箱」に入れたいと
よく思いましたが、
カゲは、はっきりとつかむことなど、できませんし、
第一そんな愚かなことをしてはいけないと、わたしは分かっているつもりです。
箱に入れるなどして閉じ込めてしまったら、
カゲはカゲの自由さ-たやすくカタチを変えたり気まぐれにふっと消えたり登場したりする力(それはカゲのすべて!)-
そのような魔法の力とも呼ぶべき力を失ってしまうでしょうから。
あるとき、わたしは病を患ってしまいました。
光に当たることのできない病気でした。
光に当たってしまうと、全身が震え出し、呼吸が苦しくなってしまうのです。
命さえ奪ってしまう病でした。
何よりもわたしを悲しませたのは、
光に当たれないこと、というよりも、光に当たらないことによって「カゲに会えない」ということでした。
光が現れるとき必ずカゲもやってくるのです。
わたしは、光の当たらない部屋に閉じこもり
何年も何年も泣き暮らしました。
暗い部屋の中で、たまに小さな頃から大事にしている「宝箱」を開けて眺める、そんな生活が続いていました。
宝箱の中には、お気に入りの石だとか指輪だとか、子供の頃から集めていた、他愛のないものが入っているだけなのですが。
カゲに会えない今、そんなことくらいしか、できない自分でした。
ある日、いつものように、宝箱を開けると
え?
中に、何か、黒いような、形の定まらないようなものが、よぎったようでした。
もしかして……
カゲ?
カゲなの?
わたしに会いに来てくれたの?
それ(カゲとおぼしきもの)は、かすかにうなずいたようでした。
カゲが会いに来てくれた!
見ると、閉め切っていた窓のカーテンが、いつのまにか少しだけ開いていました。
もしかして
カゲが開けてくれたの?
カーテンのすきまから、一筋の光が差し込んでいます。
宝箱の中でカゲは、光とともに、そのカタチを長くしたり短くしたり横に動いたり縦に跳ねたりさせたりして、
わたしたちがよくしていたあのダンスをしているようでした。
これは喜びのダンス。
カゲもわたしに会えて喜んでいるのだわ。
きっとわたしの願いが、カゲに通じたのだ。
さあ、箱になんか、入っていてはだめよ。
わたしは、カゲに手を伸ばしました。
カゲも、それを待っていたように手を伸ばし、わたしの手を取ってくれました。
わたしとカゲは、手をつないで踊りました。
なつかしく愛おしいカゲとのダンスでした。
このまま永久に踊っていられたらいいのに……
わたしが言うと、カゲもまたうなずきました。
扉を開けましょうか?
ここは狭いわ。
カーテンがさらに開いたみたいです。
目の前にぱあっと光の道が開けました。
まぶしい。
強烈なまぶしさです。
扉の形がはっきり見えます。
カゲの形もだんだんはっきりしてきました。
光のまぶしさにともなって、わたしの意識は、だんだん薄れていくようです。
わたしはカゲに言いました。
「扉の向こうへ、いきましょう。踊るにはここは狭いわ。それにこの暗い部屋はもうたくさんなの」
カゲがわたしに言いました。
「向こうへ行くと、戻れないのだよ、ここには。それでもいく?」
戻る?
そんなこと!
どうしてたずねるの?
扉へ。
さあ開けましょう。
(画像提供は「写真AC」そぼぼんさんより。ありがとうございます)