DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

#41.六月星

2018年03月31日 | 星玉帳-Blue Letters-
【六月星】


星玉工場でグラスを手に入れた。



高多湿が特徴の六月星で採取した鉱物で作られているものだ。




炭酸水を注いで指で弾くと雨音様の音が鳴った。




六月星で星の人と一日雨音を聞いたことを思い出す。




あれは奏でられた途端に指から溢れ落ちる音だった。





グラスに耳を傾ける。




が、同じ音を聞くことはできなかった。







#40.琥珀

2018年03月30日 | 星玉帳-Blue Letters-
【琥珀】



惑星の夜と朝とは



幾度も幾度も永遠に近く




交互に重なっては浮び沈みを繰り返す。




金星稲穂の揺れる夜更け。



琥珀の酒を飲み始めた。




すでに溺れていることを



自分に教えるために。




窓を開け



宙に浮かぶ船の汽笛を聞く。




トランクの鍵を開けよう。




グラスが空になるまでに



荷造りを終えるのだ。








#39.箱

2018年03月29日 | 星玉帳-Blue Letters-
【箱】


雨の夕方。



小さな箱がひとつ



宿に届いた。




箱は透明で中身は見えていた。



水玉。



箱の中には水玉が入っていた。



送り主は誰だろう。




しばらく水玉をながめた。



隣室の音楽師がつま弾く弦の音色が



雨音と混じる。




ああそうだ。



あの曲もこの水玉も。




送り主はわたしで



止まない雨の音色は



わたしによく似た旅人の声だ。









#38.酒

2018年03月28日 | 星玉帳-Blue Letters-
【酒】


弦楽器を演奏し星を巡っている音楽師から



酒を分けてもらった。




遥かM1204星の蔵人が造ったという酒。



その琥珀色は



土星の人と見た金星稲穂のそよぐ光景を思い出させた。



グラスに注ぐ。



あの琥珀に溺れたらよかったのだ。



たった一日のことだのに



星にはとても長く居たような気がする。















#37.約束

2018年03月27日 | 星玉帳-Blue Letters-
【約束】


花を持ち金星塔の階段を上る。



段を千と少し数え上った所に



小窓があった。




窓から星を見るうち



数がわからなくなり数えるのをやめた。




塔の展望台から



星間便の出航を見送る約束。




間に合わないかもしれない。



階段を上り続ける。




船に乗った人に




この星に咲いた花を振る。





それだけの約束。






#36.飴

2018年03月26日 | 星玉帳-Blue Letters-
【飴】


32惑星で採れる星糖草は食用で



その茎も根もとても甘い。




宿の近くにある飴屋では



星糖草を使い飴を作る。




歌を歌う森の少女は



よくここに飴を買いに来る。




歌うためには甘い甘い飴がたくさん必要です、



と少女は言う。




乾いた夜に星糖飴を口に含むと




甘い風の声が森から届く。







#35.銀色

2018年03月25日 | 星玉帳-Blue Letters-
【銀色】


銀色の表紙の本をいつも鞄に入れ持ち歩いている。




33惑星に通っていた頃、



そこに住む書物師が



とびきりの星砂染料を使い



銀色表紙の本を作ってくれた。




だが、本の頁はすべて白紙なのだ。




一文字の活字もない頁に




時の流れが浮かび上がるようになっている。




それは33惑星で過ごしたつかの間の



時の流れのように読めた。








#34.雫

2018年03月24日 | 星玉帳-Blue Letters-
【雫】


雫木の森の小さな茶店。



メニューは


雫木の実を炒って淹れたお茶。


樹液入りの焼き菓子。


テーブルには雫木の繊維で織った布。


「この布を頬に当てると、微笑みが戻るのですよ」


と店主が言う。



「本当?」


問うと、



「微笑む頬は壊れやすいのでそっと当てるとよいのです。

涙の雫もよく吸います」


と布を広げ笑った。






#33.記憶

2018年03月23日 | 星玉帳-Blue Letters-
【記憶】


土星の人が


21惑星の扉の向こうで


放った言葉を思い出そうとするたび、


あれは言葉ではなく歌だったのかもしれない、


歌ではなく視線だったのかもしれない、


視線ではなく沈黙だったのかもしれない、


と、


気憶の雨粒は


小さく細かく


霧になり


霞になり


蒸気になり


細胞になり


海になり


波になっては


岸を打つ。







#32.十三月

2018年03月22日 | 星玉帳-Blue Letters-
【十三月】


鏡の中


十三月の星で会った鳥が見えた。




鳥は鏡の空を旋回していた。




何か白いものがふわりと手元に落ちてきたので




星の人からの手紙だと思ったが




羽だった。




十三月の星に広がる荒野の色をした羽。




荒野にはいつも




羽が降っていたことを思い出した。




枕のそばに羽を寝かせ、




十三月の荒野をシーツに描いた。





#31.歌

2018年03月21日 | 星玉帳-Blue Letters-
【歌】


森の奥深い場所に行くと



羊を連れた少女に出会う。



少女は歌を歌う。



わたしは少女の歌を



言葉に書き記したくて



ペンを持つ。



が、



少女はわたしの知っている言葉で歌わない。




ペンを離し



じっと耳を傾ける。




羊も一緒に歌っていると気づく。





歌は森を出ると聞くことはできない。







#30.港

2018年03月20日 | 星玉帳-Blue Letters-
【港】


港のそばの図書庫。


ここで待ち合わせたのだった。



待ち人は船から降りてくるはずだった。



船は何便も着岸したが、



待ち人はどの便からも降りてこなかった。




何年も何ヶ月も船を待った記憶がいつもあり、




ここは待ち合わせ場所という場所になった。





船が着いた。




本を閉じ船を迎えよう。






#29.魚

2018年03月19日 | 星玉帳-Blue Letters-
【魚】


星樹の紅い酒を手に


海の見える丘に登った。


草の上に腰掛け飲んでいると、


陸に住むという魚がやって来た。


一緒に飲んだ。



彼のウロコはすぐにはがれるようで



ひらひらと風に飛ばされている。



魚が言う。


「まだウロコが残っているのです、なかなか陸に慣れなくて…


光りながら海に飛んでいく欠片は大方僕たちのウロコなのですよ」


と。






#28.桜

2018年03月18日 | 星玉帳-Blue Letters-
【桜】


宿のある町では、


桜の花はとうに散ってしまった。



21惑星で暮らしていた頃は、


毎日桜を見ることができた。


が、


今21惑星の花の季節は終わりを告げたことを、



星間便の船乗りから聞いた。



21惑星の桜で染めた布をトランクから出し、



ベッドにかける。



惑星の人の香りがした。





#27.破片

2018年03月17日 | 星玉帳-Blue Letters-
【破片】


光る小さな破片を拾った。


通りかかった牛乳店の配達人が



「これは陸で暮らすことになった魚のウロコですよ、


 彼らは慣れない陸で生きるために、


 一枚一枚からだのウロコをはがしていくそうなんです」



と教えてくれた。




陽にウロコを透かしてみると



透き通った青色と泡立つ波色が見えた。