DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

flake33.夢魔

2019年01月30日 | 星玉帳-Star Flakes-
【夢魔】


探し当てた橋を数歩往くとほろほろとそれは崩れた。


渡れない橋は橋ではなく静かに川に沈めるしかないと知ったのは


夢魔に会ってからだ。


水の絶壁で出会った刹那の叫びは歓喜だったのか絶唱だったのか。


全てを夢にする彼の鳴声の懐かしさに泣くが良い。


川底にため息を落とし続けながら泣くが良い。





flake33『夢魔』





flake32.紙束

2019年01月28日 | 星玉帳-Star Flakes-
【紙束】


紙の束を燃やす。


幾千の言葉が記された紙だったが


彼方の宿に向かうには重すぎた。


紙は湿気を帯びていたせいか


少し燃えてくすぶり煙を上げた。


火をつけ直し紙をくべ続ける。


燃えた言葉は煙となり


煙となった言霊はむせるほど熱く散らばる。


燃やし終えたら灰を集めよう。


惑星の丘に蒔くのだ。





flake32『紙束』




flake31.雪の札

2019年01月24日 | 星玉帳-Star Flakes-
【雪の札】


雪原の道中


北の星を彷徨う雪の札師に出会った。


見せてほしいと願うと


札師は雪の上に布を広げ幾枚か並べた。


中から一枚の雪札を選ぶ。


描かれた白の絵は何を、何処を、


指すのだろう。


尋ねようとする前に札は凍る。


氷雪の粒はひっきりなしに天から落ちてくる。


白が降り積もるばかりだ。






flake31『雪の札』





flake30.欠片工場

2019年01月22日 | 星玉帳-Star Flakes-
【欠片工場】


雪原の果てに欠片工場があるという。


星の欠片を集め粉々にする工場だ。


欠片の成分によって食用になるものもある。


白湯に食用粉を溶かして飲めばうんとあたたまります、


と旅で出会った欠片星の人は寒がるわたしにご馳走してくれた。


別れ際に握った手の温かさは星の成分のためだろう。





flake30『欠片工場』


flake29.星模様

2019年01月21日 | 星玉帳-Star Flakes-
【星模様】


窓のない部屋で壁の星模様をなぞっていた。


壁には砕けた星の欠片が埋め込まれていて


暗い部屋で仄かに光った。


土星の人と別れた時刻を幾度もそこに刻むのだが


そのたびに異なる数列が並ぶ。


別れは完璧に近い業だったのだ。


それを誉むならば


ここに時空を刻むことも灯りになりはしないかと。





flake29『星模様』



flake28.海幻灯

2019年01月18日 | 星玉帳-Star Flakes-
【海幻灯】


どこまで進んでも海の見える星だった。


風は強く波は高く。


高波の中に小さな影が一つ泳いでいた。


あれはもしやいつか冬の惑星で別れたきりの魚ではないか。


荒れた海を往く「それ」は今にも波間に消えそうな頼りない影だった。


一瞬こちらに向かい笑っているように見えたのは海の見せる幻灯なのだろうか。






flake28『海幻灯』



flake27.詩人の淵

2019年01月11日 | 星玉帳-Star Flakes-
【詩人の淵】


星を旅しながら詩人は言葉を埋めていた。


言葉は淵に深く埋めるものだと詩人は思っていた。


淵は行く先々に無数にあった。


が、詩人の言葉ほど不確かですぐに消え去るものはないことを詩人はよく知っていたし


その殆どは埋められるものではなかった。


星の淵ではしばしば詩人の骨を見かける。




flake27『詩人の淵』