DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

flake83.星図

2019年10月30日 | 星玉帳-Star Flakes-
【星図】


寝台の上に星図の描かれた地図を広げる。


夜の生き物たちの鳴き声を聞きながら


古びた紙の上に光る星をなぞった。


最果ての星で出会った楽士が作った歌が耳の奥で鳴る。


忘れたことのない歌。


今は星を渡る海にいるのだと


もう歌は作らないのだと


あれから一度だけ届いた手紙にはそう書かれていた。




flake83『星図』





flake82.面影

2019年10月25日 | 星玉帳-Star Flakes-
【面影】


太陽の落ちる方角へと進むと川があった。


向こう岸に「面影」が見えますよ


と教えてくれたのは川を往き来する鷺だった。


対岸は霞のようですと言うと、


鷺は一声二声笑い鳴き空に飛び去った。


あの岸に微かにぼんやりと見えるのは


霞ではなく。


瞬きの間に現れ消えるものたちの、


儚い「面影」なのか。




flake82『面影』

flake81.崖淵

2019年10月21日 | 星玉帳-Star Flakes-
【崖淵】


崖の多い星だった。


ある切り立った崖淵に立った時、


下に空が見えた。


底に空が見えるのはなぜ。


向こう側の崖で同じように下を見ている旅人がいた。


幻を歩きすぎましたからね、


と彼は言う。


しゃがみ込み天を仰いだのは幾度目か。


虚空の星と知ったのは幾度目か。


夢幻の狭間はこんなにも崖淵だ。




flake81『崖淵』







flake80.異世界

2019年10月16日 | 星玉帳-Star Flakes-
【異世界】


霧の中なのか雲の中なのか景色も道も見えない。


何かとすれ違うが人なのか動物なのか草葉なのかさえ分からない。


「…いせかいへ繋がりますよ」


霧の向こうで声がした。


ここが何処か何処かへ繋がるのか、


声は真実なのか、


分からない。


そのまま分からないまま。


晴れない靄に抱かれたままなのだ。



flake80『異世界』




flake79.リスの夢

2019年10月14日 | 星玉帳-Star Flakes-
【リスの夢】


森の奥深く棲むリスは歌を唄う。


森の風に聞いてほしくて歌い続ける。


がいくら歌っても歌は瞬く間にどこかへ流れ行方知れずになってしまう。


この頃リスは思う声が出なくなった。


そして夢を見るようになった。


風になり戻らぬ歌と吹く夢だ。


今宵もリスは夢をみる。


歌う代わりに夢を見る。



flake79 『リスの夢』


flake78.十三夜

2019年10月10日 | 星玉帳-Star Flakes-
【十三夜】


月明かりの海岸を歩いていると


陸に上がった魚に出会った。


魚は尾びれを砂の上に広げた紙にこすりつけていた。


絵を描いているのだという。


紙は黒一色に塗られていた。


長く憧れていた夜の水平線を描こうと、


と魚は十三夜の月に絵をかざす。


憧れも未完のままと嘆く魚に月色の粉が降る。




#78『十三夜』



flake77.楽園

2019年10月08日 | 星玉帳-Star Flakes-
【楽園】


星の港から今夜出港するのは楽園往きの船だ。


「持ち込める荷物は一つだけです軽量の物を」乗組員が叫ぶ。


乗客の列に見覚えのある人がいた。


彼はこちらに気づいたのか笑顔で手を振り船に乗り込む。


彼が持って往くものは何なのだろう。


去った港に懐かしい香りが残る。


船が消えてもそれは強く。




flake77『楽園』


flake76.手紙鳥

2019年10月05日 | 星玉帳-Star Flakes-
【手紙鳥】


風の強い日。


空を見上げると小さな鳥影が見えた。


大きく小さく弧を描きながら飛んでいる。


あれは天に手紙を運ぶ鳥ですよ風に乗って宙を昇り手紙の待ち人に届けるのですよ、


とすれ違った、地の手紙配達人が教えてくれた。


ああきっとあの鳥なのだ。


風の強い日に消える手紙があるのは。




flake76『手紙鳥』




flake75.時雨

2019年10月03日 | 星玉帳-Star Flakes-
【時雨】


雨は降っては止み降っては止みを繰り返していた。


この星に辿り着いて幾月流れただろう。


振り返り数えるたび数は違う。


まだらな冷雨は過ぎゆくものたちを追いかけてはまた逃げてゆく。


ただ濡れた体の置き場を探すこと出来るなら。


やがて星の果てにも降る雨を


愛しく抱くことができるだろうか。



flake75『時雨』