DayDreamNote by星玉

創作ノート ショートストーリー 詩 幻想話 短歌 創作文など    

drop92.砂漠

2023年10月30日 | 星玉帳-Deep Drops
【砂漠】


砂漠の兎は砂をかき分け


穴を掘っていた


なぜ


問うても兎は答えず



その姿がいじらしくて


一緒に掘った


星の瞬く頃


兎の姿は消えてしまった


やがて私もこの星を去る


もう会うことはない


砂に埋もれながら星を見た


会うことはないとわかっているものたちの


星を見た



drop92『砂漠』



drop91.星秤

2023年10月24日 | 星玉帳-Deep Drops
【星秤】


測るのは止めることですよ


と、星を渡る旅人の言葉を


明け方不意に思い出す


彼は今どの星にいるのだろう


いやもうどの星にもいないのかもしれない


いないということ


それは絶望なのか安らぎなのか


旅の途中


夜は明け日は暮れ


秤のない重力に埋もれてゆく




drop91『星秤』






drop90.新月船

2023年10月17日 | 星玉帳-Deep Drops
【新月船】


月の見えない夜


船は黒い海を進み


先には夜だけが広がる


船の中で出会った旅の楽師は


長い時間一つの曲だけを奏でている


幾時代も継がれてきた古い浪漫の歌なのだそうだ


波音に重なってはまた離れ


弦の音は海に放たれる


夜は深くなる



drop90『新月船』



drop89.水際

2023年10月12日 | 星玉帳-Deep Drops
【水際】


行き着いた水路は


入り交じった記憶のように幾つにも分岐していた


辿っていけば、会えると思った。


れだけでよかった、と思っていた


霞んだ水路の果ては


すぐそこなのか遥か先なのか


頑なな思い出を


握っては放し


握っては放し



drop89『水際』



drop88.夢現

2023年10月03日 | 星玉帳-Deep Drops
【夢現】


星の宿で長い季節を過ごした


毎夜夢を見た


おぼろげであいまいな


風景の連続が走ってゆく


古い日記のような夢だった


それは時という夢なのだと


覚めて気づく


夢現、流れるものに頼る根拠などなく


明け方の痛みだけが長く残った



drop88『夢現』