今年もまた嵐のアルバムレヴューの季節がやってまいりました。
今回は難産というか、いつもの様なレヴューが書ける自信がない(笑)
とりあえず、自分で納得できるだけ聴いて素直に思った事を書いてみます。
嵐
「untitled」(通常盤)
2017/10/18リリース
ジェイストーム
JACA-5685~5686
最初に通しで聴いた時にものすごく違和感があったのです。今思えば、その理由はハッキリしています。前作が素晴らしく自分の好みであった事。先行シングルのカップリングがこれまた好きな楽曲が多かった事。ここ数年の自分の音楽的嗜好としてアナログな生ドラムとエレキベースによるリズムセクションが作り出すグルーヴを好んでいた事。音数を詰め込みすぎない、隙間でグルーヴを出す楽曲が肌に合っていると感じていた事。
自分の音楽的趣味は常に一定ではなく、音楽を送り出す側も常に同じサウンドを繰り返す訳でもない。お互いのバイオリズムが噛み合う瞬間もあれば乖離が激しい時もあるという事ですね。
ただ、その違和感は何度も聴いているうちに薄れていきます。それは何よりもクオリティの高い楽曲を用意するスタッフと表現力をますます身に着けた彼らの力が感じられた事が大きい。
今回のタイトルが日本語で言えば“無題”とされている様にあらゆる方向に楽曲のタイプを振り回し、試行錯誤ではなく確信をもって軸をブレさせる攻めの姿勢が取れるようになったのは、間違いなく各人の歌の力が増しているからだと思うのです。
評論家の宗像明将氏がビートルズの『ホワイト・アルバム』のようだと喝破したのが一番腑に落ちる言葉でした。あらゆるジャンルを飲み込む多彩過ぎる音作りで賛否両論を呼んだビートルズ後期の問題作は今では個性的で質の高い楽曲の宝庫として評価される作品として歴史に名を刻んでいます。この「untitled」にも同じ様な匂いを感じる様になりました。
大好きだと自信を持って言える曲が満載という訳ではないけれど、クオリティの高い曲が詰め込まれているのは間違いないです。
収められているシングル曲は3曲とも、そんなに好みではないけれど(苦笑)
ただ、アルバム曲の中にツボにハマる曲があって、それは流石だなぁと思います。
「Green Light」はChristofer ErixonとJosef Melinが書いた曲をお馴染みの石塚知生がアレンジ。EDMだけどゴリゴリにベースが強い訳ではなくヴォーカルがちゃんと前に出る作り。この辺りは石塚氏の手腕を感じます。控えめながら存在感のあるべースは二家本亮介、カッティングが心地よいギターは福原将宜です。
「つなぐ」に関しては作曲:Peter Nord&Kevin Borg、編曲:Peter Nord&佐々木博史という布陣ですが、個人的には好みではないのは確か。佐々木氏らしいプログレッシヴなアレンジは健在。弦一徹のストリングスをあんな風にパーカッシヴに使う変態性も素晴らしいです(笑)ベース:松原秀樹、ギター:設楽博臣、三味線:小山豊、トランペット:中野勇介、トロンボーン:鹿討奏、テナー&バリトンサックス:村瀬和広、ストリングス:弦一徹ストリングスという豪華なバックも贅沢。
「未完」は作曲:Josef Melin、編曲:佐々木博史による超絶ミクスチャー。あらゆるジャンルを横断する構成は圧巻。ただ、個人的にはリード曲であるがゆえアルバムコンセプトを表現しようと詰め込みすぎたきらいはある。ギター:設楽博臣、トランペット:中野勇介・川上鉄平、トロンボーン:東條あづさ、テナーサックス:大郷良知、アルト&バリトンサックス:村瀬和広、ストリングス:弦一徹ストリングス。
「Sugar」は作曲:iiiSAK&HIKARI、編曲:iiiSAKによるダンスエレクトロ。この曲、大好きです。多分アルバム本体で一番好き。エレクトロなのにちゃんと隙間がグルーヴィでヴォーカルワークの見事さが半端無い。この歌割りは私的嵐史上ナンバーワンかも。ハモの組み合わせとか実に新鮮。そして相葉くんのファルセットが堪らんくらいアーバン。シングライクトーキングやスクープオンサムバディの様な佇まいも見えるオトナのメロウグルーヴです。コーラスアレンジのHIKARIさん素晴らしい。
「Power of the Paradise」に関しては何度聴いても慣れない(苦笑)作曲:nobby、編曲:ha-jの組み合わせ。タイアップの性格上仕方ないが、このタイプのJ-POPが肌に合わないのは如何ともし難い・・・バックの壮大なストリングスは弦一徹ストリングス、ギターは2008年の嵐ライヴのバンマス:奥田健治。
「ありのままで」は作曲がChristofer Erixon、Joakim Bjornberg、Atsushi Shimadaのコライト、編曲がAtsushi Shimada。オールドタイミーな鍵盤にソウル風味を感じるミドルポップ。大好きという訳ではないけどアルバムのアクセントとしてこの位置にあるのは納得。ギターは河合英嗣。
「風雲」は作曲がErik LidbomとSimon Janlov、編曲がmetropolitan digital cliqueというお馴染みの面子による疾走するロックアッパー。グルーヴよりもスピード感と勢いが強いのがちょっと苦手。でも色んなタイプの楽曲を、というコンセプトからは外せないんだろうなと。ドラムはハイスタンダードの恒岡章、ベースはレキシのツアーでもお馴染みの山口寛雄、ギター:設楽博臣、オルガン:板倉真一という4リズム。
「I'll be there」作曲:Fredrik "Figge" Bostrom&佐原康太、編曲:佐原康太&metropolitan digital cliqueによるスウィングジャズテイストのダンスチューン。ベース:渡辺等、ギター:設楽博臣、トランペット:中野勇介・川上鉄平・田中充、トロンボーン:鹿討奏・鳥塚心輔、アルトサックス:村瀬和広、テナーサックス:庵原良司、バリトンサックス:大郷良知、チューバ:松永敦というゴージャスなホーンセクションは圧巻だが、どうしてもキレより圧の感じが身体の揺れを止めるのが個人的には残念。
「抱擁」の作曲はVictor Sagfors&Peter Boyes&Caroline Gustavssonというあまり馴染みのない名前。しかし編曲は信頼の吉岡たく(笑)この曲も好きです。ミドルテンポでもきっちりグルーヴがあってキャッチーなメロディが生きる今のR&Bチューン。ギターのカッティングとベースラインが実に気持ちいい。
「Pray」は作曲:Erik Lidbom&wonder note<編曲:Erik Lidbomによる王道バラッドチューン。悪い曲じゃないんですが・・・ドラムに佐野康夫を使っているのが何故にこの曲なんだという気持ちはあります(苦笑)ギターは河合英嗣、ストリングスは室屋光一郎ストリングス。
「光」は作曲:久保田真悟・イワツボコーダイ・佐々木久美、編曲:久保田真悟という珍しく日本人だけのコライト楽曲。佐々木久美さんは長年、山下達郎のバンドでコーラスをされていた方でゴスペルにも造詣が深いのでクオリティの高いコーラスワークが堪能できます。心が弾む様なホーンはトランペット:吉澤達彦、トロンボーン:半田信英、アルトサックス&テナーサックス&ブラスアレンジ:本間雅人です。ベースは山口寛雄、ギターは設楽博臣、そしてゴスペルコーラスは佐々木久美(コーラスアレンジ)・TIGER・Lyn・佐々木詩織(久美さんの娘さん)、コーラスが草川瞬という布陣。ラスト1分のコーラスは少し泣きそうになります。良いメロディが染みます。
「彼方へ」は作曲:TAKAROT&iiiSAK、編曲:TAKAROT&河合英嗣による壮大且つ疾走するゴージャスな1曲。好みじゃないはずなんだけど、何故か聴けてしまうのが不思議(笑)というか、このアルバムはそのパターンがすごく多い気がするのです。その話は纏めで少し書こうと思いますが。
「Song for you」は作曲:Simon Janlov・wonder note・Kevin Charge・Erik Lidbom・SHIROSE・山下康介、編曲:山下康介というクレジットからわかる様に様々な曲調を盛り込んだ、ある意味で情報過多な一大組曲。しかし11分半という長さを感じさせずにさらっと聴かせてしまう、劇伴を数多く手掛ける山下氏のアレンジが流石です。そして、何よりもメロディが素晴らしいです。“出逢うべくして出逢い~”の辺りは本当に大好きなフックがあります。ゴージャス極まりないサウンドを支えるのは、ドラム:小笠原拓海(山下達郎のツアーメンバー)、ベース:須長和広(クオシモード)、ギター:遠山哲朗、ピアノ:佐々木博史、ストリングス:室屋光一郎ストリングス、フルート:高桑英世・森川道代、オーボエ:荒木奏美、クラリネット:中秀仁、ファゴット:長哲也、トランペット:西村浩二・菅坂雅彦・二井田ひとみ、トロンボーン:中川英二郎・半田信英、バストロンボーン:藤井良太、アルトサックス:吉田治・本間雅人、テナーサックス:庵原良司、バリトンサックス&フルート:山本拓夫、ホルン:ジョナサン・ハミル(東京交響楽団プリンシパル)・加藤智浩・小谷晋一・井上華、チューバ:柏田良典、ハープ:朝川朋之、パーカッション:萱谷亮一、大場章裕という完全にオーケストラな面々。贅沢に予算かけてるなと思います(笑)
ボーナスディスクに収められた5曲についても少し。
「バズりNIGHT」は作曲:A.K.Janeway・多田慎也、編曲:A.K.Janewayによる往年のパラパラ的エレクトロダンスチューン。しかしどうにも下半身が動かないタイプの曲なのが苦手。
しかし、次の「夜の影」が最高に素晴らしい。作曲:MIC・Soma Genda、編曲:Soma Genda・Captain Bによるチルでトロピカルハウスな色っぽいナイトR&B。ここでの大野智・二宮和也・松本潤のヴォーカルが本当に成長とポテンシャルを感じる訳です。
「UB」は 作曲:Samuel Waermo・Stefan Ekstedt・Didrik Thott、編曲:佐々木博史による温かみを感じるミドルポップチューン。ギター:設楽博臣、ピッコロトランペット:中野勇介、トロンボーン:鹿討奏、ホルン:柳谷信、ソプラノサックス:副田整歩、カヴァキーニョ&ブズーキ&マンドリン:田代耕一郎、パーカッション:土屋吉弘、ストリングス:弦一徹ストリングスによる壮大なバックトラックが如何にも佐々木氏のお仕事だなと感じます。
「Come Back」は作・編曲をSUPA LOVEの田中直が手掛けた粘るヒップホップチューン。ドラムに佐野康夫を使う贅沢仕様(笑)ギターは河合英嗣、コーラスは草川瞬です。
「カンパイ・ソング」は作曲:Kehn mind、編曲:河合英嗣による文字通りのパーティチューン。ドラム:恒岡章(ハイスタンダード)、ベース:TOKIE、トランペット:佐々木史郎・小林太、トロンボーン:河合わかば、テナーサックス:吉田治、バリトンサックス:鈴木圭、ブラスアレンジ:菊谷知樹。
ということでダラダラと書いてきた訳ですが、今の段階ではこのアルバムは評価が難しいです。確かに好みの楽曲が多い訳ではないです。でもちゃんと1枚聴ききれてしまう。好きな曲は何度も聴いてしまう。そういった意味で酷評するのも違う。今、決めなくても良いなと思わせる魅力もある。そういった意味でもチャレンジングな未完で無題のアルバムなだと納得する訳です。
そして、ちゃんと聴き切れてしまう最大の要因が彼らの歌にあるんだと思うのです。5人が皆、きっちりと歌の力を増している。ちゃんと心に響く良い声になっている。ポップスにおける歌は正確に歌うスキルが魅力ではないのです。勿論、彼らのスキルが上がっているのも確かですが、それ以上に歌を届ける事に長けてきたなと感じるのです。櫻井くんの歌は失礼ながらラップ以外の部分で魅力を感じる様になりました。とても素直に真っすぐ歌を届ける力に満ちています。二宮くんは色気溢れるファンクな楽曲にも力を発揮する様になり、ますます全体を支える圧の強さが増したと思います。松本くんはハモだけでなく主線での技法や表現力に成長を感じますし、元々音楽の趣味が良いのも相まって良い歌い手になったなと。相葉くんは本当に素晴らしいファルセットの使い手になったと思います。声のワシャワシャ感が若干引いたことで生来の声のクセが最高のフックになった。そして、高いスキルと表現力を持つ大野くんは周りの成長を受けて更に高みに行こうとしている。5人が5人、歌い手として強くなってるのをアルバムから感じます。このアルバムはもっと先を見据えた習作なのではないかと壮大な想像をしてみたくなる(笑)
ただのポップス好きのオッサンがこのアルバムを聴いて感じたのは、彼らのこれからが楽しみだなという期待です。今は落胆も嘆きも一切ありません。これからも折に触れ、私好みなグルーヴチューンが彼らのレパートリーに加わる事を楽しみにしながら待とうと思うのです。