きみの靴の中の砂

苦笑





 パリの東のはずれ ----- 深夜に小腹を空かせた雑多な職種の男女が淀み、沈殿する、一軒の終夜営業の飯屋でのことだ。

 表通りはすっかり人通りも絶え、その店のある街角だけが凍てつく夜の暖炉の熾火のように明るい。

 わたしはグラスワインを飲みながら、隅の席の観劇帰りと見える学生達が、声高に論争するのを聞くともなく耳にしていた。

「きみ達は、芸術に圧倒される瞬間を、ただひと言、『感動』で片付けるのか...」

 やがて、ベケットだのイヨネスコだのの名が聞こえてくれば、同好の士は、得てして同じ道を歩むものかと、目の前の冷めかけたグラタンの皿を見詰めながら、わたしは、思わず苦笑せずにはいられないのだった。




【The Jam / Town Called Malice】


 

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