夏の岬は、西南の風が吹く。
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簡易舗装こそされてはいたものの、その先の緩い上り坂は道幅が狭く、父のコテージの前庭へは小さな車しか乗り入れられなかった。止むなく父は、その家の200メートル手前・坂下の蜜柑畑の片隅を駐車場として借りた。
その春、免許をとったばかりのぼくが手に入れた、ボロボロの中古トライアンフもまた、そこに一緒に停め置かれることとなった。
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夏休みに入ると近所に住む旧知の水口イチ子がその小学低学年の弟を連れて頻繁に遊びに来るようになった —— この間まで中学生だとばかり思っていたイチ子は、来年はもう大学受験だという。
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ぼく達三人がトライアンフで遊びに出かける時、当初は駐車場までの下り坂を三人揃って黙々と歩いていたが、ある日を境にイチ子は、その片道に昔乗っていたという古いスケートボードを使うようになった。
「じゃあ、あとでね。お先に...。早く来てね」と言うと男ふたりを残し、彼女のボードは坂道を下って行く。その発するノイジーなベアリグの音を聞くたびに、その『あとで』が、わずか二分やそこらのことなのをいつもおかしく思ったものだった。
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イチ子達が帰ったあと、スケートボードは大抵、蜜柑畑の隅の給水栓に立てかけてあった。