きみの靴の中の砂

I feel Coke;





 週明け、大学の学食。

「昨日、コカ・コーラの CF 撮りのバイトがあったらしいよ」と写真学科のカットシがトレイを持ってぼくの隣に座りざまに言う。

 彼は山岳部で一緒のやつだ。

「そりゃあ初耳だ」とぼく。
「エキストラは、演劇と映画の演技専攻が指定だったらしい」と言うなり、「おい、これやる」と続けて、ランチの付け合わせにあるニンジンのグラッセをフォークで刺してぼくのコーヒーのソーサーに置く。
「おい、子供じゃないんだから、いい加減ニンジンくらい喰えよ」

 しばらくしてカットシが、
「おっ、いいとこにユベシが来た」と言って、同じ山岳部の映画学科で演技専攻の後輩を手招きで呼び寄せ、昨日の CF 撮りのバイトを話題にした。
「ああ、あのバイトのことですね。だいぶ前から学科事務室前の掲示板に募集ビラが貼ってありましたけど、弁当と交通費程度しか出ないっていうんで、みんな見ぬふりしてましたよ。学科の先輩に聞いたところでは、テレビには映るかもしれないけれど、拘束時間も長いし、美味しいバイトじゃなかったみたいですよ」。
「そうかぁ...。ところでユベシ、口開けろ、ニンジン入れてやるから...」とぼく。それを見てカットシが笑い出す。




I feel Coke;


 

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