きみの靴の中の砂

本気でそう言った夏もあったのだから...

 

 

 国際列車の窓を透かして遠くヨーロッパ・アルプスの山並みを数えた旅もあった。

 スイスのバーゼルを立って七時間余り...。車列は、かつて、戦争があるたびに国境線が何度も引き直されたという大地を進む。今、風のように流れていく風景は、ルクセンブルクかベルギー辺りか。

 車内では、もう何時間もドイツ語とフランス語が聞こえていて、時折、それに英語が混じる。

 列車は途中いくつかの国を経て、あと一時間もすれば、終着駅アムステルダム中央。

 車中で見た午睡の夢に出てきた人は、昔、激しい恋のさなかにあった頃のままの笑顔だ。
「広大な湿地帯を望むアムステル河の河口にダムを築いて、すっかり乾燥させた土地に作った街がアムステルダム...」
「それ、すごい話ね」と明るく笑う。

 目覚めれば、それから何億秒をも過ぎた今という現実。

 未練がましくてもいいじゃないか。いつまでも一緒にいようと本気でそう言った夏もあったのだから...。

 

 

 

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