きみの靴の中の砂

その耐え難い都会の孤独


カサノヴァセッテ / 夜の柳ヶ瀬


 一部のオールド・ファンの間でカサノヴァセッテの『夜の柳ヶ瀬』の話題が途絶えることはない。

 いまだに根強い人気があるところを見ると、当時、スマッシュ・ヒットと言える程には流行ったのだろう。だが、そのヒットもオリコンが創刊される二年前のことだから、詳細なデータは不明と言う他ない。比較的知られていることと言えば、『ヒデとロザンナ』のロザンナがイタリアから呼び寄せた、彼女の叔父と兄の作るバンドであることくらいか。ジャケットに写っている人数は、グループ名どおり確かに七人だが、左端にいるキャシー中島によると、自分は歌っておらず、撮影時に加わっただけだとか。フィーチャーされている女性コーラスもスタジオ・ミュージシャンだし、録音時に実際頑張っているのは、ボーカルでもあり、ベースマンでもある、ロザンナ兄ひとりと言って過言ではない ---- ロザンナ兄は妹同様、日本語が堪能のように思うかもしれないが、実は歌詞は丸覚えであったという。
 編曲には、イタリアの音楽学校出のロザンナの叔父さんが噛んでいる。そのせいか、当時の日本のグループ・サウンドに比べ、遙かに垢抜けているのが売りだ。

 ところで、とことん調べたつもりなのだが、作詞作曲の柴田博が全く不明である。いったいどこの誰なのか。生涯でたった一曲、その日の目を見た曲がこの名曲だとすれば、なんて誇らしい人生を歩んだ作曲家なのだろうと、すこぶる羨ましく思える。

 柳ヶ瀬 ---- 中部日本最大の歓楽地。東京で言うなら、歌舞伎町とでも言うのか。一晩に何万人もの人が過ごす街であるのに、四番の歌詞にある、『孤独な街だよ、柳ヶ瀬の夜』は、胸を打つ。無人島にひとりぼっちの孤独とは違う、何百万人も暮らす都会での、その耐え難い孤独を歌っているからである。


 

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