偶然の一致か、日本の一般的な古書店と英国のそれとはほとんど同じ形態の店作りで小商いの域を出ない。
ところが米国の古書店となると日本では極めて特殊な部類に入る稀覯本専門店が主流となる。それなら昔出た本を安価に読む手立てはないのかというと、そういうのは図書館へ行けば備わっていることがコンセンサスとなっている。だから日本と違い、古典でも複数冊、ベストセラーとなると十冊、二十冊が書棚に並んでる。
図書館と利用者との距離が一番近いのは、システム的に、やはり米国ということになりそうだ。
ところで、この間、こんなコラムを読んだ。
「アメリカの古書市(業務用のマーケットで、シロウト個人が足を踏み入れるようなところではないらしい)にイアン・フレミングの007シリーズ第一作『カジノ・ロワイヤル』の初版が13万ドルで出品され、デイーラー達は誰も手が出せずに泣いていた」とか。
イチ子さんとそのコラムを話題にしたときのことだった。
「アメリカでは古書も立派な投機対象になるんだね。しかし、180万円くらいするってすごいよね」とぼくが言うと、昼に食べようと、キッチンできつねうどんの油揚げを煮ていたイチ子さんが振り向きざまに言う。
「どういう計算をしてるの、ゼロがひとつ足りないわよ」