フィレンツェから地中海に出て、海岸沿いに南下してローマへ行こうと考えていた。
『リヴォルノまで50㎞』の道標。
ある、さびれた村のガソリン・スタンドでのことだ。
前期高齢者と見える主人が、ぼくの乗ってきた車がドイツのレンタカー・ナンバーなのに目ざとく気付く。
「ドイツのどこから来たんだい?」と昔学んだらしいドイツ語で聞く。
「フランクフルトからです」
ぼくも下手なドイツ語で答える。
主人によると、ドイツからアルプスを越えてイタリアに入る外国人は、通常、飛行機で鉄道はめずらしく、ましてや車で旧道を来るのは滅多にないと感心していた。
「それで、この先はローマまで行くんだね?」
「はい」
「先は長いよ。それにしても、旧道を車で行くとは、いい旅行だ」と言いながら、片目をつぶってみせる。
*
乾燥した黄土の大地に冬の陽射しを映して、古くローマ時代からの道が続いている。