「サンラータンって言うのが正しいのかスーラータンて言うのが正しいのか発音が良く分からないけど、あの酸っぱ辛いスープの麺がとっても美味しいお店があるのよ」とふたりで出かけた市民芸術祭の帰り道にイチ子が言う。
「それって酸っぱいって言う字に、ラー油の辣にお湯と書くやつね。あれって好き好きがあるみたいだけど、好きな人はトコトンはまるらしいよ」とぼく。
「普通、辣油は好みで垂らすらしいんだけど、私が知ってるそのお店のは、スープの表面が辣油で初めっから真っ赤っかよ。それにお酢が好きじゃない人だと湯気でむせちゃって、息も出来ないくらいよ。それでもお店のオバチャンに聞くと、本場の四川には、もっとすごいのがあるそうよ」
にわかに話が面白くなってきた。
「そのお店って、これから行けるようなところにあるの?」とぼく。
「そう言うと思った。帰りのバスを途中で降りるだけだから、勿論行けるわよ」 イチ子がニヤッと笑う。
ランチは二時間以上前に市民祭に知人が出していた出店のホットドッグと珈琲だけだったから —— 酸辣湯麺 —— 食べる気満々になった。
「じゃあ、行こう!」 そう言ってぼくは、イチ子の背中を押すのだった。
【The Beach Boys - Devoted To You】