きみの靴の中の砂

遠刈田温泉で出会った子





 身長十センチばかりのこの子とは、宮城蔵王の湯治場・遠刈田(とおがった)温泉のはずれの、古い、小さなこけし屋で出会った。

 こけしと言うと、求める際についつい手頃な大きさを超えたものを選びがちで、持ち帰ってみれば、到底机上など手近に置くには大きく、だからと言って飾り棚などに置かれるならまだしも、遂にはどこかに仕舞い込まれてしまうものも少なくなかろう。

 かねてから机上に置ける小さなこけし ------ 掌に包み込んでしまえるほどのもの ------ をひとつ欲しいと思っていた。

 こけし屋の主人の言葉から察するに、この子は、もともと商品として生まれてきたわけではなかったようだ。言わば『木っ端』の中から拾われた材で店主が暇つぶしに作り、小さいので高額では売れなかろうと、包装材などが並ぶ雑用棚の一隅にあたかも隠し置かれるために生まれたかのような生い立ちが想像された。

 指差して、
「あの子を頂戴したいんですが...」と頼むと、店主はいささか困ったような素振りを見せた。
「売りもんじゃないんですよ...。ただ、こういうものもありますよという、飾りにおいてあるだけなんです」のようなことを宮城県でも更に田舎の言葉で言ったようだった。ぼくは諦めなかった。
「机の上など、いつでも手に取れるところに置いておきたいんで、どうしても小さいのが欲しいんです。いかほどでも構いませんから、是非、譲って下さい」
 そこまで言うと、店主は、ようやく重い腰を上げて応じてくれた。
「じゃあ、千円ほど...」

 店主が薄い柔らかい紙にくるんでくれようとしたので、ぼくはそれを制し、
「ポケットに入れていきますから、そのまま裸ん坊で下さい」と頼んだ。

                    

 それ以来、この子はいつもぼくの書き物机の、すぐ手の届くところにいる。




【The Monkees - The Girl I Knew Somewhere】

 

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