ぼく達はみんな、彼のことをJackと呼んでいた。家族はいない(ように見える)五十なかばのハーフ・ブラッドで、お金は持っているように見える。
いち日数回、英語で、電話に向かって何か指示を出すのが彼の仕事のすべてのようだ。
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プール付きの彼のビーチハウスは、那覇から車で二時間ほどの小さな岬にあって、目の前は狭く小さいがプライベートビーチだという(法規的には非合法のはずだが...)。
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コンクリートを敷いたプールサイドに張られたキャンバス地のシェードの陰。
「誰も、いつまでも同じ場所にとどまってちゃあいけないんだ」とぼくが、ある小説の和訳を読み上げると、振り向きざまにイチ子が何か言おうとした。
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プールの向こう側の開け放ったビーチハウスではJackの新しいガールフレンドだという、ソバカスだらけの日焼けした肌にクリーム色の水着がよく似合う長いブロンド髪の白人娘 —— 見た目では英語しか話せないように見えるが実は日本語しか話せないらしい —— が、ケースからアルト・サックスを取り出すのが見えた。