カール・サンドバーグの『シカゴ詩集(岩波文庫 安藤一郎・訳)』の一篇『霧(Fog)』------ シカゴ特有のあの濃い霧が、のっそりと『遅い猫の足取り』で都市に覆い被さる頃の街が語られる。
ところで、ぼくが住むのは、大河多摩川の支流沿い。川と多摩の丘陵地との地形の兼ね合いから、春先や晩秋の急に冷え込む夜、シカゴのような幻想的な霧が湧く。太平記に当地の小名として『霞ノ関』と記されているくらいだから、もはや名物と言っていい。もっとも昨今、気候の変動からか、その霧にもご無沙汰がちだが...。
***
川端にかつて老夫婦が住んだ戸建ての古い家があって、ふたりが向こう岸に旅立ったあと、だいぶ長いこと空き家になっていた。その間、それを知ってか知らずか、縁の下で野良猫の一家が慎ましい生活を送っていた。
ある春の深い霧の夜、仕事帰りに、その家の門口に至極ありふれた赤い呑み屋提灯がポツンと灯っているのに気付いた。
誰かが居酒屋を始めたようだ。ひょっとしたら、あの野良の一家が商いを始めたのかもしれないと、ぼくは空想してみた。だとすれば、女将も板前も野良なのだから、お品書きや仕入れ先もにわかに想像できる。
さすがに、店に入る気は起きなかったものの、なんだか、次第に可笑しさだけが込み上げてくるのだった。
「(ガラガラガラ) ひとりだけど、いい?」
「へいーっ。いらっしゃいませナンだニャ!」
【Jorma Kaukonen - Embryonic Journey】
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