きみの靴の中の砂

軽蔑

 

 

 その五つか六つ年上の女の人の愛車は、葉山に住む彼女の叔父さんからのお下がりという古いアルファ・ロメオのジュリエット・スパイダー —— どこか昔の日野コンテッサに似ている。

 車が車だけにメンテナンスに費用がかさむらしく、彼女は普段から、結構、節約のオーラをまき散らしていた。最早日本では手に入らなくなった部品は、知り合いの鋳物工場に頼んで一点ものとして作ってもらっているらしい —— 小さな部品でもひとつ十万円は下らないと噂で聞いた。

 ところが、お金がないという割りには、車のダッシュボードにコクトーの『ポトマック』の原書なんかが雑に放り出してあったりするから、ぼくらとはお金の使い方が違うのは明らかだった。

 あの頃、週末に森戸海岸のドライブインシアターへ行けば、彼女の車は必ず見つけられたし、そのあと、ユージさんのビーチクラブでハーヴェイ・ウォールバンガーなどを飲むときは、車はクラブの駐車場に置いたまま、帰りは、電話で呼んだ知り合いの男の車で家まで送ってもらっていたようだった。

 さて、その夜の映画は、日本での配給会社の上映期限が切れるというゴダールの『軽蔑』。ぼくは、彼女の車の後ろに、持ち出した父親のクラウン・2ドア・ハードトップを駐めていた。

 オープンリールテープのモノラル音源のような単調な音がチープなスピーカーから聞こえていたっけ。

 

 

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