かつて愛した人の面影を追って旅した日々があったという。
すっかり人気の絶えた夕暮れのビーチを、遙か南の海で生まれた風が、優雅に大王椰子の葉陰を揺らしていく。
あの頃、耳元に聞こえていた甘いささやきと吐息に心も弾んだ朝があったではないか。だから夜が来る度、ポツンと取り残された甘美な想いは、孤独なうちにも夢見心地なひとときを求めたに違いない。
橙色よりは少し白い、トーチの残り火色の太陽が、ハイビスカスの真っ赤な花の色にも似た夕映えの水平線に落ちて、これから始まる宵が、ひょっとして軽やかな恋の予感に満ちあふれたものになるかもしれないと思えたのは、ストロー・ハットのつばの先に、波音がぶら下がるように聞こえていたわずか何分か前のこと...。
常夜灯代わりにホテルの庭先に燃えるトーチの炎で、この切ない夜を密かに燃やしてしまえば、何もかも振り出しに戻るのではないかと考えたのは、気丈を装いたがる女心からだったかも知れない。
【Frankie Bleu - Just For You (Suzanne's Song)】
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