きみの靴の中の砂

『きみが大事だ』と言って!





 さて、ぼくが雑踏に身を置いているとわかっている日、彼女からメールが届く ------ 「今すぐ、そこから『きみが大事だ』と携帯で言って!」
 だから、ぼくは電話を掛け、彼女が電話に出るなり、そう言う。
「どこで、そんなことを言ってるの?」
「路上。銀座三丁目交差点で信号待ち...」
「まわりに人がいっぱいいるんでしょ?」
「うん、沢山いる」
「バカじゃないの !? そんなところで言って」
「ホントのことだから、どこでだって言えるよ」
「そんな所じゃ、ホントのことは照れ臭くて言えないはず。大事だなんて嘘でしょ !?」

 では、その逆の場面。

「こんな公衆の面前で、そんなこと言えないよ」
「ホントは、そんなこと思ってないのね? ホントに思ってたら、どこでだって言えるはずよ」

                            ***

 分かれ道があって、どっちへ行っても落とし穴のある人生ってあるもんだ。


 

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