きみの靴の中の砂

その頃になれば





 久し振りの休日に渓流釣りに出かけると言ったら、イチ子さんが「特別サービスよ」と早起きしてオムスビを握ってくれた。

 イチ子さんのその手付きは、ぼくの祖母のそれに良く似ている。

 それを明かすと、「へぇ、そうなんだぁ」と妙に感心した口調で彼女が答える。
「それで、どっちが美味しいの?」
「おばあさんの方が、もう少しふんわり握っていたかな」
「だったら、あと三十年待ちなさいネ。アタシも年を取って手の力が抜けてきたら、おんなじように握れるかも知れないから...」

 でも、その頃になれば、イチ子さんの方が、ずっと上手にオムスビを握っているようにぼくには思えるのだが...。




Dr. Hook / When you're In Love With A Beautiful Woman


 

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