人気のない、むしろ謎めいた海へ行くのだと、水口イチ子が旅の計画を話したのは、去年の夏が、まだ至るところに踏みとどまっていた頃のことだ。
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今年それは叶えられ、この半島の海沿いに点在する漁師町の中でも、とりわけ交通の便が悪く、意図せずには見つけようもないこの浜にたどり着いたのは、むしろ(奇跡に近い)偶然という他なかった。
不揃いな天然真珠の破片を集めたような白砂の、この人知れぬ浜に遊ぶのは、地元の子供達か、あるいは近隣にできたという別荘地の滞在客、または古くから旅の商人を相手にしてきた、たった一軒の宿の宿泊客 —— つまり、ぼくとイチ子以外にはいなかった。
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砂丘を降った先の行きつく海で、南中にかかる太陽の光が海流に揉まれたはずの浜辺の砂と戯れ、その反射光が居合わせた人達の目を一斉に細めさせる頃 —— 宿から浜までの歩いてわずか五分、六分だというのに —— 先を行くイチ子の水着の肩が早くも夏の陽に焼け、薄赤く染まり始めているのをぼくが気付かないわけはなかった。