浅間山の裾野を追分の郵便局へ下った帰り、ぼくは駅前の商店に自転車を駐め、井戸からタライに汲み上げられた浅間山の雪解け水に、壜ごとどっぷり浸けられたサイダーに手を伸ばそうとしていたときのことだ。
見上げる夏空には、立ち上がった王様のような巨大な積乱雲。
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今し方停まっていた信濃鉄道の列車から降り立ったのだろう、駅頭に立つ、姉妹と見える二人の少女に偶然にも目が止まった。
どちらも初めて見る顔で、それぞれに籐で編んだ白いバスケットを携え、お揃いの白い帽子をかぶっていた。
服装は旧軽あたりの観光客とは異なり、村の別荘で避暑する人達同様、洗濯の行きとどいた何気ない夏の普段着姿が目に馴染んだ。
背の高い方はぼくと同い年くらい、妹には、まだ中学生らしい幼さがあった。
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半世紀も前のある年の夏休みの出来事...。
【Timothy B. Schmit - So Much in Love】